第02話 新たな世界へ転生
「あれっ!」
護人は困惑していた。
それはそうだろう、なんといっても護人は先ほど無実の罪を着せられ処刑された。
それを思い出すだけで、護人の心には怒りがこみあげてきた。
「んっ、あれっ」
ここでも疑問が出た、護人はハエリンカン王国については怒りどころか深い憎しみを持っていたはずだ。
にもかかわらず、現在の護人には怒りしか芽生えないのだから。
(どうなっているんだ?)
「いやぁ、あぶなかったねぇ」
護人がさらに混乱していると不意にそんな声が聞こえてきた。
「えっ、えっと」
護人に声をかけてきたのは白い髭を生やし真っ白な布を体に巻きつけただけの老人だった。
「あなたは?」
護人はそれが誰なのかはわからなかった。しかし、本能というかなんというかわからないところで、ある予測ができていた。
「そうだね。僕はエリエル、君が思っているようにこの辺りを管理している神様だよ」
神様、そう名乗ったエリエルは見た目に反してなんとも若くフランクな話し方だった。
「えっと、神様が、なぜ、それにここは?」
護人としてもそうだろうと予測出来ていただけにそこまで驚くことはなくそう尋ねた。
「そうだね。まずは、ここだけど僕が住んでいる天界だよ。まぁ、僕以外はいないけど」
エリエルは少し寂しそうにそういった。
「そ、そうですか。それで、危なかったというのは?」
「それはね。危うく護人君は新たな魔王となるところだったんだよ。いや、護人君ほどの魔力なら邪神かな」
エリエルがそういった時護人は驚愕した。
「魔王、それに邪神って、それは一体、どういうことですか」
「うん、そうだね、簡単に説明すると、護人君は召喚されて、魔王を討伐したのに謂れのない罪で処刑されたよね、それによりとても深い憎しみが生まれた」
「ええ、今考えても、腹が立ちます」
「うん、そうだね。それで、その憎しみが強すぎて、爆発しそうだったんだ。もしそうなると護人君の中にある負の力が膨れ上がって、護人君は次の転生先の世界で魔王もしくは邪神として生まれてしまうんだ」
これには護人も衝撃を受けた。
「えっと、もしかして、俺が倒した魔王も?」
護人は少し嫌な予感がした。
「うん、そうだね。あの魔王も別の世界で憎しみが強くなって、爆発して魔王になってしまったんだ。あの時は僕もさすがに手をうつことができなかったけどね。今回は何とか防げたって感じかな」
とんでもない話を聞いたと、そう感じた護人であった。
「えっと、それじゃ、俺は大丈夫なんですよね」
「そうだよ、護人君の憎しみはほらそこに抜き出しているからね」
そういってエリエルが取り出したのは何やら真っ黒でまがまがしい物だった。
それを、人差し指を立てて持っている。その光景を見た護人は昔読んだ漫画の一場面を思い出していた。
そう、それは凶悪な変身する宇宙人が星を破壊する際に使った物に似ていた。
「それは?」
「護人君の憎しみだよ。ずいぶん大きいよねぇ。これがあふれると大変なことになるから、間に合ってよかったよ」
それを見て護人は戦慄した。もしこれが、自身の中にあったと思うと、本当に大変なことになっていたんだと思ったからだ。
「……そうですね。それで、それはどうなるんですか」
「これは、後で罰として使うつもりだから安心して」
「罰、ですか?」
「そう、あの国、ハエリンカン王国が使った召喚の儀式はね。かなりの昔にあの世界で作られたものなんだけど、その術式がちょっとね……」
「どういうものなんですか」
護人はエリエルが濁したのが気になった。やはり自分にかけられた物だけあって気になったようだ。
それを見たエリエルは仕方ないなという感じに話し始めた。
「あれはね。僕が管理しているのとは別の世界の人間を半ば無理やり召喚して、その魂や肉体をこれまた強制的に書き換えるっていうものなんだ」
「えっと、それは一体」
「僕もね。もしこれが、僕が管理している世界からで、本人の了承を得たうえでやっていることなら構わないんだ。実際僕が管理している別の世界ではそうやっているしね」
「どんな、問題があるんですか」
護人としても、やはり自身に起きた事であるためにかなり気になってきた。
「うん、世界っていうのは同じ神が管理すれば意外と近いんだ。世界を移動しても大して負荷にならない。でも、別の神が管理している世界となると、その負荷が膨大な物となる。そんな負荷を与えられれば大体の場合耐えきれないんだ」
「そ、その場合は、どうなるんですか」
「命を落とす。だけなら、残念だけど、次の人生があるよね。でも、この場合、魂が消滅してしまうんだ。そうなると、いくら僕でも助けるのは無理かな」
エリエルが言ったことは護人に衝撃を与えた。それはそうだろう、最悪自分が消滅するところだったのだから。
「俺は、運がよかったってことですか」
「そうなるね。だから、僕もさすがに教会を通して、この召喚の儀式は禁術指定したはずなんだけどね。あの国がその文献を見つけて実際に君を召喚してしまった」
これは、ハエリンカン王国はまずいことをしたということだろう、何せ神様が禁止した儀式を行ったのだから。
「それに、護人君に対して行ったことも、僕としては許せないからね。だから、彼らには僕がこれを使って神罰を与えておくよ」
「そうですか。わかりました、お願いします」
護人としては、憎しみは消え、怒りがある。しかし、もうかかわることがない世界であり国であるから、エリエル様に任せることにした。
「さて、それじゃ、いつまでも暗い話をしても仕方ないし、どうせなら、護人君が転生する世界について話をしようか」
「転生ですか、えっと、俺ってエリエル様の管理していない世界から来ているんですよね」
護人としては、突然別の世界から来た自分がこの世界の転生に加われるのかと心配になった。
「そうだね。でも、こうして僕の世界に来た時点でもう、護人君は僕の世界の住人だからね。まぁ、その調整も少し面倒なんだけどね」
エリエルはこの後地球を管理する神様と話し合いをする必要があると少し憂鬱となった。
「まぁ、転生自体は、たまにこういうことってあるから、護人君が気にすることではないよ。それで、転生先だけど……」
そのあと、エリエルは護人に転生先の世界について語った。
その世界は、アーベインという世界でここもまた剣と魔法のファンタジーとなる。
そして、護人が転生する国はキリエルン王国という小さな国で国力もそれほど大きくない、そのため隣国であるバラエスト帝国の侵攻におびえる毎日を送っている。
といっても、現在バラエスト帝国はキリエルン王国に侵攻するつもりはなく、別の国に侵攻中だ。
そのため、今はまだ平和な国だそうだ。
「とまぁ、そんなところかな、後は、実際に転生して、自分の目で確かめるといいよ」
「はい、そうします」
護人がそういった途端、突如護人の体が光りだした。
「えっと、これは」
「時間みたいだね。護人君、よき、人生を……」
「はい、ありがとうございました」
こうして、護人は光の中に消えた。