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第53話 領都の夜

 5年ぶりの再会を果たしたキルスたちとオルクだったが、その時間はまだ開店時間であったこともあり、店をしめるまで店の奥で待たせてもらうことになった。


「ごめんね、せっかく来てくれたのに、オルクさん、まだお仕事があるから、もう、お父さんも、このぐらい融通利かせてもいいのに」


 そんなキルスとキレルの相手をしているのは、ラナである。ラナはオルクの婚約者ということで、将来キルス、キレルとは義理の姉ということになるためであった。


「いや、まだ開店時間であることは、俺達もわかっていたことだからな、気にしていないし、むしろここで兄さんが居ても気が引ける」


 キルスもまた、食堂の息子、だからこれから少し忙しい時間になることは予想できた。


「うん、それにラナお姉ちゃんが相手してくれているしね」


 キレルも同様であり、何よりラナがどんな人物かを見極めに来たキレルとしては願ってもないことである。まぁ、本音ではオルクともう少し話をしていたかったのは事実ではあった。


「そう、ありがとう。ああ、そうだ、わたし、2人に聞いてみたいことがあるんだけどいいかな」

「なに?」


 キレルは首を傾げながら尋ねたが、それが可愛かったのか一瞬ラナがそわそわしていた。


「っ、う、うん、えっとね。オルクさんのことなんだけど、オルクさんっていつからあんな丁寧になったの」


 これは、ラナとしては気になっていることであった。誰にでも丁寧に接するオルク、それはいいが、恋人(ラナ)としては呼び捨てで呼んでほしいところであった。


「ああ、それか、それなら、俺にもわからないな。俺も気が付いた時はすでにああだったし、生まれつきなんじゃないかな。多分父さんの血だな」


 もっとも、ファルコもあそこまでは丁寧ではない。


「そうなんだ。じゃぁ、他のご兄弟の中にも?」

「ううん、家兄妹一杯いるけど、オルク兄さんみたいなしゃべり方は誰もいないよ」


 キレルのいう通り、穏やかな性格は何人か居るが、誰にでも丁寧になるオルクのような者は他にはいなかった。


「そ、そうなんだ」


 この答えにはラナも驚きであった。


「うん、そうだよ。ねぇ、キルス兄さん」

「だな。といっても、まだ、下がわからないけどな。ファーレスは2歳でアルエは3歳だからまだ舌足らずだし、サーランに至っては生まれたばかりだしな」


 まだ確定ではないと、そう思っているキルスであったが、半ば確定であろうとも考えていた。


「そうなんだ。ああ、それと、ちょっと聞きずらいけど、お父さんもオルクさんもいうんだけど、あなたたちのお父さんって、その……」


 怖いのかということは聞きずらいだろう。


「父さんの顔のこと」

「怖いよ。すごく」


 すぐに理解したキルスとキレルによって間髪入れずに応えた。


「そんなになの」

「ああ、少なくとも、俺も冒険者しているけど、盗賊でもあそこまでの顔はないかな。というか、家の兄弟は全員小さいころに泣いているからな。ファーレスに至っては、2年経ってもいまだに慣れていないのか、よくビクってなってるし」

「サーランは普通に泣いているよね」


 ようやく泣き止んだサーランの前にファルコが来ると、せっかく泣き止んだのにと怒られるファルコの姿をよく見かける。


「ああ、でも、お父さん、性格は穏やかで、気が小さいから。そういう意味ではオルク兄さんの性格って父さん似だよね」

「そうだな。俺と、キレルはどちらかというと母さん似だけどな」

「確かに、そうかも、あっ、でも、ロイタ兄さんは完全に父さんだよね」


 ロイタの性格はまさにファルコそっくりであった。


「確かに」


 それから、3人の話は当然の如くラナとオルクの話にシフトして、語り合っていた。


 そうして、店を閉める7時過ぎとなり、オルクがやってきて、顔を赤らめるラナと、にやにやするキルスとキレルの姿を目撃し、今度はオルクが顔を赤らめる番となったのは言うまでもないだろう。


 その後、改めてトルレイジ亭の面々との自己紹介をした後、今日は泊めてもらうことになった。



 キルスは今日だけということもあり、オルクの部屋に泊めてもらうことになり、キレルはこの街にいる一月の間ここに泊めてもらうことになった。

 現在、そのためにラナがキレルの部屋を用意しているところであった。といっても、特に余っている部屋があるわけではなく、急遽ラナの部屋にベッドを1つ追加することになったわけだ。


「悪いな、兄さん、突然来て」

「あはは、ほんとにびっくりしたけどね。でも、だいじょうぶだよ」


 相変わらずオルクは優しく2人を迎え入れた。


「ほんとにキルスは今日だけなのかい、僕は別に1月でも構わないけど」

「兄さんならそういうだろうと思ったけど、俺は冒険者だからね、バイドルなら家があるから必要ないけど、他の街では普通に宿で過ごそうと思ってるんだよ。ほら、それも冒険者ならではってやつで」

「なるほどね。わからなくはないね」


 こうして、キルスとオルクは久しぶりに兄弟の会話を楽しんでいた。

 すると、その時扉がノックされた。


「オルクさん、ラナです」

「どうぞ」


 オルクの返事を待ってからラナが部屋に入ってきた。


「キレルちゃんの部屋の用意が出来たんだけど……あら、寝ちゃったんだ」


 ラナのいう通り、キレルは部屋の用意が済むまでオルクの部屋に居た。しかし、初めての旅で疲れたのか、オルクに会えたことで安心できたのか、すぐにオルクのベッドで眠りについてしまったのだった。


「どうしよか、お部屋に運ぶ?」

「うーん、運ぶのはいいけど、起こしちゃうかもしれないからね。今日は、ここでいいかな。というわけで、せっかくお部屋用意してくれたのにごめんね」

「ううん、いいのよ。オルクさん、でも、それじゃ、2人はどうするの」


 ここでラナが気になったのは、キレルがオルクのベッドで眠ってしまったので、キルスとオルクが何処で寝るのかということであった。


「まぁ、どっちかがソファで、どっちかが床だな」


 キルスも特にオルクの意見に反対ではないので淡々とそういった。


「そうだね。ああ、そうなると、何か敷くものがいるよね」

「それなら、俺が持ってるから大丈夫だ」


 そういって、背嚢から普段野営するときに使う厚めのシーツを取り出した。


「そう、それじゃ、おやすみなさい」


 ラナもそれで納得したのか、そういって部屋から出て行き、キルスとオルクも休むことになった。

 ちなみに、オルクがソファでキルスが床であった。もちろんオルクは最初自分が床で寝るといったが、キルスは普段冒険で床は慣れているし、何よりも前世ではいつも床に布団であったために本当に慣れていた。

 それを話したところ、オルクも納得してソファで眠りについたのであった。

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