第04話 うっかり魔法
前話の投稿で、なんと前々話と同じものを投稿していました。
現在はすでに修正済みです
キルスが生まれてから約1か月が経った。
それだけ時が経てば、キルスもようやくこの世界の言葉を理解できるようになった。
といっても、肉体的な成長が追いついていないこともあり、未だ話すことはできないが、それでも、周囲が言っていることが理解できるようになったのはキルスとしても嬉しい限りだった。
そのかいあって、キルスもやっと自分の名前がキルスであること、両親の名前や姉兄の名前を知ることができたのは僥倖と言えるだろう。
さて、そんなキルスの最近の様子はというと、やはり赤子であることからさほど変わってはいない。
変わったことといえば、生まれたばかりのころはレティアが常におんぶして店で接客をしていた。
しかし、現在はある程度動いたりできるようになったこともあり、姉であるエミルや兄であるオルクが面倒を見ている。
「オル、はい、どうぞ」
「うん」
今、エミルとオルクはキルスの面倒を見ながら、エミル主導の元おままごとを行っていた。
(ていうか、この世界にも、あるんだな、こういう遊び)
それを見ながらキルスはそんな風に思っていた。
「はい、キルもどうじょ」
ちなみにエミルは姉といっても未だ4歳というわけで、まだ舌足らずとなっていた。
エミルがオルクやキルスに与えたのは、丸い木の塊だった。丸いといっても大体丸いというわけで、真球というわけではない。
「あーうー」
キルスもエミナがどういう意図で渡してきたのかを知っているが、それをそのまま実行しては、変な疑いを持たれると思い受け取るだけとしていた。
「いい子だねー」
エミルもそんなキルスの行動に笑みを浮かべながら、頭をなでた。
一方、オルクはというと、2歳ということで、ある程度わかっているために、それを口に押し当ててから、おいちいと、言っていた。
こうして、キルス達3姉弟は日々遊びながら、両親の仕事が一段落するのを待っているというわけだ。
そんなある日のことだった。
その日もいつものように寝ているキルスの横でキルスを見ながらエミルとオルクが遊んでいたが、突如エミルとオルクがキルスの元から離れた。
これは、よくあることで、いくら姉と兄でも常に弟のそばばかりというわけにはいかないからだ。
(それにしても、暇だよな。何をするにも今は何もできないし。せめて、動ければいいけど)
そんな2人を横目にキルスは内心そんなことを考えていた。
ちなみにエミルとオルクがそうやってキルスの元を離れる理由は、キルスがこれまで離れていても特に問題となる行動をしてこなかったという側面が大きい。
それはそうだろう、今は赤子といってもその中身は、前世のである護人の記憶を持ち合わせている。周囲にあるもので、危険かどうかの判断ぐらいはできる。
とはいえ、2人がいないとなると、本当に暇になるために、キルスはふと思いついたことを実行してみることにした。
(やってみるか。確か、エリエル様がこの世界とあの世界の魔法は同じだって言っていたし、俺の場合記憶があるから、魔法制御も問題ないっていってたしな)
思い立ったが吉日と言わんばかりにキルスはさっそく魔法を使ってみることにした。
(といっても、いきなりでかい魔法を使うわけにはいかないし、そうだな、まずは、簡単な基礎魔法である、灯の魔法にしておくか)
灯の魔法というのは文字通り、タダ光を放つだけの基本中の基本であるものだ。
(というわけで)
『あうあお』
キルスは自分では’光よ’という呪文を唱えているつもりで、呪文を唱えた。
すると、キルスの指の先に最初は小さな光が生まれた。
(おっ、成功だな。あとは……)
キルスは、魔法が使えたことに感動しつつ、魔力をさらに込めてみた。
ここが、キルスがやはり赤子であるということだろう、記憶がありある程度の判断は出来ても、頭の出来具合がやはり赤子だったということだろう。
「キルーいい子に……」
キルスが魔力を込めたまさにちょうどその時、不意にエミルがキルスの元に帰ってきた。いや、帰ってきてしまった。
その結果、エミルは、見てしまった、キルスの周囲が急激にまぶしくなるのを……
「……キル!!」
エミルとしては、焦った。それはそうだろう、赤子である弟の周囲で強い光が出たのだから。
そして、そんな声を元冒険者であり、3人の母親であるレティアが気が付かないわけがない。
「どうしたの、エミル……えっ、うそ、でしょ」
(やべっ)
とんだ騒ぎとなったわけだけど、当のキルスも内心焦っていた。
「ちょ、まさか、キルス、あなた。えっ」
レティアも魔法を使う、そのため、キルスが今何をして、どういう状況なのかはすぐに理解できた。しかし、しかしだ、いくらなんでも赤子であるキルスが魔法を行使出来るわけがないという先入観から、自分が見ていることが理解できなかった。
「お、お母さん」
そんなレティアの様子にエミルは不安になった。エミルにとってこれが魔法を行使した結果であるというのはわからないし判断できなかったからだ。
その日の夜、レティアは頭を悩ませつつファルコと相談していた。
「ねぇ、どうしましょう」
「キルスのこと」
「ええ、あれは、光魔法の、灯よ。確かに初歩の初歩っていう魔法だけど、でも、キルスはまだ、赤ちゃんなのよ。出来るとは思えないのよね」
レティアはそういうが、これは当たり前のことだ、本来魔法というものは、ある程度成長して、誰かに教わり、魔力制御や、呪文の構成などを学ぶ。こうしてようやく魔法を使うことができるのだ。
つまり、常識として赤子に魔法が使えるわけがないのだ。
「あの子には、たぶん、いえ、間違いなく魔法の才能がある。灯の魔法を見たところ魔力もとんでもないほどあるみたいなのよね。でも、ねぇ……」
レティアのしては、息子の才能を喜びたい、でも、魔法というものは危険なもの。それを赤子のうちに使ってしまうのはまずい。
「でも、キルスは、どうやって、魔法を、使ったんだ」
ファルコは魔法を使わない。それでも、今だ、’あー’とか’うー’とかしか話せないキルスがどうやって呪文を行ったのかということだった。
「確かに、魔法には無詠唱という技術はあるわ。でも、それはかなり高度なものだから、いくら才能があっても、無理だと思う。だから、間違いなくキルスは呪文を唱えた。それは間違いないと思う。灯の魔法は私もよく使っているし、それを聞いていたのかもしれないけど……」
「そうだね。確かに、そうだけどね」
それでも2人としては不思議だった。
「まぁ、呪文は何も私たちにわかる言葉でなければならない、というわけでもないから、話せなくても出来ないことはないけどね」
どうしようか、レティアは悩んでいた。
「仕方ない、あれを使うしかないか」
「あれって?」
レティアはアルことを思いついたが、ファルコにはそれが何かわからず聞いた。
その後、レティアから詳細を聞きファルコもそれならばと安心することにしたのだった。