第54話 ニーナの親友
翌日、キルスはいつもより速めに目が覚めた。
「おはよう、キルス」
キルスが起きたのを見たオルクがそういった。
「ああ、おはよう、兄さん。早いね」
目が覚めると、兄が起きている。これはキルスにとっても5年ぶりの光景だった。
「仕込みがあるからね。キルスはゆっくりしていていいよ」
「いや、起きるよ。俺もギルドに行って仕事したいし」
「そうかい、まぁ、仕事頑張って、キルスに言っても無駄だと思うけど、無茶はしないようにね」
オルクはキルスの兄でだけあって、5歳のころのゴブリン討伐などを記憶していた。
また、先日手紙によりキルスがエンシェントドラゴンと闘ったことも知っていた故の発言だった。
「大丈夫だよ兄さん。俺だって、死にたくないしね」
「うーん、あれっ」
とここで、キレルが目を覚ました。
「んっ、おはようキレル、眠れたかい」
オルクは起きて見慣れない景色に軽く寝ぼけているキレルにそういった。
「あっ、オルク兄さん、おはよう」
「おはよう」
オルクは改めてキレルにそういった。
「よく寝てたな」
キルスは着替えながらキレルにそういった。
「キルス兄さん、おはよう」
そんなキルスに気が付いたキレルがそういった。
「ああ、おはよう」
それから、3人はそれぞれ身支度をして部屋を出て、キルスたちは朝食を食べた。
「それじゃ、俺は、ギルドに行って、仕事をして、今日から宿をどっかとって泊ることになるから、まぁ、街にいるときはなるべくここに来ようと思うけど、キレルを頼むよ」
「それは、任せて、といっても僕も仕事があるから、あまりかまってあげられないかもしれないけどね」
「大丈夫だよ。兄さんたちも頑張ってね」
「あっ、だったら、オルクさん、私がキレルちゃんを見ておこうか?」
キルスたち兄弟に加わって朝食を食べていたラナがそう提案してきた。
これには、キルス達も願ってもない提案だったし、何よりキレルの使命を考えると、ラナのことを知るチャンスでもあった。
「いいのかい」
「ええ、任せて」
「悪いが、頼むよ」
「ええ」
ということで、キレルはラナが面倒を見ることになった。
それから、キルスは、予定通り冒険者ギルドに足を運んだのであった。
冒険者ギルドはオルクが修行しているトルレイジ亭から歩いて、ほんとにすぐの場所であった。
「ギルドの作りって何処も一緒なんだな」
キルスのいう通り、ほとんどすべてのギルドが同じ作りとなっている。
そんなギルドの中は、朝から酒場で騒いでいる者たちや、受付に並んでいる者、掲示板で依頼を探しつつ仲間と相談している者たちが居た。
そんな光景は、バイドルでもよく見かける光景であった。
「さてと、まずは、掲示板で依頼でも探すか」
というわけで、キルスはDランク依頼の掲示板を眺めて、適当な依頼を見つけた。
そして、それを持って受付に向かうわけだが、キルスには目的の受付嬢がいた。
「おっ、いたいた、たぶん彼女だろうな」
目的の受付嬢を見たキルスはその列に並んだ。
そうして、しばらく列に並んでいると、ようやくキルスの番となった。
「いらっしゃいませ」
受付嬢は笑顔でキルスを出迎えた。
「ああ、えっと、タニヤで合っているか」
「? はい、確かに、私はタニヤですが、あなたは、どこかで?」
突然見知らぬ男から名を呼ばれて訝しんだタニヤであった。
「ああ、俺はキルスといってバイドルから来たんだけど、これ、ニーナ姉さんから渡すように言われてきたんだ」
キルスは懐からと見せかけてマジックストレージからニーナからの手紙を取り出して見せた。
「ニーナ、キルス、あっ、もしかして、えっと、ちょっと失礼しますね」
そういって、タニヤはキルスから受け取った手紙の宛名と、差出人を確認してから手紙を開き読み始めた。
それから、少しして、手紙を読み終わったタニヤは納得したように言った。
「あなたが、キー君なのね。ニーナから、色々聞いているわ。ようこそ、バイエルンへ」
タニヤはキルスにそういって歓迎した。
「あっ、ああ、手紙に書いてあったと思うけど、一か月ぐらいこの街にいる予定だから、頼むよ」
「ええ、任せて、手紙にも、よろしくって書いてあったからね」
冒険者ギルドの受付嬢になると、まず研修を行うその場所は、その地の領都となるわけだ。そうなると当然バイドルで受付嬢をしているニーナもここで研修を行っている。
その際、同期であり、寮で同室、同じく獣人族ということもあり、タニヤとニーナはあっという間に仲良くなった。
そう、タニヤもまた獣人族であった、その種族は虎人族、猫人族であるニーナとは同じネコ科の種族であった。
その時、ニーナはタニヤにキルスのことやその兄弟達のことを話していた。
そのため、タニヤとしては、初めて会ったキルスを初めてあった気がしないのであった。
「それで、その依頼を受けるのね」
「ああ、そのつもりだ」
それから、キルスは依頼書をタニヤにわたして、仕事を受けることになった。




