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第22話 打ち上げ

 キルス達が冒険者としての初めての仕事であるソルケイ川の掃除は特に問題なく、午後を過ぎたあたりで恙なく(つつがなく)終了した。


「サディアスのやつ結局最後まで何もやらなかったよな」

「ほんとにな、タダ座っているだけって、よく退屈にならなかったよな」

「言えてる」


 キルス達は掃除道具をギルドに返し、報酬をもらってからギルドを出たところでその話をしていた。

 ちなみに、問題のサディアスはやはり受付で文句をいいレティエルーナに黙らされていたが、キルス達はもう自分たちとは関係がないと無視することにした。


「それで、これからどうする」


 ガイネルが思ったよりも早く終わったので、この後どうするかを皆に尋ねた。


「そうね。打ち上げとかしたいかな。といっても、まずは体を拭きたいけど」

「同感だ」


 この世界には風呂という文化もシャワーという道具もない、そのため体を拭くか湯をたらいに張って香油をたらし洗うという方法しかない。

 それは前世で地球の日本にいたキルスとしては少し物足りない物であったし、日本人であったためにドブ掃除をした後に体を洗うことはしたいと考えた。


「それじゃ、まずそれぞれ部屋に戻って体を拭いてからまた合流して打ち上げしない」


 シャイナがそう提案した。


「そうだな。そうするか」

「それで、何処でやるんだ。ギルドか」

「キルス、どこか知らないか」


 唯一の地元民であるキルスにビルが尋ねた。


「俺にそれを聞くと紹介できるのは1つしかないぞ」

「へぇ、どこ」

「俺んち」

「キルスんちって、なんだよそれ」

「俺の家は食堂なんだよ」


 ガイネルが不思議そうに尋ねてきたのでキルスは真実を話した。


「ああ、そういうこと、あっ、そっかだからキルスって野営試験の時に干し肉料理していたんだ」

「まぁな、そういうこと、父親と兄が料理人だからな。まぁ、兄さんは別の街で修行中だけど」

「へぇ、美味いのか」


 ここでガイネルが食堂の息子に挑発的なことを聞いてきた。


「ああ、美味くて安いがモットーの店だからな。ほら、試しにこれ食ってみな」


 キルスは試しと言って持っていた背嚢から干し肉を取り出して3人に渡した。


「これって、干し肉」

「こんなものを食って何がわかるんだ」

「まぁ、食ってみなって、そいつは父さん特製の干し肉だ」

「なに」


 それから、3人が一斉に干し肉を食べ、驚愕した。


「うそっ」

「まじか」

「これが、干し肉? 別物じゃねぇか」


 そう、キルスの父ファルコは冒険者であったレティアの為に特別に開発した美味い干し肉、それを息子であるキルスもまた作ってもらっていた。


「店で売っている干し肉はあまり美味くないからな、それを知った父さんが作ったんだよ」

「なるほどな、これは、他の料理も期待って訳ね」

「そういうことだ」


 それから、4人は一旦解散した。



「ただいま」


 3人と別れたキルスはまっすぐ家に帰った。


「おかえりなさい、キルス」

「おかえりー」

「おかえり、キルス兄さん」

「キルス兄ちゃんだ。おかえりー」


 キルスが家に帰ると、兄弟たちが一斉に挨拶してきた。

 そのうえ、小さい弟や妹たちはキルスに突撃を仕かけてきた。


「うおぅ、あははっ、お前ら、突撃はやめろっていっただろう」


 やめろと言いつつ嬉しそうに笑うキルスであった。


「ふふっ、ほら、あなたたち、キルスから離れて、ほら、キルスも、今日は川掃除してきたんでしょ、体を拭いてきなさい」


 そんな兄弟たちの戯れを見ていたエミルがそういった。


「はーい」

「わかっているよ。ああ、そうだ、姉さん」


 兄弟たちも長女であるエミルのいうことは聞くようだ。


「どうしたの」

「この後、一緒に登録試験を受けた連中と打ち上げをすることになったんだ」

「打ち上げ、家で?」

「ああ、そのつもり」

「そう、何人なの」

「えっと、俺も合わせて4人」

「そう、わかったわ、父さんたちに伝えとくわね」

「うん、任せる」


 それから、キルスは部屋に行き体を拭いてから店に出て行った。



 キルスが店に出て少しすると、3人の客がやって来た。


「おう、キルス、いるか」

「あっ、いたいた、キルス、お待たせー」

「いい店っぽいな」


 客とはビル、シャイナ、ガイネルの3人だった。


「よう、3人ともそこらに座ってくれ」

「ああ」


 3人と簡単な挨拶をかわした後、キルスは3人を空いている席に案内して自身も席に着いた。


「姉さん、みんな来たから、適当に出してよ」


 席に着くと近くにいたエミルに注文をした。


「はいはい、ちょっと待ててね」


 そんなエミルを見たビルとガイネルは呆け、シャイナも見とれていた。


「キルスのお姉さん? すっごく綺麗だね」


 シャイナがようやくその言葉を絞り出し、ビルとガイネルはそれに同意するように何度もうなづいていた。


「そうか、まぁ、小さいころから見ているから、俺にはよくわからないけどな」


 これはキルスの本音だった。いくら前世の記憶を持っているといってもさすがに実の姉相手にそんな感情はでない。


「うらやましいぜ。そういえば受け付けのニーナも姉とか言ってなかったか」

「そうだよ、お前、ニーナだってあんな可愛いのによ。そのうえ実の姉までって、うらやましいを通り越してにくいぜ」

「確かに、ニーナさんは可愛いって感じだけど、お姉さんは綺麗だよね」


 それから、エミルやキレル、レティア達が料理を運んできて、ロイタがキルスに飲み物を運び、エミルたちがビルたちに飲み物を渡して打ち上げが始まった。


「それじゃ、晴れて冒険者になれたことを祝して、乾杯」

「乾杯」


 それから、4人の話題は自然とサディアスのことになった。


「しかし、あいつ、これからどうするんだろうな。明日もやると思うか」

「やらないでしょ」

「やらねぇって」

「俺もそう思う」


 サディアスはシャイナから警告を受けたにもかかわらず、あれから川掃除を一切しなかった。

 そして、当然ギルドでもめた。



「あら、なんの話?」


 そこで、レティアが話に加わった。


「ああ、母さん、実はさ……」


 キルスは簡単にサディアスのことを話した。


「……」

「……それはまた、典型というか、珍しいというかといったところね」


 レティアによると、貴族冒険者というものは、典型としてサディアスと同様の行動をする。

 しかし、冒険者となろうとする貴族というものはそこまで多くない上に、冒険者として活動している貴族の中にはちゃんとそういった仕事もこなしているらしい。


「えっと、つまり、サディアスはランクも上がらないってことですか」


 おまけに、その典型の行動を取っている貴族冒険者は相応にしてランク昇格ができないらしい。


「そうよ、だから、数日もしないうちに街を出て行くでしょうね」

「へぇ」


 キルスにとってはどうでもいいことだが、実際サディアスは数日もしないうちにバイドルを出ていくことになる。


 その後は元冒険者ということでレティアから冒険者時代の話などを聞いたり、キルスが持っていたファルコ特製の干し肉を特別に売るといった話をしながら打ち上げは盛り上がった。

 もっとも、ビルたちが一番驚いていたのは、キルスの兄弟の多さだったが……。

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