表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/237

第52話 紹介

「えっ、キルス、それにキレルまで」


 厨房から出てきたオルクはそういいつつ固まった。

 それを隣で聞いていたラナは驚愕した。

 オルクは穏やかな性格を持ち、誰にでも丁寧に接し、誰であっても敬称を付ける少年だ。

 それは、たとえ恋人や婚約者であっても、後輩であっても同じで、今しがたのように、呼び捨てにすることなどない。


 そんなラナの疑問は次の瞬間氷解した。


「オルク兄さん!」


 キレルが、そういってオルクの胸に飛び込んだのだ。


「おっとっと」


 両手で料理を運んでいたところに、突然キレルが胸に飛び込んできたことで、慌てて両手をあげることになった。

 それでも、オルクは幼いころから実家であるファルコ食堂において、散々給仕の仕事をしてきただけあって料理を落とすという事態だけは避けられた。


「久しぶり、兄さん」


 そんな様子のオルクに苦笑いを浮かべながら、歩み寄っていたキルスが料理を受け取りながらそういった。


「う、うん、久しぶり、どうして、2人が……」


 オルクは説明が欲しかった。


「俺は、仕事だよ。キレルは、兄さんに会いに来たってところじゃないか」

「そうなのかい、ああ、そっか、そういえばキルスは冒険者になったんだっけか」

「まぁね」


 一通りキルスと話したオルクは、いまだに自身の胸にいる妹の頭と肩に手をおいて言った。


「キレル、しばらく見ないうちに大きくなったね」


 そう声をかけたことでようやくキレルはオルクから離れ、満面の笑顔をオルクに見せている。


「ヘヘヘっ、うん」


 そんなキレルの頭をオルクは微笑みながらなでた。


 オルクが料理修行の為にバイドルを旅立ったのは12で5年前だった。その時キレルは6歳と幼かった。


「あ、あの、オルクさん」


 これまで、兄妹の再会だと思い、何も言わなかったラナだったが、ここでオルクに尋ねた。


「あっ、うん、えっと、ラナさん、紹介するよ、こっちが弟のキルス、今は冒険者をしているんだ」

「Dランク冒険者のキルスだ。よろしく」

「う、うん、よろしく」

「それと、この子が妹のキレル、ほら、キレルご挨拶して」

「うん、キレルです、よろしくね」

「ええ、よろしくね、キレルちゃん、えっと、私はラナです。オルクさんとは、その、婚約をしています」


 ラナはキレルに返事をした後、キルスとキレルに向き直って、自己紹介をしつつ少し顔を赤らめた。同時にオルクもまた赤らめていた。

 家族に彼女を紹介する。これは結構照れるものである。


「キレル、飯が冷めるぞ」


 自己紹介が終わったところで、キルスはキレルにそういいつつ席に着いて食べ始める。


「あっ、待って」


 キレルはそういうと慌ててキルスの対面に座った。

「ふふっ」

「はははっ」


 それを見たラナとオルクは微笑んだ。


「ふぅ、ほんと、驚いたよ」


 ここで、改めてオルクがそうつぶやいた。


「そうね。ああ、そうだ、オルクさん、せっかく弟さんと妹さんが来たんだから、しばらく相手してあげて、お父さんには私が言っておくわ」

「いいのかい」

「ええ、任せて」


 そういって、ラナは厨房に引っ込んでいった。

 それを見送ったオルクはキレルの隣に座った。


「おいしいかい、キレル」

「うん、これ、オルク兄さんが作ったの」


 キレルはそういいつつも口の周りを少し汚していた。


「そうだよ。よくわかったね」


 そんなキレルの口元をタオルで拭きながら尋ねた。


「だって、お父さんと同じ味がするもの」

「確かに、だいぶ腕をあげたみたいだね兄さん」


 キルスはオルクの料理を当然食べたことがある為にそういった。


「だったら、嬉しいけどね」

「何言ってやがる。お前なんぞ、まだまだだ」


 そこへラナを伴って1人のおっさんが現れた。


「師匠、すみません、弟妹が来てしまっていて」

「構わねぇよ。それにしても、ますます、あいつの子か疑いたくなるな」


 オルクの師匠であり、ラナの父親デイケスはファルコの修業時代の兄弟子である。

 その兄弟子として、ファルコの顔の凶悪さは知っている為の発言だった。


「はははっ、そういわれるとね。でも、キレルは父さん似なんだけどな」


 それを聞いたキルスは笑いながらそう答えた。

 というのも、確かにキレルは美少女といっても差支えないほどだが、その目がファルコに似ていた。

 尤もファルコほど凶悪性がないのは、レティアの血が上手く仕事をしており、カバーしたうえに美少女としているからであった。


「そうだね。生まれたばかりのころは、父さんがかなりショックを受けていたよね」

「そうそう、将来キレルも自分のように思われるんじゃないかって」


 キルスとオルクはそうして盛り上がっていた。


「ガハハハッ、相変わらずのようだな」


 そんな小心者のファルコを知っているデイケスはそういって笑った。


 その後、改めて自己紹介をしたのち店を閉めるまでの時間が少しあるということで、それまで店の奥で待たせてもらうキルスとキレルであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ