第214話 帰らないサリーナ
国王たちとの相談を経て、子爵に昇進したキルスは帰宅後再びサリーナとの会談をすることにした。
しかし、やってきたサリーナを見たキルスは固まった。
というのも、サリーナは縦ロールというまさにピッタリな髪型へと変貌していたのだった。
この世界にはこの縦ロールを含む複雑な髪型は存在しない。
その理由は簡単で、そのための道具がないからだ。
というより、ドライヤーなどもないこの世界では複雑にしようがない。
だからこそ、皇女であるサリーナであっても、これまで長い髪を緩く縛りアクセサリーなどで飾るしかできなかった。
「いかがでしょうか?」
サリーナは自分の髪型の評価を異性に聞きたくて、キルスに尋ねたのであった。
「とてもよく、お似合いです」
キルスも困惑しながらも、正直に答えた。
それを聞いたサリーナは顔をほころばせた。
(まさか、縦ロールって、似合いすぎだろ)
サリーナは金髪碧眼という、地球でいう典型的な白人女性であり気の強い美少女、まさにキルスが思い描く縦ロールそのものだった。
玲奈もまた同じ印象を得たことからこの縦ロールにしたのだった。
そうした衝撃もあったが、キルスとサリーナは再び会談を開始した。
「殿下は、姉とE&R商会を尋ねられたそうですが、いかがでした」
キルスはまず、サリーナにE&R商会の評価を尋ねた。
「そうですわね。我が帝国も美容にかけては自身があったのですが、すべてにおいてかの方々には敗北というほかないでしょう」
キルスが考えていた以上に高評価を得ている。
「レイナ殿の美に関する知識、技術は我が帝国を凌駕し、ぜひわたくしの専属になっていただきたいほどですわ」
「そ、それは、高評価を頂きありがとうございます。ですが、玲奈は友人であり家族ですからたとえ殿下であってもお渡しは出来ませんが」
実はこの玲奈のスカウトはキリエルン王国においても起きていた。
主に、王女たちは妃たちであったが。
「ええ、レイナ殿にも同じように断れられてしまいましたわ」
サリーナは非常に残念ですと、心底残念そうに言った。
「ですが、その知識と技術は玲奈も伝えることを良しとするでしょうから、ぜひ学んでみてください」
「ええ、ぜひそうさせていただきますわ」
本来こういった知識と技術は秘匿すべきとされているこの世界において、玲奈のようにあっさりと披露することはないといっても過言ではない。
しかし、玲奈は現代日本人であるからして、こういったことを広く知らせることに違和感を覚えることすらない。
だからこそ、誰でも望み玲奈がその気になれば教えているのである。
こうして、キルスとサリーナの会談はにこやかなムードで始まった。
「ところで、オルステン殿、今回の会談はどのようなことでしょうか」
サリーナはキルスへの賠償と褒賞の件は数日はかかると考えていたために、なぜ今呼ばれたのかがわからなかったのだった。
「はい、殿下がおっしゃった件ですが、謹んでお受けいたします」
「まぁ、そうですか。では、そのように取り計らいましょう」
「お願いいたします」
「いえ、ですが、思っていたよりもお早い決断で少し驚いています」
「あははっ、確かにそうでしょうね。ですが、俺には転移というスキルがありますから、すぐに王都へ行くことが可能ですから」
「!!?」
キルスが転移スキルを持っていることを話すとサリーナはいろいろな意味で驚愕した。
まず、普通なら己が持つスキルをこうも簡単に話さないということ、しかも敵国の皇女であるサリーナに対してだ。
「て、転移、ですか、そのようなスキルがあると聞いたことがありませんが、ずいぶんと稀有なスキルをお持ちですね」
「いえ、まぁこれは先日覚えたばかりのものですけど、自分が行ったところにしかいけないうえに、消費魔力が非常に大きいので使い勝手はそれほどいいものではありませんが」
「そうなのですか、それでもわたくしにはずいぶんと有用なスキルに思えますわ」
この時、サリーナは戦慄したのは言うまでもない、E&R商会で受けた衝撃もさることながら、転移スキルという素晴らしいスキルを持つキルス、これはますます敵に回すことより、味方に引き入れるほうが有用であると考えた。
(これはきっと、お父様にご報告しなければなりませんわね)
その後、キルスとサリーナは具体的にオレイスをいつ引き渡すかなど様々な話し合いをした後、会談を終えたのだった。
そんな会談から5日が経過した。
「そういえば、サリーナ殿下はまた玲奈のとこか?」
「はい、ほぼ毎日E&R商会へ赴いているようです」
「いいのかそれ」
キルスが思うようにあの日からずっとサリーナはオルスタンに滞在していた。
「そうですね。一応使者を送っているようですので、オレイスに関しては問題ないかと思いますが」
「まぁ、俺としても特に困るわけでもないからいいけどな」
それからキルスは変わらず執務に戻ったのだった。
そうしてから、さらに数日が経過して帝都からサリーナあての使者がやって来て、帝国皇帝からのすべて了承の返事が来たとの報せがキルスの元へとやってきた。
こうして、キルスは正式にオルスタンとオレイスまでの領地を獲得したのだった。
(これから統治が面倒そうだな)
「メリッサ、オレイスも民は帝国人だよな」
「はい、もちろんです」
「となると、また掌握からか」
「そうなります。ですが、また料理と美容で問題ないかと」
「だな。でもまぁ、港町だし当然魚とかもあるだろうし、俺としてはそこは楽しみだけどな」
元日本人としては、海の魚を定期的に仕入れることができるのは実にうれしいキルスであった。
ちなみに、オレイスがキルスのものとなった時点でサリーナは帝都へ帰還するものと思っていたが、サリーナには帰ろうという気配が全くなかったのであった。




