第49話 バラエルオン伯爵~出会い~
あけましておめでとうございます。
令和3年もよろしくお願いします。
少し遅れましたが、本年最初の投稿です。
キルス達兄妹はようやく領都バイエルンに到着した。
「それじゃ、私たちはギルドに行くから」
「ああ、またな」
「ばいばい」
「じゃぁな」
「また」
ヴォルカの剣との少しの別れである。
お互いにしばらくこの街に滞在することもあり、あっさりとした別れである。
そうして、ヴォルカの剣と別れたキルス達兄妹はというと、さっそく領主に会いに行くことにした。
領主が住む場所は領都の中でも中心地に位置する貴族街だ。
この構造は大体どの街でも同じで、バイドルでも代官屋敷は街の中心に位置している。
というわけで、キルス達も迷わずに貴族街にたどり着いた。
「止まれ、ここは貴族街だ、お前たちが来るところではない。すぐに引き返せ」
キルス達が近づいていくと、貴族街に続く門を守る守衛が威嚇しながらそういった。
これは、別にキルス達が何かをしたわけでも、守衛の問題でもなく、平民が近づけば誰でもこのように言われる。
「俺は、Dランク冒険者のキルス、バラエルオン伯爵様に呼ばれたんだが」
そういって、キルスは懐から、と見せかけてマジックストレージから事前にもらっていた許可証を取り出し見せた。
「それはっ、……確認しました。どうぞお通り下さい」
許可証を見せると守衛の態度が急変し、すぐに門を開けてくれた。
「あっさり通してくれたね」
貴族街を歩くキルスの隣でキレルが後ろを振り返りながらそういた。
「まぁ、領主自ら作成したサイン入りの許可証だからな」
(だれだってビビる)
キルスはそう思いながら歩き続け、ついに貴族街のさらに中心地である領主の屋敷にたどり着いた。
「止まれ。ここは領主様の屋敷だ。用のないものは立ち去れ」
ここでも再び衛兵に声をかけられた。
「Dランク冒険者のキルスだ」
そういって、今度は冒険者ギルドカードを提示した。
「……確かに、こちらでお待ちください」
衛兵はそういってもう一人に断りを入れてから、屋敷の中に入っていった。
少し待っていると、屋敷の中から先ほどの衛兵と執事のような人物が出てきた。
「お待たせいたしました、キルス様ですね。わたくしは、バラエルオン伯爵様にお仕えしている執事のセライスと申します」
出てきた執事セライスはキルスに対して深々と頭を下げた。
「ああ、よろしく頼む。それで、先ほどバイエルンに到着して、さっそく来てみたんだけど、伯爵様にいつ会えそうなんだ」
キルスとて、来たからとすぐに会えるとは思っていない、今来たのもアポを取るためであった。
「現在伯爵様は執務の最中でございますが、キルス様がお越しの際はすぐにお会いできるよう、調整いたしておりました故、すぐにでもお会いできます」
これは異例のことである。領主が一領民に会うことを優先するなどありえないことであった。
「へっ、今からか」
だからこそキルスも驚愕した。
「はい、いかがいたしますか、もしキルス様のご都合がお悪いのでしたら、そちらを優先していただいても構いません」
さらに驚愕のことを言ってきた。
「えっ、まじで、あっ、いや、俺としては特にすぐに会えるのであれば、それで構わないが……」
キルスとしては、領主と会うなんてことは今回のバイエルン行きのおまけというか、きっかけに過ぎず、面倒ごとでもある。だったらすぐに終わらせたい。
そう考えたから街についてすぐにここにやって来たのだった。
しかし、隣にいるキレルは違う、キレルには領主に会う意味はないからだ。
「……」
キルスはそう考えてキレルを見るとキレルもキルスを見ていた。
どうやら、キルスに決めてほしいそうだ。
「わかった。俺としてもこういったなれないことはすぐに片付けたいし、会わせてくれ」
「畏まりました。では、ご案内いたしますのでこちらへ」
それから、キルス達兄妹はセライスの後について屋敷の中に入っていった。
屋敷の中は領主の屋敷にふさわしく豪華絢爛であった。
とはいえ、キルスとしては少し拍子抜けをした。
それは、領主の屋敷だしもっと豪華絢爛で、高そうな壺や絵、もしくはどこかの絵師に描かせた肖像画などでも飾ってあり、金などもふんだんに使った屋敷を想像していただけの拍子抜けであった。
(思ったよりは、豪華ではないな)
一方でキレルはその豪華さに目を奪われていた。
それから、屋敷内を歩くこと少し、セライスがある扉の前で止まった。
「こちらでお待ちください」
そういって、扉を開けてキルス達を部屋の中に通したのであった。
部屋の中に入ると、そこは思っていたよりも質素な作りの応接間であった。
これは、キルスが平民であるからこその部屋で、他にもこの屋敷には豪華な作りの応接間がある。
そこで、しばらく待っていると、扉がノックされ、セライスとともに1人の40代の男性が入ってきた。
キルスとキレルは慌てて立ち上がり一礼する。
「俺が、バラエルオン伯爵だ」




