第57話 嫌がらせ
キルスとキレルが領都バイエルンにやってきて1週間が過ぎようとしていた。
キルスはというと、変わらず討伐依頼や採取依頼をこなしていった。
そんなある日、キルスは夕方、夕食をトルレイジ亭で食べようとやってきていた。
「んっ?」
店に入ると、何やら従業員があわただしく店内を右往左往していた。
「あっ、キルス兄さん、おかえり」
「ああ、ただいま、何かあったのか?」
キルスはキレルに尋ねた。
「うん、ちょっとね。ねぇ、キルス兄さん、助けてあげてよ」
キレルの上目遣いのお願いであった。
キルスもなんだかんだで、妹を可愛いと思っているためにそれに弱かった。
「助けるって、何をだ」
だが、事情が分からないことには助けようがなかった。
「えっとね」
それから、キレルが説明をした。
それによると、近々この街では3年に1度行われる大きな祭りがある。
それは、コントラル祭と呼ばれ、三日三晩大いに騒ぎ、飲み食べるものだが、実はこれは古くからこの辺りに伝わっているもので、誰一人由来もなぜ3年に一度なのかもわからない、しかし、誰もそのことを気にはしていない。
もちろん、領主であるバラエルオン伯爵家では何度か歴史を紐解いて調べてみたことがあるが、全く記録に残っておらず、昔からある祭りであるということや、その祭りの名がコントラル祭であるということや期間などしかわからなかったようだ。
まぁ、それでも、その存在はキルスも知っていたし、楽しみにしていた。
そして、それはトルレイジ亭などの食堂や商人達にとっては戦場と同じことになる。
トルレイジ亭は毎回出店し、多くの売り上げを出している。
今回も出店する予定であり、数日前から準備をしていたのをキルスは知っていた。
「……それで、食材が手に入らなくなっちゃって」
「食材? でも、それって、前から手配していたんじゃないのか」
キルスもファルコ食堂の息子、それぐらいはわかっていた。
「そうなんだけどね。いつも仕入れを任せている商会から、さっき突然仕入れることができなかったって、商会長自ら謝罪に来たんだ」
ここで、オルクがやってきて説明の補足をしてきた。
「ずいぶんと急だな」
「そうだね。僕たちも驚いたよ」
その後のオルクの話によると、なんでも、その商会は今朝まではその食材を仕入れる目途が立っていた。
だが、今朝になって急に仕入れるはずの食材がすべて買い占められたという。
「買占め? いったい誰が?」
純粋な疑問であった。
「アクレイド商会の奴らだ」
ここで、今度はデイケスが悔し気にそういった。
「なんでまた、そいつらがそんな嫌がらせみたいなことを?」
食材を直前になって買い占める、明らかな嫌がらせであった。
それから、デイケスとオルクが説明した。
それによると、アクレイド商会はトルレイジ亭と同じく大衆向けの高級店アクレツ亭という店を経営している。
つまりは、トルレイジ亭とはライバル関係にある店というわけだ。
ちなみに、アクレツ亭ではトルレイジ亭が始めた水と濡れタオルのサービスを真似している。といっても、それらは食事代などに上手く上乗せされている。
「なるほどね。そういうことか」
「ねっ、だからさ」
キルスはキレルが何をお願いしているのかすぐにわかった。
「わかった、でも、ちょっと時間をくれ」
「?」
キルスとキレルの会話を聞いて、オルクとデイケスは揃って首を傾げた。
「兄さん、ちょっと部屋を借りていい」
「部屋? いいけど、どうするんだい」
「ちょっとね」
それから、キルスとキレル、オルクの3人は一旦オルクの部屋へとやって来た。
「それで、どうするの。それに、キルスが助けてくれるってどういうこと」
「ああ、それは、後で説明するよ。多分、話すことになると思うし」
「う、うん、わかった」
それから、キルスは、兄妹しかいないということもあり、普通にマジックストレージから紙を取り出した。
「えっ、どこから」
オルクは突然何処からともなく現れた紙に驚きながらも、後で説明するというキルスの言葉を信じ何も聞かなかった。
「……さてと、こんなもんか」
キルスは紙にファルコ宛の手紙を書きあげて、それを一度読み直して確認する。
それをマジックストレージ収めるわけだが、その時ファルコに届くようにイメージする。
すると、手紙はファルコ専用フォルダに収められた。
そうして、少し待つと、それがふっと消えた。
(どうやら、父さんが気が付いたみたいだな)
「後はちょっと、待つか」
「うん」
「なんだか、よくわからないね」
オルクだけはわからないようである。
……
……
それから、しばらくして、マジックストレージの中に、キルス宛の手紙が2通追加されたのであった。
「来たみたいだな」
そうして、キルスはその手紙を取り出した。




