第222話 予想以上の反響
「ラナさん、上がったよ」
「はーい」
「オルク兄さん、アジフライ3つ」
「わかった」
オルクの店代官食堂が本日開店、その反響は思っていた以上に大きく、街中の人間がやってきたのではないかと思えるほどだ。
そのため、ラナ1人では手が足りず急遽妹であるキレルが呼ばれ給仕を手伝っていた。
「お待たせいたしました」
「うぉぅ、これが例のか、うまそうだなぁ。おい」
「全くだぜ」
「ンなことより食おうぜ」
客たちの目当ては漁師たちから聞いたアジフライだった。
「なぁ、嬢ちゃん、これなんだ?」
「えっと、ああ、これはエビをアジと同じようにしたものですよ。私も食べましたけど、すっごくおいしいの」
客の中にはアジフライのほかのメニューに興味を示し、近くを通りかかったキレルにどんな料理か尋ねている。
「へぇ、エビか、うまそうだな。こいつを頼むぜ」
「あっ、俺も」
「わたしも頂戴」
「あっ、はい、エビフライ3つですね」
そう言って忙しそうにキレルは再びオルクのもとに注文を告げに言った。
「思っていた以上だな」
「はい」
そんな食堂の様子を隅のほうで見ていたキルスとメリッサはそうつぶやいていた。
「さて、俺も手伝うか……と言いたいけれど、さすがにそれは駄目か」
「はい、旦那様はご領主ですから、領主が給仕はなりません」
「だよな」
キルスはこの地の領主であり、その領主が民に給仕をするというのはさすがに良くないとメリッサに止められたのだった。
「でも、さすがにキレル1人増やしただけじゃな。仕方ないロイタ、は無理だと思うから、ロークとオーレルあたりを連れてくるか」
キルスが3男でありキレルの1つ上の兄であるロイタは無理だといった理由は、ロイタには人見知りなところがあり、生まれた時から接していたバイドルなら問題なく給仕できるが、新し場所で新たな人と接することは難しいと考えたからだった。
そこで、キレルの1つ下の弟ロークとその下の弟オーレルを応援に呼ぶことにした。
この2人はそれぞれ11才と9才ということで、まだ幼いながらも問題ないからである。
「それがよろしいかと、ロイタ様はわたくしもいまだなじんでおられませんから」
「そうなんだよなぁ」
ロイタの人見知りは激しく、なじむには相当の時間が必要だった。
そういうわけで、キルスはすぐさまバイドルへ転移した。
「あら、キルスおかえり、どうしたの?」
「キルス、オルクのほうは、どうかな?」
突然の帰宅に驚くレティアと息子の店が気になるファルコであった。
「すごい繁盛してる。だから、応援を頼もうかと思って、ロークとオーレルあたりでいいと思うんだけど」
「そうね。あの子たちなら大丈夫でしょ」
「ああ、んっ? なんだロイタ?」
キルスが両親と話をしているとふいにキルスの服が引っ張られたのでそっちを見ると、そこには相変わらず気配の小さいロイタがいた。
「……僕も手伝う」
ロイタが小さな声でそういった。
「いいのか? それはそれで助かるが、かなりの人がいるぞ」
「……うん」
ロイタも自分が人見知りが激しいことは理解している。それでも、家族が大変な時にただじっとしていることなどできなかった。
そのため、ロイタもまた手伝うと名乗り出たのだった。
「わかった、それじゃ頼む」
ということで、キルスはロイタとローク、オーレルの3人を連れてオレイスへ転移した。
「あれ? ロイタ兄さん!」
「ロイタも手伝うって」
「えっ、ホントに!!」
キルスが代官食堂に戻ると、キレルがそれに気が付きやってきたがそこで目にしたロイタに目を丸くした。
「僕も手伝うよ」
こうして、ロイタを含む兄弟たちの活躍のおかげもあり、何とかその日の営業を乗り切ったのであった。
「ふぅ、思っていたよりもお客さん多くて大変だったね。ロイタも頑張ったね」
オルクはそう言ってロイタの頭をなでた。
オルクにとってロイタは、ちょっと心配な弟であったが今回のことで確かな成長を感じたために思わず幼いころのように頭をなでたのだった。
「う、うん」
頭をなでられたロイタも少し照れくさいながらも素直に受け入れたのだった。
「明日もこの調子かな」
「おそらく」
オルクのつぶやきに答えたのは、オルクの家令であるホスマスであった。




