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第43話 休日と報告

 オーク肉を使い久方ぶりにハンバーグを堪能した翌日、その日はキルス一家にとっての休日だった。

 この世界には日曜日といったような多くの人が休むという日は存在しない、だからといってさすがに休みなくはたらき続けるのは無理があるためにそれぞれが休む日は存在している。

 今日はキルス一家が家族全員が休む日として定めた日でもある。

 そのためファルコ食堂は定休日であり、ファルコは朝から前日に食べたキルスのハンバーグに合うソースの開発にいそしんでいた。

 また、キルスも当然仕事を休み依頼を受けることはなく、ニーナもギルドから休みをもらっている。


 そして、そんな休みの日の午後は家族そろって教会に行く日と定めていた。

 教会というのは聖教会というなんとも安直な名前だが、崇めているのはエリエルだ。

 エリエルはこの世界においては存在している神とされており、多くの人が崇めている。

 もちろんすべての人間が崇めているわけではなく、一部偶像の神や聖人を崇める宗教も存在しているが、やはり大半が聖教徒となる。


 そういったこともあるのか、現代日本のように敬虔な信者というものはほとんどなくほぼすべての人が何となく信徒としているだけであった。

 だからキルス一家のように毎週欠かさず教会に足を運ぶということはかなり珍しい。


「これはこれは、レティアさんにファルコさん、キルス様にお子様たちもお待ちしておりましたよ」


 教会にやって来たキルス達を出迎えたのはこれまた毎回この教会のシスターであった。

 そして、なぜこのシスターがキルスだけは様付けなのかというと、それは単純にキルスが前世の記憶持ちであり、エリエルと直接あったことがあるということを知っているからだった。

 ちなみに教会上層部ではこのシスターの報告でキルスのことを知っている。

 それでも、教会がキルスに接触を図らないのはまさに、そんなことをしても教会としても今更意味をなさないからだった。


「おはよう。シスター、今日もお祈りさせてもらうわね」

「はい、どうぞ、こちらに」


 それから、キルス達は一斉に並び祈りをささげる。


 こういった行為をしているとなると、まるでキルス一家が敬虔な信者かと思われる。実際この行動を知る多くの人たちがそう考えていた。

 しかし、キルス達は敬虔な信者などではなく、ただ単に感謝の祈りをささげているに過ぎない。

 というのも、キルスが前世の記憶を持つ転生者であることは8年前に話している。その際まだ幼かったキルスはついつい勇者時代のことそしてその最期について話してしまった。

 そして、その怒りと憎しみから、エリエルが助けてくれたこと、そのおかげでキルスが魔王とならなかったことまで話している。

 つまり、エリエルのその行為が無かったら、レティアは魔王の母として、ロイタ以下の子供たちも下手をすれば生まれなかったのでは、もしくはバイドルそのものが失われていたかもしれないと思い、キルスを救ってくれたエリエルは自分たちも救ってくれたのだと、感謝しているのであった。

 もちろん、一番はキルスの憎しみを救ってくれたことへの感謝であった。

 そういった、もろもろの感謝を込めて毎週欠かさず祈りをささげているのであった。


 祈りをささげると、今度はみんなで教会の手伝いをする。といっても大体が掃除となる。

 こうして、キルス一家の休日は過ぎていく。




 一方そのころ、バイドルを含む一帯を収める領主バラエルオン伯爵はいつも通り書類仕事におわれていた。

 そんないつもの通りをこなしていると、不意に扉がノックされた。


「入れ」


 伯爵がそういうと扉が開いた。


「失礼いたします」


 入ってきたのは伯爵家に仕えること数十年のベテラン執事であった。


「なんだ?」


 伯爵は表情を渋くさせながらそう尋ねた。

 別に伯爵もこの執事が嫌いというわけではない、普段ならこの気の利く執事を歓迎していただろう、しかし、今は執務中こういった時不意に来るということは緊急な仕事が舞い込んできたときだけだ。例えば10年前のバイドルでの防壁の穴事件がわかりやすいだろう。


「旦那様、バイドルのスナイダー様を通しギルドから緊急の報告が上がってまいりました」

「バイドルだと、またか」


 ちょうどいま10年前のことを思い出していたために、再びバイドルと聞いて顔をしかめてしまった。


「はい、なんでもバイドル近郊の洞窟地下にダンジョンを発見したとのことです」

「なに、ダンジョンだと、それは誠か」


 ダンジョンの発見となると一大事、領主にとっては見過ごすわけにはいかない案件だ。

 だが、それ以上に大事なことがあった。


「そのダンジョンの安全性はどうだ」


 そう、ダンジョンの発見というのはいい、しかし放置されたダンジョンほど危険なものはないからだった。


「ダンジョンは全部で100階層、一階層にオークの群れが生息しておりましたが、発見者によってすべて討伐されたようです。しかし、再び沸く可能性があるとし、発見者によって封印されたとあります」


 執事は報告書を読み上げた。

 それを聞いた伯爵は少し安堵しながらさらに尋ねた。


「ほぉ、再度封印か、まぁいいだろうそれで」

「はい、発見者の報告によりますと……えっ!?」


 報告書を読んでいた執事が止まった。これは通常ありえない、報告を途中で止めるなどこのベテラン執事に限って今までしたことがなかった。


「なんだ、どうした」


 伯爵は底知れない恐れを感じていた。


「し、失礼いたしました。そ、その、ダンジョン最下層なのですが……」


 ここでさらに言いよどんだ。


「申してみよ」


 よほどのことなのだろうと伯爵も覚悟を決めて続きを報告させた。


「はっ、最下層にえ、エンシェントドラゴンがおり、これを発見者によって討伐されたとあります」

「なっ、なに!! 今、なんと……」


 この報告は伯爵にとっても信じられないことであった。


「どういうことだ、エンシェントドラゴンだと、しかも、すでに討伐しただと、一体どういうことだ。その発見者は一体、誰だ!」


 伯爵も混乱していた。この執事が嘘の報告をするとも思えないし、ましてやギルドがこんな報告を領主にあげるなんてさらにありえないことであった。

 そう考えた伯爵はまずは誰がその発見者かを知る必要があった。


「発見者はキルスという冒険者となってまだ2ヶ月で、数日前にDランクに上がったばかりの少年とのことです」

「馬鹿なっ」


 今度こそ、驚愕した。ありえないことだ。本来エンシェントドラゴンというものは脅威度S、つまりSランク冒険者でなければならない。しかもエンシェントドラゴンとなるとそのSランクでも単独討伐は不可能とされている物だからだった。


「貸してみろ」


 伯爵は執事が持つ報告書を渡すように言った。


 伯爵が目を通した報告書には確かに今執事が行ったことと同じことがかかれ、さらにその詳細も書かれていた。

 それによると、発見者であるキルスは単独で洞窟から地下に落下し、そこでダンジョンを発見したとある。そして、エンシェントドラゴンと対峙し、それもまた単独で討伐してしまったと書いていあった。


「……あ、ありえん、んっ」


 伯爵はありえないと思ったが、その先に書いてあったことに少しだけ納得した。そこには討伐したエンシェントドラゴンは長い年月ダンジョン最下層に閉じ込められており圧倒的に戦闘経験値がなかったことで、ただのドラゴンとそれほど変わらなかったことだ。

 だからといって、Dランクが単独で討伐できるとは到底思えなかった。しかし、最後にキルスが殲滅のレティアの息子であると書かれていたのだ。


「殲滅だと、なるほど、確かに、殲滅の息子というなら、ありえなくはないか」


 伯爵はレティアのことを知っていた。いや、むしろこの国の貴族でレティアを知らぬものなどいなかったのだ。

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