第23話 2か月後
キルスが冒険者となって早いもので2ヵ月が経った。
その間キルスといえば、まず最初の依頼として採取系の依頼から始めた。これは、元冒険者である母レティアの助言と受付嬢であるニーナの意向によるものである。
というのもキルスの力は絶大だが、それでも圧倒的に経験が足りない、そこで最初から討伐ではなくまずは冒険者としての経験を積むために採取系の依頼から始まった。
もちろん採取系といっても、魔物と闘わないというわけではない。採取していると、そこにゴブリンなどの魔物が襲ってくるからだ。
そうして、ある程度慣れてきたところで討伐依頼を受けるようになっていった。
といってもEランクであるために、その魔物の強さはキルスと比べても瞬殺出来るレベルであり、キルスとしては全く面白くもないものであった。
という具合にキルスにとっては退屈で早くランクをあげたいところであった。
しかし、ギルドの規定により、冒険者になって2ヵ月以上経たないとランクをあげる昇級試験を受けることすらできないのであった。
(それにしてもようやく2ヵ月経ったよな。そろそろ昇級試験の声がかかるってニーナ姉さんも言ってたし、あと少しだな)
キルスは、依頼を受けたゴブリンの群れを討伐しつつそんなことを考えていた。
そうして、依頼を完遂したキルスはバイドルの街に帰ってきた。
「よう、キルス、依頼は片付いたのか」
門にやってくると門番が話しかけてきた。
「まぁな、群れとはいえゴブリンだからな」
「お前には余裕だな」
「そっちだってだろ」
「確かにな」
キルスとそんな風に気安く話をしているのは、ガイドルフのもとでともに修行しゆうに10年の付き合いになるドーラフだった。
そう、あの10年前、キルスがゴブリンを討伐するきっかけを作った男だ。
ドーラフは成長とともに、力をさらに付けたが、それはある程度のところで止まってしまった。
その結果、冒険者になることをあきらめ警備兵となった。
といっても、ドーラフの強さはキルスに比べればというだけで、実際にはかなり強い、その強さは冒険者としてもCランクは行けるだろうとガイドルフからのお墨付きだった。
しかし、ドーラフが目指すのはもっと上だった。また、バイドルの街で暮らしているうちに警備兵の大変さ、その意義に気が付きいつしか冒険者ではなく警備兵となることを目的として訓練に励んでいた。
そして、ついに警備兵となり現在門番となっているのだった。
「おい、ドーラフ、後が閊えているぞ」
キルスと話をしていると、どうやらキルスの後ろに人がまだいたようで、ドーラフは上司に怒られた。
「じゃ、俺はいくわ」
「おう」
ドーラフと別れたキルス、10年前はドーラフが一方的に敵愾心を持っていたが、今では良好な関係を築いていた。
それから、通りを適当にぶらつきながらキルスはギルドに向かったのだった。
ギルドに入るとそこはまだ時間が早いこともあって人の数もまばらであった。
そこを通って受付に座るニーナのもとにまっすぐ向かっていった。
ここは、別にまっすぐではなくてもいいのだが、そうするとニーナがふてくされて、少し面倒なことになることをキルスはわかっているために冒険者になって以来そうしていることであった。
「ただいま、ニーナ姉さん」
「おかえり、キー君、怪我とかしなかった」
「ゴブリン相手に、しないって」
「油断はだめよ」
「わかってるって、それよりはいこれ、討伐証明部位」
そういってキルスはゴブリンの討伐証明部位である耳を渡した。
「えっと、ちょっと待ってね。1、2……うん、確かに、全部で10匹分、確認しました。お疲れ様です」
ニーナもいくらキルス相手だからと、受付嬢としての仕事に手を抜くわけではないので、そこはきちんと対応している。
「それより、ニーナ姉さんいいことあった?」
「わかる?」
キルスとニーナは永い、しかもニーナは特にキルスを構っていただけあって、キルスもまたニーナが妙に機嫌がいいことに気が付いた。
「ああ、なんか機嫌がいいからさ」
「ふふっ、実はね、キー君、いい知らせがあるのよ」
「俺に?」
ニーナが機嫌がいいのは大体がキルスがらみだったこともあったが、それでも自分であるとキルスは聞き返した。
「そう、なんとね。キー君Dランクの昇級試験を受けられることになったの」
「まじで」
これはキルスにとって確かにいい知らせだった。
「まぁ、キー君の実力を見れば、誰だってEランクにしておくわけにはいかないわよ。まぁ、Dランクだっておかしいぐらいだしね」
「あははっ」
ニーナがよく知るキルスの実力は間違いなくBランクに届くものであった。それだけの実力があっていつまでもEランクというわけにはいかなかった。
「だから、ギルドとしてもキー君には早くランクをあげて欲しいんだけど、規定があるし、例外はないから、仕方ないんだけどね。というわけで、規定の通り2ヵ月経った今、ようやく昇級試験を受けてもらうってわけ」
ニーナはわがことのように嬉しそうにそういった。
「なるほどね。それで、試験っていつなの」
キルスはさっそく試験日について尋ねた。
「明日の朝10時に今回の受験者たちを集めて説明をして、明後日本番よ」
「わかった」
それから、キルスはニーナと別れを告げてから家路についた。
家についたキルスはさっそく家族に報告する。
「ただいま」
「おかえり、キルス」
キルスを出迎えたのはレティアだった。
「ただいま、母さん、みんなは、奥?」
「そうよ、これから忙しくなる時間だからね」
「そっか」
「何かあった?」
さすがの母親、すぐにキルスの様子に気が付いた。
「ああ、さっきニーナ姉さんから、Dランク昇級試験を受けられるって話があったんだ」
「あら、ほんとに、早いわね」
レティアも元冒険者として当然自身もDランク昇級試験は受けている。そのタイミングは冒険者になって、半年は経ってからだったことを思えばこその反応だった。
そして、息子であるキルスがそんな自分よりも優秀だと知れば嬉しい事であり、レティアも嬉しそうだった。
「そういうことなら、さっそくお祝いしなくちゃね。あなた、今日は宴会よ」
レティアは嬉しそうに喜び、すぐに厨房に引きこもっているファルコに今日が宴会であることを伝えた。
「どうしたんだい、急に?」
突然言われたファルコはキルスの言葉まで聞いていなかったために、何のことだかわかっていない、そのためこうして聞き返してきたのだった。
それから、レティアが厨房に向かいファルコに事の仔細を話したところファルコもまた喜んでいた。
そうして、この話は兄弟たちにも知らされてその日は家族そろっての宴会となった。
 




