第44話 領主からの呼び出し
休日を過ごした翌日、キルスは久しぶりに依頼を受けていた。
それは、簡単な討伐依頼で、キルスは軽くこなしていく。
そして、倒した魔物はマジックストレージに納めていく。
「ほんと、便利だよなこれ」
改めてマジックストレージの便利さに感嘆するキルスであった。
「さてと、大体こんなものか、そろそろ帰るかな」
今回受けた依頼、グレイウルフの群れの討伐を終えマジックストレージに収めるとバイドルに帰ることにした。
キルスがバイドルに戻ろうとしているころ、ファルコ食堂に訪問者がやってきていた。
「失礼、こちらにキルス様はおられますかな」
突然やって来たのは執事然とした男であった。
「キルスは仕事から帰っておりませんが、えっと、あなたは?」
近くにいたエミルが対応をした。
「失礼しました。わたくしは、ここバイドルを収める代官スナイダー様の従者でゼバイルと申します」
「えっ!」
エミルもどこかの執事だとは思っていたが、さすがに代官の執事とは思わず驚愕し固まった。
「へぇ、このタイミングで来るってことは、もしかしてこの間のことかしらね」
ここでレティアが執事に訪問理由を尋ねたが、その理由はすでにわかっていたことであった。
「はい、領主様であるバラエルオン伯爵様は、エンシェントドラゴンを討伐されたという、キルス様にぜひお会いしたいと申しております」
「そうでしょうね」
レティアとしても予想通りの答えだった。
「キルスならそろそろ帰ってくると思うわよ」
「そうでございますか。では、待たせていただいてもよろしいでしょうか?」
それから、少しの間ゼバイルは待つことにした。。
一方、バイドルに戻ってきたキルスはギルドに向かい、ニーナに依頼達成の報告をしていた。
「おかえりキー君、どうだった」
「ああ、達成してきたよ。これ討伐証明部位」
そういってキルスは背嚢から討伐証明部位を取りだしニーナに渡した。
マジックストレージを持つキルスであったが、この魔道具の存在は知られてはならないためにこういった物はどうしても背嚢から出す真似をする必要があった。
真似、ということは実際には背嚢に手を入れつつマジックストレージから取り出すということでもあった。
「確かに、確認したわ。お疲れ様」
討伐証明部位を受け取り確認したニーナはキルスをねぎらった。
「それじゃ、帰るよ」
「ええ、気を付けてね」
(気を付けるも何も家、すぐそこなんだけど)
ニーナは毎回キルスにこういう、最初は心に思わず口に出していたが、あまりに毎回のためにキルスも何も言わなくなった。
「それじゃ」
そうして、キルスはニーナに見送られつつ家路についた。
「ただいまぁ」
「おかえり、キルス、お客さんが来ているわよ」
「客?」
キルスが家に帰るとエミルがそう言いつつある一点を見たのでその場所を見た。
「誰?」
キルスは、小さな声でエミルに尋ねた。
「ゼバイルさん、代官様の執事ですって、なんか領主様がキルスに会いたいって」
「領主が?」
キルスはよくわからなかったが、まぁ聞けばいいかとゼバイルの方へと向かって行った。
「あら、おかえり」
キルスが向かうとゼバイルの相手をしていたレティアがキルスに気が付いた。
「ただいま、えっと、客だって」
「ええ、そうよ」
「お初にお目にかかります。ゼバイルと申します」
「キルスです。えっと、俺に用があると?」
さすがのキルスも相手が代官の執事であり丁寧な言葉を使ってきているので、一応丁寧に対応した。
「はい、エンシェントドラゴンを討伐されたキルス様にぜひお会いし、話を聞きたいと領主様が申しております。ついてはぜひ領都バイエルンまでおこし頂けませんか?」
領主からの呼び出しである。本来平民が貴族から呼び出されることはない、まぁ、レティアのようにBランク冒険者となれば依頼を受けるために会うということもあるだろうが基本はない。
その領主がDランクに上がったばかりのキルスに会いたいと呼び出しをするのはかなり稀であった。
「えっと」
キルスは迷った、貴族から呼び出し、あまりいいイメージがないからだった。
(前世あったハエリンカンの貴族もロクな奴がいなかったしなぁ)
「大丈夫よ。キルス。ここの領主様は一応まともよ。あまり領民に伝わらないのが難点だけどね」
ここでレティアが助け船を出した。
レティアも元Bランクの冒険者として当然ここの領主であるバラエルオン伯爵の情報は得ていた。
「そうなの。だったら、俺としては問題ないけど」
「おおっ、それはありがとうございます。では、さっそく我が主に伝えます」
こうして、ゼバイルはファルコ食堂を去っていった。
(領主との邂逅か。母さんの話だと大丈夫そうだし、あっ、そういえば……)
キルスは領主との邂逅という話とともにあることを思い出していた。
 




