第213話 サリーナの髪型
E&R商会にてサリーナが衝撃とともに敗北をかみしめているころキルスはというとまだ王城にいた。
「これより、オルステン殿、ボライゲルド殿への陞爵の儀を行います。まずは異議のあるものはおりますか?」
突然の2人の貴族が陞爵ということで、王城謁見の間では集められるだけの貴族が集まり宰相が異見があればと尋ねる。
「陛下、お言葉ながら申し上げます」
「よい、申してみよ」
「はっ、先ほど宰相殿のご説明によりますれば……」
このように当然ながら異議が多く上がった。
というのも、やはりキルスは元は平民、貴族の中にはキルスを貴族として認めていない者も多くいる。
それでも、何も言わないのは国王が言い出したことであり、何よりキルスが領主となれば自然フェンリルたるシルヴァーが帝国への盾となってくれると考えたからだった。
しかし、だからといってここで街を2つもキルスが受けることには反対したい。
というか、オレイスという街は港町であるということも大きい。
港町ということは、うまくすれば他国などとの貿易などもできる上に海産物、塩なども得られ利益も大きいからだ。
そんなところを新参のキルスに渡したくないというのが本音だった。
「うむ、確かにオレイスは港町、多くの利益が見込めるだろう」
「ならば」
国王の言葉に食いついた貴族たちに国王は手を上げて制した。
「だが、思い出してみよ。オレイスもまたオルスタンと同じく帝国に面することになる。おぬしらにその地を守れるのか、また、かの地は元はオルスタンと同じ者が領主だった街でもある」
国王のこの言葉に貴族たちははっとした。
というのも、彼らもまたそれぞれの独自のルートでオルスタンにおいてスタンピードが発生したことやその原因をつかんでいたのだった。
「もし、またスタンピードが発生してもキルスであればこれに対処も出来よう、違うか」
「そうなれば、必ずや治めて見せます」
国王の言葉にキルスは力強く答えた。統治は素人でも、戦闘は任せてくれということであった。
それから、いくつかの異議があったが国王と宰相がこれに答えたことで何とかキルスのオレイス獲得と子爵の陞爵は可決されたのだった。
こうして、王城での疲れた時間を終えたキルスはボライゲルド侯爵を伴い、まずボライゲルドへ転移しその後オルスタンへと戻ったのだった。
「おかえりなさいませ。旦那様」
「おう、ただいま」
キルスが転移でオルスタンへ帰るとメリッサが出迎えた。
「いかがでしたか?」
「ああ、帝国の賠償を受け取ることになった。んで、街2つを治めることになるからって子爵になったよ」
キルスは少々疲れ気味にそう答えた。
「それは、おめでとうございます」
「ああ、まぁ、えっと、それで、殿下はどうしてる」
「はい、殿下はエミル様とともにE&R商会におられます」
「ああ、やっぱりな。となると」
「はい、すでにご想像どうりかと」
「だろうな」
キルスがエミルに任せた理由の1つが、このE&R商会の力をサリーナに使うという目的があった。
この世界の美容技術は地球に比べて低いため、玲奈が持つ美容技術と知識はこの世界にとっては衝撃であった。
このオルスタンの女性たちもそんな玲奈の技術と知識のとりことなったことから、サリーナもまた同じくとりこになると考えた。
そして、事実としてサリーナはすでにE&R商会のとりことなっているのであった。
時間は少しだけさかのぼって、E&R商会では、サリーナの化粧を終えた玲奈が今度は髪をいじりたいと申し出た。
これには、化粧によりすでに玲奈に気を許していたサリーナは了承、オリエもまた特に何かをいうこともなく快諾したのだった。
「それじゃ、失礼しますね。えと、まずはこの薬液を使います」
「それは何かしら?」
「はい、これは簡易シャンプーというものでして、本来でしたらお湯と髪用の石鹸を使いたいところですが、まだそういった設備がないのでこれを使って髪の毛の汚れなどを溶かして落としたいと思います」
「汚れを、ですか? ですが、わたくし毎日洗っておりますわよ」
サリーナのいう通り、皇女ととなれば毎日お湯と石鹸を用いてオリエが丁寧に洗っている。
「はい、確かに、見た限りでは目だった汚れはありません。ですけど髪の毛って油とか埃とかで細かい汚れがつくんです。これはそういった汚れを溶かす薬なんです」
「そう、まぁいいわ。お願いしますわね」
「はい」
それから玲奈はサリーナの髪の毛に簡易シャンプーを吹きかけつつ用意したタオルで丁寧にぬぐっていったのであった。
この簡易シャンプーは玲奈がこの世界に来た時シャンプー自体が存在しないということに絶望し絶叫、すぐに開発に取り掛かり完成周囲に配ったがここで問題が発生した。
というのも、シャンプーを使うためにはお湯がいる、しかしそのお湯をキルスたちは家族は魔法ですぐに用意できるが一般の人は貴重な薪を使わなければならず用意できない。
それを知った玲奈が一般向けに開発したのがこの簡易シャンプーなのであった。
これはバイドルを中心に女性冒険者たちに爆売れとなったのは言うまでもないだろう。
「まぁ、なにやらサラサラしてますわ」
洗い終わった後、髪の毛がさらさらとしていることにサリーナは驚愕した。
「それじゃ、ちょっといじりますね」
それから、玲奈はサリーナの髪をいじりだしたのであった。
そんな濃い1日を終え夕方、キルスとサリーナは再び会談していた。
「え、えっと、殿下?」
サリーナを見たキルスは目を点とていた。
(あれって、犯人はどう考えても玲奈だよな。ていうかそれしかないし、いや、確かにとてつもなく似合ってるけどなぁ)
キルスが驚愕している理由、それはサリーナの髪型にあった。
「こちらはレイナ殿にお任せいたしました。いかがでしょ」
サリーナは少し顔を赤らめながらキルスに感想を求めた。
「えっ、はい、とてもよくお似合いです」
(まさかの金髪縦ロールかよ)
キルスが内心突っ込んだようにサリーナはこれでもかというほどの見事な縦ロール姿となっていた。




