第221話 食堂開業
新たな家令候補を用意できたという報せを受けたキルス、王城に向かうとそこにいたのはキルスの父方の親戚筋となるフェルードナルド侯爵だった。
「わしのところの者を使ってもらえんか」
フェルードナルド侯爵がいた理由はキルスに自分とこにいた者を家令として使わないかというものだった。
「よろしいのですか?」
「うむ、むしろ使ってもらいたいのだ。ホスマス」
「はっ、お初にお目にかかります。オルステン卿、わたくしホスマスと申します」
フェルードナルド侯爵に促されて背後にいた人物が一歩前に出てキルスに挨拶をした。
ホスマスは年のころなら30代半ばの細身の体躯でありながらどこか油断できなさそうな雰囲気を醸し出した執事然とした男だった。
「へぇ、もしかして剣の方もやるのか?」
「ご慧眼感服いたします。確かに剣も学んでおります」
「こ奴は、かつて冒険者をしておってな。その時のランクはBランクだったな」
「はい、僭越ながら卿と同じランクにございます。尤も、明らかに卿のほうがお強いと推察いたします」
ホスマスのいう通り同じランクでもキルスのほうが圧倒的に強いのはよくわかる。
といっても、ホスマスの強さもBランクとしては上位にあると思われた。
「なるほどね。でも、元冒険者に家令が……」
キルスは自身もまた冒険者であったために家令が務まるのか心配した。
「それなら問題ない。こ奴の一族は代々我がフェルードナルド家に仕えておってな。こ奴の父はわしの家令を務めておるし、兄はその下で補佐をしておってのぉ、こ奴も幼いころよりその教育を受けておる」
どうやら、キルスの杞憂であったらしい。
ホスマスは次男として兄の予備として育てられたが、兄は健康にして優秀予備の必要がないこととなった。
そこで、かねてよりの願いから冒険者となった。
そして、20代後半となった時、冒険者としての限界から引退し、再び使用人としてフェルードナルド侯爵家に雇われていた。
「こ奴も能力的にもいずれは家令として使いたいと思っていたのだが、いかんせんこ奴の兄がおる。あ奴もまた優秀で使わないという手はないからなぁ」
その結果宝の持ち腐れのように使用にとして使うしかなかったという。
「そんなおり、おぬしが家令を探しているという情報を耳にしてのぉ。なら、ぜひこ奴を使ってもらいたいのだ」
「そういうことですか、なら、こちらとしては全く問題ありませんし、ぜひお願いしたいです」
ということで、キルスはホスマスを雇い入れることを決めたのだった。
それから、キルスはホスマスを連れてオレイスへ転移したのだった。
もちろんホスマスのキルスの転移はもちろんマジックストレージの存在を知り驚愕したのは言うまでもないだろう。
「ただいま兄さん」
「おかえりキルス、もしかしてそちらの方が?」
「ああ、兄さんの補佐をしてもらう家令のホスマスだ。ほら、フェブロじいちゃんの従兄弟っていうフェルードナルド侯爵家に使えていた人だそうだよ」
「へぇ、それなら安心だね。えっと、ホスマスさんよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いいたしますオルク様、どうかわたくしのことはホスマスとお呼びください」
「そうだね。わかったよホスマスこれからよろしくね」
「はい」
「えっと、わたしはラナです」
「お話は伺っております。オルク様の婚約者とのことですが、ぜひ奥様と呼ばせて頂けますでしょうか?」
「えっ、奥様?」
ホスマスの奥様呼びにラナは顔を真っ赤にして戸惑ったが否定はしなかったことで、今後ホスマスはラナのことを奥様と呼ぶこととなった。
「さて、ホスマス簡単に話はしたと思うけど、兄さんはこの屋敷で食堂を開こうとしているんだ。これは俺の家令を務めてもらっているメリッサの案なんだけどどうかな?」
「拝見いたします……」
メリッサから届いた書類をホスマスは読み始める。
「それじゃ、ちょっと俺メリッサを連れてくるよ」
「うん、行ってらっしゃい」
ということで、キルスはホスマスとメリッサの顔合わせのためにオルスタンへと転移したのだった。
そうして、まさにとんぼ返りで帰ってきたキルスにホスマスは言った。
「これは素晴らしいです」
「ありがとうございます」
それに答えたのはキルスではなくメリッサだった。
その後、メリッサとホスマスの顔合わせを終え、具体的な話し合いが行われることとなったが、話し合いのメインはホスマスとメリッサ、時々オルクということで、キルスはある意味で蚊帳の外となっていた。
数日が経過した。
「っで、こいつを建てらりゃぁいいのか?」
「お願いします」
「おう、任せろ、あんたの料理はうまいって聞いたからな。今から楽しみだぜ」
オルクの食堂の設計が出来たところで、地元の大工を呼び寄せさっそく建ててもらうこととなった。
そうして、依頼をしてみるといつの間にかオルクの料理の腕が伝わっているようで大工はそれを楽しみだと快く建築を請け負ってくれたのだった。
尤も、その言葉遣いが悪いために、若干ホスマスが顔をしかめたのは言うまでもないが、オルクがまったく気にしていないためにここは不問としたのだった。
こうして、始まった建築だが大工の頑張りもあってか2月足らずで建った。
「思ったよりも早かったな」
「そうだね。これもヤットクさんのおかげだよ」
ヤットクというのは大工の棟梁の名前である。
最初こそオルクの料理を食べることを楽しみに頑張っていたヤットクであったが、途中差し入れということでオルクが料理を出した。
その時、噂以上にうまい料理だったこともあり、これは早く食べたいということでより一層頑張ったようだ。
「おう、どうだ。すげぇだろ」
「はい、ありがとうございます。さっそく開けそうですよ」
「おう、そいつは楽しみだぜ」
そう言って、ヤットクは颯爽と帰っていった。
そして、それから数日後ついにオルクの代官屋敷に代官食堂が開業したのだった。




