第201話 冒険者ギルド
エミルと玲奈による新規商会E&R商会の商品を使ったデモンストレーションは思っていた以上に好評で、その後従業員を募集したところ多くの応募があった。
といっても、すべての者たちを採用できるわけではなく面接の末幾人かの人が泣く泣く不採用となった。
「姉さんはどうだ」
デモンストレーションから2日、キルスは執務室で仕事をしながら近くにいたメリッサに尋ねた。
この2日間キルスはメリッサが用意した執務に追われていたのだった。
「はい、エミル様とレイナ様とサチ様は現在応募者の面接をされております」
「ああ、そういえば応募が殺到したんだっけ」
「はい、あの場にいた女性たちのほとんどが応募されています」
「だろうな。姉さんの石鹸と玲奈の化粧、あれを見たらな」
女性の多くが美のために必死であり、そのための商品を開発販売する商会ということで多大なる興味をひかれたというわけだ。
「まぁ、姉さんたちには悪いけど、何とか頑張ってもらうしかないだろうな」
「はい、わたくしもこの後お手伝いをさせていただく予定です」
メリッサもまた一段落したところで面接会場に向かう予定であった。
「そっか、それじゃその間俺はギルドにでも行ってみるかな。あれから放置していたし」
「それがよろしいかと」
そんなわけで、キルスは執務を終えたところで、冒険者ギルドや向かうことにした。
オルスタン冒険者ギルド、ここはキリエルン王国が侵攻した際にギルドマスターおよび、数人の職員なども逃げ出していた。
そのため、ギルドには少数の若手職員と2人の上役職員しかおらず、ギルドとしての機能が働いていなかったのである。
そこで、元トーライド冒険者ギルドギルドマスターであるコルスとその妻レイナが、臨時でギルドに入ったのだった。
そこにバイドルとトーライドにおいて現役受付嬢であるニーナとシュレリーが手伝いに入っていた。
ニーナとシュレリーの両名はそれぞれの職場であるギルドから一週間の臨時出向を勝ち取ってきた。
これは通常こんなすぐに許可が下りるものではないが、幸いにして2人はそれぞれのギルドマスターと近しい関係だ。
シュレリーは伯父と姪、ニーナは父親が世話を焼いていた後輩がギルドマスターをしていることもあり、両者ともに直に交渉した結果である。
また、その理由もキルスを助けるためやコルスの手伝いをするためという2人のギルドマスターにとっては無視できない理由であったからだ。
そんなわけで、キルスがギルドに入るとバイドルでもそうだったようにニーナがいち早く見つけた。
「あっ、キー君いらっしゃい」
「キルス君、どうしたの?」
領主という立場もだが、ここ数日で人気の出てきた猫獣人の美女ニーナと人族の美女シュレリーが満面の笑みで迎えるキルスをにらみつける者が多数。
そんな視線に苦笑いを浮かべながらキルスは2人のそばに向かっていった。
「いや、こっちはどうかと思ってね」
「こっちも大変よ。特にコルスおじいさんとレイラおばあさんがね。書類とかめちゃくちゃになっていて、どうも前のギルマスがあまり仕事をしていなかったみたいね」
「私たちも手伝いたいんだけど、こっちもやることあるからね」
「なるほどなぁ」
「キー君は大丈夫なの?」
「俺、俺は大丈夫だよ。まだやばいほど仕事はないから、でもメリッサによると徐々に増えるらしい」
今は街が全く安定していないため、領主であるキルスまで仕事が揚がってこない段階にある。
「そう、まぁあまり無理はしないようにね」
「わかってる」
「ふふっ、ほんとニーナちゃんってキルス君のお姉ちゃんね」
「小さいころから見てきてるからね。キー君って目が離せなくって」
「へぇ、私は最近からだからそういうのちょっとうらやましいかな」
「あはは、でもちび達ならそれもできるだろ」
「そうね。あの子たちかわいいものね」
「ああ、それわかる」
ニーナとシュレリーはこれまでも何度かあっているうえに同じギルド受付嬢とだけあり、結構仲良くなっていた。
「それで、じいちゃんは上?」
「ええ、お婆ちゃんと一緒に書類とにらめっこしているわよ」
「そう、なら上がるよ」
「いってらっしゃい」
そうして、キルスは2人に別れを告げて2階にあるギルドマスター室へと向かったのだった。
一方そのころ、ギルド内では多くの冒険者がざわついていた。
「おい、あいつなんだよ」
「確か、領主じゃなかったか」
「わけぇな」
「ていうかガキじゃねぇか」
「それより、なんだよ。あいつ、俺のシュレリーちゃんとなれなれしいぞ」
「それどころか、ニーナちゃんだってそうだ」
口々に話しているのはキルスとニーナ、シュレリーの関係だ。
もちろん彼らも3人が関係していることは分かっていたが、いざ目の前で楽しそうに話しているのを見たらいらだつのだった。
「馬鹿ね。あんたら、話聞いてなかったの、ニーナさんとあの新しい領主は姉弟見たいな関係だって言っていたじゃない。というか獣人族と人族でしょ」
「そうそう、それとあのシュレリーだって、従姉弟みたいだしね」
「うんうん」
そんな男たちの半面女性冒険者たちは冷ややかにそういった。
「あんな美人の従姉弟って、ありえないだろ」
「まったくだぜ」
「でも、確かE&R商会の会長さんだって、すっごい美人だけど、領主のお姉さんなんでしょ」
「まじかよ」
こうして、冒険者たちの話は続いていった。
そのころ、キルスはというとギルドマスター室の扉をたたいていた。
「じいちゃん、ばあちゃん俺だけど入るよ」
「おう、キルスか、入れ」
孫の訪問にコルスは嬉しそうな声を出して答えた。
「どうしたの、キルス」
「ああ、ちょっとこっちが一段落したからこっちはどうかと思って、ニーナ姉さんとシュレリーから聞いたけど、結構大変みたいだね」
「ああ、そうなのよね」
「まったく、ここのギルマスは何をしていったんだか」
コルスとレイラは逃げ出したギルドマスターにご立腹であった。
「大変そうだな。そうなるとこっちを優先して人を送ってもらうようにしたほうがよさそうだな」
「ああ、そうしてくれ」




