第40話 団欒と話
バイドルのギルドマスターに報告を済ませたキルス達は、仕事が残っているニーナを残して家路についた。
「ただいま」
キルスはそういって店の扉を開けた。
「キルス!」
それに最初に気が付いたのは給仕をしていた姉、エミルだった。
「おかえり、まったく、この子は、心配かけて」
エミルは、キルスを抱きしめながら涙を流しながら怒っていた。
「ごめん、姉さん」
キルスもエミルがどれだけ心配していたのかわかっていたので、素直に謝った。
「キルス兄さん!」
そうこうしていると、横から騒ぎを聞きつけた妹キレルが抱きついた。
「キレル、心配かけたな」
「ほんとよ」
キレルもまた涙を流しながら怒っている。
こういうことろ、そっくりだな、そんなことを思っていた。
「あっ、キルにーちゃ」
「キルスにいちゃん」
その後他の弟妹達もやってきてキルスは完全に囲まれてしまった。
「ふふっ、ほらほら、みんな、お客さんに迷惑でしょ」
微笑みながらも1粒の涙を流していたレティアはそういって、子供たちからキルスを解放した。
「キルにちゃ。あそぼ」
そういってキルスの裾を引っ張るのは6女のアルエだった。
アルエはまだ3歳で状況はわかっていないが、キルスのことが大好きであった。
「おう、ちょっと待って……」
キルスは大事な話があるから待っていてくれと言おうとしたら、レティアがかぶせながら言った。
「キルス、遊んできなさい、今日はお店早めに閉めるから、話はそれからでいいわよ」
「わかった。それじゃ、遊ぶか」
「やった」
「やったー遊ぶ」
「ああ、その前にキルス、ちゃんと汗と汚れを落としなさいよ」
冒険から帰ったことでキルスは当然汗を流し、土埃で汚れていた。毎回そうであるためにエミルはキルスに遊ぶ前に体を拭くように指示をした。
体を拭くというのは、この世界に風呂に入るという習慣がないからだった。
「わかってる。そういうことだから、遊ぶのは少し待ってな」
キルスは裾を引っ張る弟妹達にそう一言いってから部屋に戻った。
弟妹達も「えー」とか言いつつも毎回のことであり、おとなしく引き下がる。
そうして、部屋に戻ったキルスは、桶に魔法でお湯を張った後、前世の知識で作った石鹸で体を洗ってから流し部屋着に着替えたのち弟妹達と遊ぶために部屋を出て行った。
それから、弟妹達と合流したキルスは一緒に遊んだ。
「キルス、兄さん」
「ん、おう、ロイタか、どうした?」
弟妹達と遊んでいると、3男のロイタが珍しくキルスに声をかけてきた。
ロイタという弟は、ファルコの小心者という性格を色濃く受け継いでおり、とてもおとなしく人見知りも激しい、家族でも滅多にその声を聞くことがないというほどだ。
実際、キルスがロイタの声を聞いたのはゆうに1週間ぶりであった。
「おかえり」
ロイタは短くそう言った。
「ああ、ただいま、お前にも心配かけたな」
キルスはその一言でロイタもまた自分を心配してくれていたのだとわかり、嬉し気にそういった。
「うん」
ロイタは少し恥ずかし気にそういって、目を伏せてしまった。
(あははっ、ロイタは相変わらずだな。兄貴としては、もっと話でもしてみたいところだけどな)
キルスにとってロイタは初めての弟だった。
それだけに、もっといろいろ話をしたり遊んだりしてみたかったのだった。
「キルス、こっち来なさい」
ここで、エミルから呼び出しがあった。
「おっ、もう閉めたのか、ほら、お前たち、遊びは終わりだ。これから、大切なお話をするから一緒に行こう」
「うん」
それから、キルスは一緒に遊んでいた弟妹やロイタとともに食堂に向かった。
食堂につくと、そこにはエミルとキレル、ファルコ、レティアにニーナが待っていた。
「あっ、ニーナお姉ちゃんだー」
「ニーナねーちゃ」
弟妹たちはニーナを見つけてキルスから離れて抱きついた。
「みんなー、ただいまー」
ニーナは数年この家で過ごしていただけあって、小さな弟妹達にとっては、ニーナも姉であった。
そして、ニーナもまた、たくさんの弟妹達に囲まれて嬉しそうだった。
「ニーナ姉さん、今日早くない」
キルスはそんな弟妹達の行動に微笑みながらニーナが帰ってくるのが早くないかと尋ねた。
というのも今はまだ夕方を少し越えたような時間で、ギルドはまだ開いているし、ニーナの勤務時間の真っ最中だった。
「ええ、今日は早めに帰らせてもらったのよ」
ニーナによれば、レイチェルが帰りたそうにしてそわそわしているニーナを見て、今日は早く上がれるように手配してくれたそうだ。
「そうなんだ」
それから、ニーナは弟妹達をはがして、椅子に座りつつはがした弟妹達も椅子に座るように促したことで家族全員が椅子に座った。
「まずは、キルスおかえり」
まずは代表してファルコがそういった。
「ただいま、みんな心配かけてごめん」
キルスは再び謝った後、落ちた後に何があったのかすべてを話した。
「鑑定スキル、なんか凄そうなスキルだね」
冒険者ではないファルコには鑑定スキルが凄いスキルであるということ以外わからなかった。
「うん、そうだよね。でも私としてはドラゴンっていうのがすごいと思う、ねぇ、ねぇ、キルス兄さん、ドラゴンって強いんでしょ」
鑑定スキルよりドラゴンと闘ったと聞いたキレルが目を輝かせて聞いてきた。
キレルは、好奇心が旺盛で、伝説に聞くようなドラゴンと兄キルスが闘ったと聞いてその強さが気になった。
「そうだな。おかげで数時間闘う羽目になったよ」
キルスはドラゴンとの戦いを思い出して、少しげっそりした。
「なんで、逃げなかったのよ。まったく」
一方でエミルは弟のキルスがそんな危ない魔物と闘ったことでなぜ逃げなかったのかと責めた。
「いや、俺だって、逃げられるものなら逃げたかったよ、エンシェントドラゴンなんて俺だって闘いたくなかったよ」
でも、逃げられなかったと、闘うしかなかったとキルスは説明した。
「まぁ、ダンジョンの中にはそういういやらしい設計になっているのものもあるから、今後は気をつけなさいよ」
レティアは元冒険者として当然ダンジョンに潜ったことがあるためにそういった。
「わかった、身に染みているよ」
キルスも今回のことはいい勉強になったと、今後はしっかりと確認することを誓った。
「そうだね。でも、僕としては、最後のマジックストレージっていうのに興味が出たよ」
最後にファルコが料理人としての勘で、マジックストレージに興味を持った。
「ああ、これだね、そうだよ父さん、これがあれば、この店かなり変わると思う」
キルスはファルコに笑いかけながらそういった。
 




