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第45話 旅立ち

 突然領主からの呼び出しを受けたキルスだったが、ちょうどいい機会だと以前からニーナとレティアから言われていたことを実行しようと考えた。

 それは、Cランクに上がるための規定で、2人以上のギルドマスターの推薦が必要とあるためだ。

 それなら、領都バイエルンで一月ほど仕事をこなしていこうと考えたわけだ。


 というわけで招待を受けて数日後、キルスは街の門の前に立っていた。


「キルス、気を付けていきなさい」

「ああ」

「キー君、頑張ってね。あと、無茶はしないようにね」

「わかってるよ。ニーナ姉さん」

「ほんとにわかってる。忘れたわけじゃないわよね」

「わかってるって、姉さん、大体あれは完全に不可抗力だろ」


 エミルが言っているのは当然、キルスが洞窟で落下し、今回の招待のきっかけとなった、エンシェントドラゴン討伐のことだ。


「はぁ、まぁいいわ、それよりちゃんと手紙書くのよ」

「あ、ああ」


 キルスは少し間を開けて返事をした。

 手紙を書くのは何か照れくさいからだった。


「大丈夫よ。お姉ちゃん、私がちゃんと書くから」


 そういったのはキルスの横に立つ妹キレルだった。

 なぜか、今回のキルスの旅立ちにはキレルも同行することになった。


「キレル、お願いね。あと、ちゃんとキルスのいうことは聞くのよ」

「うん」


 エミルの注意にキレルは嬉しそうに応えた。


 キレルとしては、今回の旅は生まれて初めてバイドルの外に出ること、強くも優しい兄キルスと一緒に旅をすることができること、また、バイエルンにいる長兄であるオルクに会えることが嬉しいのだった。

 そう、キルス達の兄オルクが料理修行をしている場所はバイエルンにあり、実はあと一月ほどでその修行が終わる予定だと知らせが届いたためだ。

 つまり、キルスがバイエルンから帰ってくるときに、オルクも一緒に帰ってくるというわけだった。


「それに、ちゃんと使命は忘れていないからね。大丈夫よ」


 キレルはそういった。


 使命とは何か、それはキルスが無茶をしないかの監視、それもあるが今回はもっと別のことで、オルクに関するものであった。

 というのも、今回の修行中オルクは修行先で師匠となる人物の娘と恋仲となっており、ついには婚約したと手紙が届いた。

 キレルの使命はその婚約者がどんな人物かをリサーチするのが目的となる。

 これは、男であるキルスには任せられないことで、ならほかに任せられるのがキレルしかいなかったのが現状だった。

 それはそうだろう、キルスと同行するのにレティアはサーランなどが小さいから無理だし、そもそも母親が同伴はキルスの沽券にかかわるし、それはエミルも同様となる。

 だが、妹なら同行しても問題ないからだった。


 こうして、キルスとキレルはバイドルを旅立つことになった。


「じゃぁ、行ってくるよ」

「行ってきまーす」

「いってらっしゃい、気を付けてね」

「オルクと兄さんによろしくね」


 最期にファルコにそういわれつつキルス達は旅立った。


 ちなみに、ファルコが兄さんと言ったのはオルクの師匠のことで、ファルコの修業時代の兄弟子であった。



 バイドルの街を出たキルス達は街道を歩いていた。


「キルス兄さん、バイエルンまでってどうやって行くの。ずっと歩き?」


 キレルは機嫌よくキルスに尋ねた。


「そうだな。バイドルからバイエルンまで馬車がないからな。途中で別の街からの馬車を見つけられれば乗せてもらうってところだろうな」


 バイドルはバイエルンに住む領主の管轄の街だ。にもかかわらず、駅馬車が走っていないのは、単純に利用客がいないからだった。

 バイドルの街は、小さい上に利益となるような物はほとんどない。そのため領主もそれほど力の入れている街でもなかった。

 また、それは商人も同じで、バイドルとバイエルンを行き来する商人は基本居ない、そのために護衛の代わりやお金を払って乗せてもらうということも難しい。

 もちろん商人に関しては全くというわけではないので、美味くかち合えば乗せてもらえることもある。

 実際、オルクはその方法でバイエルンへと旅立っていった。

 しかし、今回キルス達はタイミングが会わず、バイエルンに向かう商人がいなかったのだ。


「そっか、出会えるといいね」

「だといいがな」



 それから、しばらく歩いたが、馬車と出会えることはなく、あたりが暗くなり始めてきた。


「そろそろ、休むか」

「う、うん、ああ、疲れたー」


 冒険者であるキルスは体力があるので全く疲れていないが、普通に街で暮らしているキレルは疲れていた。

 といっても、キレルもこの世界の人間であり、殲滅の二つ名を持つレティアの娘であり、体力は結構ある。疲れたと言ってはいても実際にはそれほど疲れてはいなかった。

 どちらかというと、周囲の環境が珍しいためにはしゃいでいたことが原因だったりする。


「ちょっと待ってろ、今テント建てるからな」


 そういってキルスは慣れた手つきでマジックストレージからテントを取り出し、組み立てていった。

 それをちょうどあった切り株に座りキレルは眺めている。

 こういう時手伝った方がいいのかなとキレルは思ったが、キルスの手際が良くあっという間に出来上がってしまった。


「凄いね。キルス兄さん、あっという間にテントが出来た」

「んっ、ああ、これぐらいは出来ないと、冒険者とは言えないからな。昔から母さんに仕込まれたんだよ」

「へぇ、あっ、じゃぁ、食事は私が作る。キルス兄さん道具と材料出して」


 キレルも料理屋の娘らしく、いや、大家族の次女らしく料理が得意だった。


「おう、じゃぁ頼むぞ」


 そういって、キルスはキレルに道具と材料を取り出し渡した。


 こうして、キルスとキレル兄妹2人きりの旅立ち最初の日は過ぎていった。


 ちなみに、キレルが作った料理は得意なだけあって美味く、それを褒められたキレルは疲れを吹き飛ばすほど機嫌がよくなったのは言うまでもない。

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