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第55話 同伴

 領都のギルドに行くと、そこにはニーナの受付嬢研修時代に知り合い、親友となったタニヤがいた。

 そのタニヤにニーナからの手紙を渡すととたんに態度が親しみのあるものへと変わり、ニーナのようにキー君と呼ばれたキルスであった。

 とまぁ、そんなやり取りをしたものだから、キルスの後ろに並んでいた獣人族からは恨めしい目で見られていたが、そこは特に気にはしていないキルスであった。


「それじゃ、そろそろ、後ろが閊えているから、仕事に行ってくる」


 後ろからの恨めしい目はいいとしても、閊えているのは気になったので、キルスはタニヤに一旦の別れを告げて受付を離れた。


「ええ、行ってらっしゃい」


 タニヤは、親しみを込めて手を振りながら見送った。

 尤も、この行動にも獣人たちは憎々し気な表情を向けてきたわけだ。

 ちなみに、獣人たちは勘違いをしているが、タニヤにとっては親友の弟で自身にとっても、しょっちゅう話を聞いていた為に親しみがあるだけである。



 そんなタニヤと別れたキルスは、さっそく街の外に出かけていた。


「さてと、確か、場所は、ここから街道沿いに行ったところだったな」


 今回キルスが受けた依頼は討伐依頼で、その対象の魔物はトレント、木の魔物である。

 そのトレントがいる場所は、バイエルンから、街道を1時間半ほど進んだところにあるガエンナの森の中となる。

 こんな街からすぐの場所にトレントなどという、脅威度Dの魔物が居てもいいのかと思うが、こればかりは仕方ない、それも踏まえた上でバイエルンでは防備をしっかりと固めている。


 そうして、街道を進むこと1時間半、キルスは目的の森を見つけた。


「ここか、じゃあ、さっそく入ってみるか」


 気軽な様子で森に足を踏み入れるキルスであったが、これは通常はありえない、本来なら警戒しながら、緊張の面持ちで入らなければならない森である。

 それでも、キルスが近所のコンビニに行くような気軽さで森に入っていったのは、ひとえにキルスが強いからだ。キルスの強さなら、この森の魔物が一斉に襲ってきたとしても対処できてしまうだろう。


 森に入ってしばらく、キルスはようやく目的のトレントを見つけた。


「あれがトレントか、前世では、よくゲームとかで見かけたけど、実際に見るのは初めてだな。というか、ほんとに木だな。それにキモイな」


 木に顔が張り付いて枝をうねうねと動かしている、実際に見るとかなり気持ちの悪い魔物であることに、キルスは顔をしかめていた。


「まぁ、サクッっと倒してしまうか」

「グォォォォォオ」


 キルスに気が付いたトレントが、うなり声をあげた。

 しかし、その時にはすでにキルスが肉薄しており、あっという間に真っ二つとなったのである。


「よし、いっちょ上がりっと」


 剣を仕舞いながらあまりの弱さに拍子抜けしていた。


「そういえば、トレントって建材にもなるんだよな」


 トレントの体というものは魔力をふんだんに含んでおり、建材とすると堅固となる為に、高値で取引されることもある。


「さすがに街で売れないけど、持っておいて損はないか」


 マジックストレージの存在を秘密とするために、トレントのような大きな素材を街で売ることは難しい。

 とはいえ、通常大きな素材を売るために馬車を用意して、それにのせて持っていけば、当然売れるわけだが、キルスはそこまでしようとは思わなかった。


「売らなくても、金には困ってないしな。それに、何かに使うかもしれないし」


 ということである。


 それから、キルスはトレントを10体倒して、それらをマジックストレージに収め、街に引き返していったのであった。



「あら、おかえりなさい、どうだった」


 キルスはギルドに入ると当然の如くタニヤの元へと向かった。

 実は、ニーナからもバイエルンで仕事をする場合はタニヤに頼むように言われていたし、何よりタニヤ自身もニーナからの手紙によりキルス担当となったのである。


「ああ、終わったよ。これ、討伐証明部位」


 そういって、キルスは木片を10個タニヤに差し出した。


「えっと、ちょっと待ってね。確認するから」


 そういって、タニヤは木片を近くにある魔道具の中に入れた。

 すると、魔道具が起動し木片を調べる。

 これは、木片から出る魔力の波長を調べており、それらが別の波長を出しているかを見ているのだった。


「……うん、確認出来ました。確かにトレントの木片10個ですね。依頼達成です」


 いくら親しみがあってもこういったことはちゃんとした口調を使うようだ。


「そうか。それはよかった」

「それじゃ、これ、報酬ね。確認して」


 報酬を出す時は戻るようだ。


「ああ……確かに」

「あっ、そうだ、キルス君、……キー君、どっちがいいかな」

「いや、どっちでもいいけど、なに?」


 タニヤはキルスの呼び方でキルス君か、ニーナと同じくキー君かどっちがいいか悩んでいるようで、キルス本人に尋ねた。


「えっと、それじゃ、キルス君でいいかな。ああ、そうそう、キルス君お昼はどうするの」

「昼、一応トルレイジ亭で食うつもりだけど、兄さんと妹がいるし」


 キルスは街にいる間は、なるべくトルレイジ亭で食べるつもりだった。


「そうなんだ。って、妹、妹さんも来ているの」


 タニヤはちょっと食い気味でキルスに尋ねたために、さすがのキルスもちょっとだけ後ずさった。


「あ、ああ、キレルっていう家の次女だけど……」

「キレルちゃん、ニーナが可愛いって言ってた子ね」

「お、おう」


 ニーナはキルス兄弟は皆可愛いというだろう。


「あっ、ごめんなさい。えっと、私も一緒してもいいかな、キルス君にニーナのこととか、ご兄弟のこととか聞きたいし」

「ああ、それは、別に構わないよ」


 ということで、タニヤもお昼休みとなるということで、揃ってトルレイジ亭に向かうのであった。

 もちろん、この姿を見た獣人族の冒険者たちや、人族の冒険者たちもキルスを恨めしそうに見つめていた。

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