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第231話 置いて行かれたキルス

「……ということで、わたくし帝国を出奔いたしましたわ」


 サリーナはどうして帝国を出奔したのかをキルスに語ったのであったが、それを聞いたキルスはただただあっけにとられていた。


「そ、そのつまり、殿下はその結婚が嫌で出奔したと」

「はい、もちろんそれだけではありませんが」


 サリーナはそう言って少し顔を赤らめたがキルスはそれに気が付かなかった。


「それにしてもよく、出奔できましたね」


 帝国にとってサリーナの魔獣軍団は大いなる戦力、それを考えたからこそ皇帝はサリーナを軍部の将軍の嫁にすることで軍部を強化しようと考えたのであった。

 そんな戦力をむざむざ手放すとはキルスには思えなかったのであった。


「ええ、確かに容易なことではありませんでしたわ。しかし、わたくしの魔獣たちのおかげで無事出奔できましたの」


 サリーナはそれからどうやって帝国を出奔したのかをキルスに語ったわけだがそれは確かに容易なことではなかった。

 というのも、まず移動はこれまで通り馬車を使うわけにもいかず魔獣の背に乗っての旅路となったのは言うまでもない。

 皇女として生まれ、常に豪華な馬車に揺られて旅をし続けたサリーナにとってはこれはこれでつらいものとなった。

 しかし、それよりもそんなサリーナの出奔に気が付いた皇帝が軍を使って追いかけた。

 それはそうだろう、皇帝にとってサリーナは帝国の悲願を達成するには何よりも必要な駒、それを手放すことはあってはならぬことだからだ。

 そうして追われること数日、サリーナは魔獣たちを駆使して帝国兵たちを蹴散らしていった。

 尤も、サリーナも当初は帝国兵を殺さないようにと気をつけながらの道程であった。

 それというのも、サリーナはキルスと触れ合うことで領民、国民に対する考えが変わり彼らがあってこその国であり自分たち為政者であるということを理解したからである。

 しかしそうやって進むことは困難を極めたために、やむなく殺さざるを得ない事態へと発展していった。


「さすがは、帝国兵ですわ。わたくしの魔獣たちはずいぶんと力をつけたというのに、ここまで手こずるとは思いもしませんでした」


 たとえ出奔はしてもサリーナは帝国皇族としての誇りを失ったわけではないし、帝国兵は最強であるという自負も持っていた。

 だからこそ、サリーナは誇らしくキルスに苦労したことを語ったのだった。


「そうでしたか、でも殿下が無事で何よりですよ」

「ありがとうございますわ。ですがキルスさん、わたくし帝国を出奔いたしいましたので、皇女ではありません。ですのでどうか、サリーナとお呼びくださいませ。また、敬語も必要ありませんわ。キルスさんは貴族、わたくしはただの女ですから」

「えっ、ああ、そうでしたね。では、サリーナ、さんこれからどうするんだ」

「呼び捨てで構いませんのに、まぁいいですわ。それで、これからのことですが、時に聞くところによるとキルスさんはレイナさんとサチさんのお2人とご結婚なされるとか」

「気が付いたら、そうなってたなぁ」


 キルスはいまだになぜ自分が玲奈と幸2人結婚することになったのかわかっていない。

 もちろんキルスも結婚することが嫌というわけではない。貴族である以上複数の女性と結婚することはごく自然なことであり当たり前のこと。

 しかし、やはりここで元日本人として重婚は良くないと考えが頭の中にあるためにためらっているのである。


「そうですか、おめでとうございますわ」

「あ、ああ、うん」


 実に歯切れの悪い答えをするキルスであった。


「それでですわ。キルスさん」

「なにか?」


 サリーナがキルスの名を呼んだところで言葉を切ったために、キルスは疑問符を浮かべながら尋ねた。


「わたくしをその中に加えて頂けませんか?」


 サリーナは顔を真っ赤にしながらも決意の表情でそういった。


「……はっ? えっ、えっと、それはどういう?」


 キルスにはサリーナが何を言っているのかさっぱりわからない。


「あら、いいじゃない、ねぇ、レイナちゃん、サッちゃん」

「うーん、まぁ、2人も3人も同じだし、サリーナちゃんならいいかな」

「はい、異存はありません」

「なら、決まりね」

「えっ、なにが?」


 なぜか近くにいたエミルと玲奈、幸にはサリーナが何を行ったのかすぐに理解できていたために、すぐに話し合いが始まり了承したが、当のキルスだけは理解出来なかった。


「そりゃぁ、お嫁さんに決まってるでしょ」

「いや、そうじゃなくて、えっ! どういうことだよ姉さん」

「つまり、サリーナちゃんもキルスと結婚すんの」

「はっ?!」


 突然のことにもはやキルスは完全に絶句したのだった。



 その後サリーナを加えて3人とエミルにより、結婚の準備がいそいそと行われていた。


「ねぇ、サリーナちゃんはこっちのほうが似合うんじゃない」

「そうでしょうか?」

「はい、とてもよくお似合いです」

「ふふっ、ありがとうございますわ。サチさん、そちらも良く似合っていますわ」

「あっ、ありがとうございます」


 女3人姦しく衣装選びをしていた。


「ほんと、3人ともかわいいわね。キルスがうらやましくなっちゃうわね」


 そんな3人を見つめつつエミルは微笑んでいた。



「……なんでこうなったんだ?」


 一方でキルスだけは意味がわからずどうしてこうなったのかいまだに考えていた。

 しかし、これに悩むはやはり重婚という事実であり、なにも3人と結婚したくないというというわけではないのである。

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