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第56話 3人寄れば姦しい

 午前中で討伐依頼をこなしたキルスはその報告のために一旦ギルドに戻った。

 そこにはタニヤが当然居り、昼食を一緒にどうかと誘われた。


 そんなわけで、タニヤとともにトルレイジ亭へと向かったのだった。


「トルレイジ亭はちょっと高いからあまり行けてないのよね。ニーナがいたときは、オルク君だっけ、いたから、よく行っていたけれど、私1人だとね」


 トルレイジ亭は数多く飲食店があるバイエルンでも比較的高級店に分類される。といっても、別に貴族向けというわけではなく、大衆食堂の中でもという話となる。

 その理由は、店の大きさだけではなく、やはりオルクが持ち込んだ濡れタオルと水のサービスが理由だ。

 ちなみに、このサービスは貴族向けの高級店でも真似されているが、そこでは有料となっている。


「そうか、ニーナ姉さんが研修に来ているときって、兄さんはすでにこの街にいたんだっけな」


 ニーナが受付嬢の研修のためにこの街の滞在したのは4年前の半年間、オルクが5年前から修行をしていることを考えると、そういうことであった。


 そんな話をしながらキルスとタニヤはトルレイジ亭に入った。


「いらっしゃい、あら、キルス君」

「キルス兄さん、おかえり」


 入ってきた客がキルスであることを見たラナは笑顔で向かえ、その隣で同じく仕事を手伝っているキレルがそんな兄を出迎えた。


「ただいま、キレルも手伝っているのか」

「うん」

「お客さんだし、お手伝いはいいよっていったんだけどね」

「だって、他にやることないし、それに家でもやっているし、でも、こうしてみると、ここって大きいよね。家よりお客さん多いし」

「そりゃぁ、領都だからな」

「あっ、それでも、午前中は、キレルちゃんと街を歩いてきたのよね」

「そうそう、すっごく楽しかった」


 そういって2人でねーと言い合っていた。


(どうやら、仲良くなったみたいだな。それはよかったといったところか)


「それで、キルス兄さん、その人は?」


 ここで、キレルがタニヤを見てキルスに尋ねた。


「ああ、彼女はタニヤといってこの街のギルドの受付嬢をしているんだよ」

「受付? ニーナお姉ちゃんに言いつけるよ」


 何かキレルが誤解しているようだ。


「なんでだよ。そうじゃなくて、そのニーナ姉さんの友人だそうだ」

「ふふっ、初めまして、タニヤよ。あなたがキレルちゃんね。ほんと可愛いわ。ニーナから聞いているわよ。今日は、あなたたちからニーナのことやあなたの兄弟について聞きたいって思って、キルス君と一緒したのよ」


 とここで、タニヤが微笑みながらそういった。


「そうなんだ。私もニーナお姉ちゃんのこと聞きたい」

「あら、それじゃ、ニーナがこの街に来たところから話そうかしらね」


 それから、タニヤとキレル、ラナの3人で姦しく話し始めた。

 そして、それを横目に食事が運ばれるのを待っていると、オルクがキルスの食事を持ってやって来た。


「なんだか、にぎやかだと思ったら、タニヤさんだっけ、来ているんだね」

「ああ、ギルドでの俺の担当受付になったんだよ。どうやら、ニーナ姉さんが手紙で頼んだらしい、主に俺の監視に……」

「はははっ、キルスも監視だらけだね」

「ほんとにね」


 キレルがこの街に来たのは、キルスが無茶をしないようにの監視と、ラナを見極める為だ。そして、ニーナから頼まれタニヤもまたキルスの監視となった。


「そんなに俺って、信用ないのかな」

「うーん、キルスの場合は、無茶に巻き込まれやすいからね。ほら、5歳のころとか、この間だってそうだったんでしょ」

「返す言葉がねぇよ。それ」


 それでも、そうそう無茶に巻き込まれたくはないキルスであった。


「ははっ、キレル、キレルもお昼にしたら、ラナさんもタニヤさんもどうぞ」

「うん、今行く」

「あっ、ごめんなさい」

「あら、ごめんなさいね。オルク君も久しぶりね」

「はい、お久しぶりです。タニヤさん」


 それから、キルスとキレル、ラナとタニヤは同じテーブルで昼食を食べることになった。


「おっ、そういえば、これキレルの水か」


 キルスは一杯目が無料の水を飲んでそういった。


「へぇ、わかるんだ」

「ああ、家の家族はみんな水魔法で水を出すからな。魔力水の味もそれぞれ変わるんだよ」


 魔力水というのは、魔法で出した水のことで、そのためか魔力がこもった水のことである。

 キルス家族は全員この水魔法で魔力水を出すことができ、魔力水とは込めた魔力量の分味がわずかに変化する。

 そして、いつも魔力水を出すキルス家族は慣れているために毎回同じぐらいの魔力を込めることになる。

 だから、味によって誰が出したのかがキルスにはわかるのであった。


「なるほどね。そういうものなんだ」

「といっても、それがわかるのは、僕たちぐらいだと思うけどね」


 ここで、オルクがそういった。

 それもそのはず、しょっちゅう家族の出す魔力水を飲んでいるからこそ、キルスがわかったに過ぎないのだ。


「それでも、凄いわよ、わたしなんておいしいってことしかわからないわよ」


 ラナが自嘲気味にそういったが、それは食堂の娘としての恥ずかしいと思ってのことだ。


「それがわかるだけでも凄いと思うけど、私は全くわからないんだけど」


 ここで、タニヤが訳が分からないという風にいう。


「私はね。キルス兄さんとお母さんの出した水はわかるよ。すっごくおいしいから」

「あら、そうなの」

「ああ、それは多分母さんとキルスの魔力量が膨大だからだろうね。その分おいしんだよ」


 オルクも懐かしそうにそういった。


「へぇ、ちょっと飲んでみたいわね」

「そうね。キルス君、出してもらってもいい」

「私も、キルス兄さんのお水飲みたい」


 ラナとタニヤ、キレルに懇願されキルスは仕方なしにオルクから受け取ったコップに魔力水を出すのであった。


『水よ』

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