第218話 オルクのやり方
オレイスの港へとやってきたキルスたち、そこで水揚げされていたアジルナという地球でいうアジそっくりの魚を見つけた。
すると、漁師の1人がそんなキルスたちへアジルナを1匹もらい受けたのだった。
「おい、お前そいつら蛮族じゃないか、そんな奴にやるなよもったいない」
キルスがアジルナを受け取っていると、ふいにそんな声がした。
「蛮族? それがどうした?」
「お前なぁ、蛮族っていうのは野蛮で、料理なんて知らず、肉を生で食うような連中なんだぞ。そんな奴にそんないいアジルナを渡すなんてゴミに捨てるようなものだぞ」
ずいぶんと言いたい放題でいう男であった。
「そうか? 俺にはこいつらがそういう連中には見えないぜ」
漁師が見たのはオルクだった。
オルクは彼らのいう蛮族であり、その国でも平民育ちにもかかわらず内面から気品脳ようなものがあふれているのだった。
「た、確かに見た目はそうかもしれないけどよ」
オルクを見た男も一瞬そんな気がしたがすぐに違うと断じた。
「だろ。だったら兄さんそいつをどう食うのか見せてくれるか?」
漁師がキルスに向かってそう言った。
「それは構わないが、いいかな兄さん」
「うん、僕は全然構わないよ」
「ほぉ、面白そうですわね」
「えっ!」
ここにきて漁師たちはサリーナの存在に気が付いた。
もちろん彼らがサリーナが皇女であるということがわかったのではなく、帝国人でありしかもそれなりに身分の高い人物ではないかということだけであった。
しかし、それだけでもその人物が自分たちが蛮族と教育を受けてきた者たちと一緒にいるという事実には驚かずにはいられない。
こうして、始まったアジルナの調理、それを行使するのはもちろん料理人であるオルクである。
「さて、何を作ろうか……さっき言っていたフライにしようか」
「おっ、いいね。俺アジフライ好きなんだよ」
「そうかい、それじゃそうしようか」
「アジフライ? とは何でしょうか?」
サリーナだけはアジフライが何か知らないためにキルスに尋ねた。
それから、キルスたちは漁師たちが使うかまどへと案内された。
「ここを使ってくれ、ここは俺たちが漁に言っている間にかかあどもが使っている場所でな。今は使ってないから構わんだろ」
とっさのことでその妻たちから許可は得ていないという。
「ええっと、それは、ちょっと悪い気がするなぁ」
無許可で台所を借りるという事実に料理人として気が引けているオルクであった。
「大丈夫だよ。兄さん、オリエがさっき許可を取りに行ってくれた」
キルスもその可能性を考えて、帝国人であるオリエに許可取りを任せたのであった。
すると、ちょうどその時オリエが見知らぬ中年女性を連れてやってきた。
「あんたたちかい、この台所を使いたいってのは」
やってくるなりキルスたちに向かってそう言ってきた。
「ええ、僕はオルクといいます。キリエルン王国の料理人です」
オルクが使用者ということで答えた。
「あ、ああ、あんたかい、いやぁ、いい男だねぇ。あたしゃ驚いたよ。しかもキリエルン王国って、確かこの間戦争をしたっていう蛮族とかいう連中だろ、そうは見えないけどね」
女性はオルクを見てその美貌に戸惑うも、何とか持ちなおしてそういった。
「ははっ、それで僕がこのアジルナを使って料理をしようと思いましてこちらの台所を使わせていただきたいのですが、よろしいですか?」
「ああ、そうだね。きれいに使ってくれるなら構わないよ」
許可を得たことでオルクはさっそく借りた台所に手持ちの包丁などを置き、鍋など準備し始めたのだった。
「キルス、どうするんだい」
準備を整えたところでオルクはアジフライの詳細を知っているキルスに作り方を尋ねた。
「ああ、まずはアジルナを背開きで開いて」
「背開きだね。わかった」
オルクは以前に魚を背開きでさばいたこともあるために、あっという間にアジルナを背開きにした。
「へぇ、やるね」
「はん!」
その手際の良さに漁師と女性が感心していた。
「開いたら軽く塩と「コショウで味付けをしてから衣をつけて揚げるんだ」
そんなキルスの指示のもとオルクは手際よくアジルナをアジフライにしていく。
「あとはソースだけど、そうだなぁ。ここはタルタルが一番だよな」
というわけで、キルスはオルクにタルタルソースの作り方を教えていく。
「出来た。さぁ、食べてみてください」
「ふんっ、いいぜ。食ってやるよ」
キルスたちに食ってかかった漁師が意を決したようにそういった。
その表情はまさに毒でも食らうかのようなものであった。
そうして、恐る恐る1口かじりついた。
「!!? うっ、うめぇ、なんだこりゃぁ」




