第233話 帝国との再戦
キルスと玲奈、幸、サリーナの4人の結婚から一週間余りが過ぎた。
キルスはまさに夢居心地の日々となっている。
ちなみに、キルスは妻3人に対して序列はつけていない。
つまり、3人は3人とも正妻であり、第一婦人であるというわけだ。
そんな甘くとも平和な日々を送っていたキルスたちであったが、ふいにその平和が破られた。
「キルスさん、帝国が軍を展開したようですわ」
サリーナも出奔したことで、帝国のことを我が国ではなく他国のように帝国と称した。
「軍を、思ったより早かったな」
キルスも帝国が軍を展開してくることは予想していた。
その目的はサリーナ、正確にはサリーナの持つスキルである魔獣使いであろうことは間違いない。
「サリーナのスキルはそれだけ奴らにとっては重要ってことだろ」
「はい、そうですわ、わたくしではないということが残念ですが」
サリーナは父親である皇帝が自分ではなく、自分が持つスキルを取り戻すための派兵だと半ば確信していた。
「それで、どのぐらいの規模なんだ」
「そうですわね。ちょっと待ってくださいまし」
そう言ってサリーナは目を閉じる。
これは、魔獣使いスキルの権能の1つである感覚共有において、従えている魔獣の目を共有しているのである。
実はこの権能はキルスと出会い、従魔との関係性を見直したことで獲得した能力である。
そして、今回サリーナが共有している魔獣は鳥型の魔獣であり、上空から帝国軍を眺めているのである。
「ざっと、100万ほどでしょうか」
「100万! 多くない」
「ええ、そうですわね。あっ、ちょっと待ってくださいまし、今別の場所でも展開が確認されましたわ。ええと、これはオレイスのあたりですわね。数は50万ですわ」
「しめて150万、なぁ、もしかして帝国は全戦力を向けてない?」
「そうですわね。帝国の全戦力はおよそ180万としておりますから、ほとんど出してきたということですわ」
「ほぼかよ! よくそんなにだせたな」
「それだけ、帝国は本気ということですわね」
「まじかぁ」
キルスは余りの本気度に辟易してしまった。
それでも、あまり焦った様子を見せないのは、ひとえにシルヴァーとサリーナが持つ魔獣たちの力を信用しているからである。
また、サリーナからも帝国の軍事力について詳しく聞いており、兵士や騎士の強さもキルスであれば圧倒できるとわかっているからである。
むしろ、前回魔獣軍団を用いても引かざるを得なかった事態を鑑みてもなお、攻め込んでくる帝国が信じられずにいた。
「なんでまた、そんなに王国を責めたがるんだ」
「それは、帝国のいえ、お父様の悲願があるからですわ」
「悲願?」
「はい、王国に地下深くに眠るといわれる秘宝を手に入れるためです」
「秘宝? そんなもんあったけ」
王国人としてもそんな話は聞いたことがなかった。
「まぁ、一般人が知るわけないか」
秘宝となれば、一般人でしかないキルスが知るはずはないのである。
「その秘宝ってどんなもんなんだ」
「わたくしが聞いたところによりますと、なんでもかつて存在した天才魔道具職人が作りしもので、それをめぐって争いが絶えなかったと聞いてます」
「んっ?」
サリーナの話を聞きキルスには何やら聞き覚えがあると感じていた。
「なぁ、それってもしかしてこれのことじゃないよな」
妻となったことでサリーナにはすでにキルスの秘密であるマジックストレージや前世のことは話してあった。
「おそらくですが」
サリーナもキルスの言わんとすることが分かり、おそらくマジックストレージのことであると考えた。
「だよな」
キルスとサリーナの予想通り、帝国皇帝がなんとしても手に入れたいものはズバリ、マジックストレージであった。
尤も、皇帝はそれをマジックストレージであるとは思ってはおらず、何らかの兵器と思っていた。
つまり、それさえあれば帝国は大陸を統一できると思っているのであった。
「なんとしても、奴らを倒し魔獣軍団を取り戻すのだ。われらの悲願のために」
「はっ!」
皇帝は軍務のトップに檄を飛ばした。
それを受けた軍務トップも気合を入れてキリエルン王国との戦争に向けて動き出した。
そうして、帝国のほとんどの戦力を投入しての戦争が今、幕を開けようとしていた。
「これまた、壮観だな」
「バウ」
眼下に広がる帝国兵たちを見下ろしたキルスがそう漏らすと、シルヴァーもそうだねと言わんばかりに小さく吠えた。
「これほどの高さから見ると、確かにそのセリフしか出ませんわね」
キルスの背後には妻となったサリーナが座り同じく眼下を見下ろしていた。
「敵の数100万に対して、こっちは今のところ2000、なにこの差」
余りの戦力差にまさに絶望的だったが、それでもキルスにはまだまだ余裕があった。
「ですが、わたくしの魔獣が100体おりますから十分に戦えると思いますわ」
「味方まで巻き込まないようにしてくれよ」
「わかっていますわよ」
魔獣軍団の戦い方は派手となるために、場合によっては味方に犠牲が出る可能性があった。
サリーナもそれを熟知しているために、そうならないように魔獣たちを操ることになっている。
「そんじゃ、始めますか」
キルスはため息とともに、開始ののろしをあげた。




