第33話 ドラゴンとの遭遇
落下した先にあったスタイラエルダンジョン、このダンジョンはかつて存在した稀代の天才魔道具職人、スタイラエル・フォン・ベンタ・ラダエルカ・ド・ラ・モリスハルト自身が開発したあるとんでも魔道具の所有者を決めるために作成したダンジョンである。
そのダンジョンは全部で100階層あり、どの階層も一筋縄では攻略できない。過去多くの勇者がこれに挑んだが無事に攻略できたものは1人もいないダンジョンである。
そして、そのダンジョンの最下層たる100階層、そこにキルスは絶望しながら立っていた。
「……あれっ、俺、死んだ?」
意気揚々と扉を開けたキルスが最初に見たものは真っ白な壁、左右どちらに行けばいいのかと思いながら左に進んだ。
進みながら壁を見るとどうやら扉をふさぐための衝立だったようだ。
そんなことを考えながら、部屋を見た瞬間、その奥に鎮座しているものにまずは驚愕。
まじかよ、と思いつつも思わず鑑定スキルを発動してしまった。
その瞬間がまさに今であった。
(な、なんで、こんなところに、こんなのがいるんだよ。ていうか、いきなりラスボスって、どんな無理ゲーだ)
キルスは自分が99階層から挑んでいることを忘れ、ダンジョンに入っていきなり闘う相手がラスボス級にヤバイ相手であったことに、このダンジョンを作った誰かに突っ込んだ。
しかし、キルスは知らないが、ここはこのダンジョンの最下層、といっても、スタイラエルもさすがにここまでのものは用意していない。
スタイラエルが用意した最初のボスはドラゴンの卵、それが孵ってドラゴンが守護する予定だった。
尤もただのドラゴンでも人間にはかなりヤバイ、だからこそのボスであった。
(エンシェントドラゴンって、あり得ないだろ。勝てるわけがない。……よし、逃げよう)
そう、ただのドラゴンとしてこのダンジョンのボスにされたドラゴンは、時間経過とともに進化し、ついにはエンシェントドラゴンとなっていた。
エンシェントドラゴンとは、約1万年以上生きたドラゴンが進化したもので、その強さは当然ドラゴンに比べ圧倒的に強くなる。
まず、その鱗はドラゴンの時点でただの鋼の剣では歯が立たず、ミスリルの剣ですら辛うじて傷を付ける程度となる。
また、ドラゴンであれば魔法が通用するが、エンシェントドラゴンとなると魔法に対する耐性が無効というまさになすすべがなくなるのだ。
攻撃力についても、その爪や牙はあらやるものを貫きたとえしっかりとしたフルプレートメイルを身に付けていようと受けた瞬間に命を落とすことになる。
また、尻尾による攻撃を受けたとしても全身の骨という骨が砕けることになる。
それだけでも一撃で命を落とすが、ドラゴンには更なる攻撃方法がある。それこそドラゴンといえばという有名な攻撃方法、ブレスである。
このブレスは、ただのドラゴンですら、燃え尽きるほどの熱量を持つ、ドラゴン最強の攻撃方法である。
つまり、総合して考えると攻撃を受けた瞬間に絶命することになり、こちらの攻撃が全く通用しないということになる。
いくら、キルスが前世の勇者時代よりも強くなったといっても、どう考えても勝てるビジョンが浮かばない。
だからこそ、キルスは踵を返したのだった。
「あれっ、まじで!」
部屋から出ようと先ほどの扉に向かい、開けようとしたが、なぜか開かなかった。
「えっ、なんで、えっと、まさか、嘘だろ」
これがこのダンジョンの最悪さだろう、この扉は一度開けて中に入り、扉を閉めると中からは開けることができないという仕掛けが施されている。
しかも、扉を開けると壁があり、中の状態を確認するためにはどうしても扉を閉めるしかないというほんとに最悪だった。
「これって、闘うしかないってことだよな。ていうか、ほんと無理ゲーじゃねぇか」
キルスが半分死を覚悟した瞬間であった。
だからといって、キルスもここで死ぬ気はさらさらない、出来るだけやってみるかとエンシェントドラゴンに立ち向かうことにした。
「まぁ、ドラゴンは前世で散々倒しているからな」
キルスの言う通り、前世の勇者時代、敵である魔王軍の配下にダークドラゴンがおり、その配下であるドラゴンを複数倒した経験がある。
といっても、その時は多くの仲間たちとともにというものであったが……。
「さてと、やるしかないか」
そうつぶやきながら、キルスは腰に差した剣を抜き放ち、エンシェントドラゴンに向かって歩みを進めた。
「グギャァァァァオ」
キルスの姿を見るや否や、エンシェントドラゴンは雄叫びをあげた。
これは歓喜の雄叫びであった。
このエンシェントドラゴンは、卵の状態でこの地に連れてこられ、ここで孵りここしか知らない、かつてはたまにやってくる挑戦者と闘い、彼らを葬ってきた。
しかし、ある時を境に誰一人やってこなくなり、エンシェントドラゴンは退屈していた。
だからこそ、久しぶりの来客たる、キルスに歓喜したのだった。
そして、その歓迎と言わんばかりに、息を大きく吸った。
「ちょっ、いきなりか」
キルスが見たドラゴンのモーションはまさに、前世でもさんざん見てきた最強の攻撃手段であるブレスのモーションであった。
「やべぇ」
ブレスの攻撃範囲は広い、それをよけるのはほぼ不可能、しかし、キルスはこれまで何度も見てきているからこそそのよけ方を知っていた。
それは、懐に飛び込むことだ。
ブレスは口から出る為にドラゴンから離れれば離れるほどに範囲が広くなる。つまり、ドラゴンの懐にはいりさえすればいくらでもよけられるということでもある。
といっても、逆にその場所は最もブレスのエネルギーが詰まった場所でもあるので当たったら塵1つ残すことはできない。
まぁ、エンシェントドラゴンの時点で離れていても喰らえば、同じ結果になるだろう。
というわけで、キルスは急いでエンシェントドラゴンの懐に飛び込んだ。
「あぶねぇ、なっと」
キルスは、飛び込んだところで、すぐさま剣で切りつけた。
ガキィィィン
「カッテ」
しかし、ドラゴンのうろこによってはじかれた。
「くそっ、どうするよ」
それからキルスはとにかく攻撃を入れ続けた。
しかし、やはりすべて硬いうろこにはじかれ全く傷1つ付かない始末であった。
そんなことをしていると、エンシェントドラゴンは鬱陶しそうに尻尾で薙ぎ払おうとする。
「うぉう」
当然キルスはそれをよける。
それから、エンシェントドラゴンは爪での攻撃、牙での攻撃と様々な攻撃をキルスに仕かけてきたのだった。
「くそっ、これ、どうしろっていうんだよ」
キルスはぼやきながらも、エンシェントドラゴンの攻撃をよけ、自身の攻撃を入れ続けた。
しかし、いくらやってもお互いに無傷であった。




