第198話 女性による女性のための商会
金策の1つとして考え出された、エミルと玲奈による商会の立ち上げ。
「社名はE&Rにしようよ。エミルさん」
「えっと、それはいいんだけど、レイナちゃん、そのE&Rってどういう意味?」
キルスや玲奈にとってはなじみのある商会名だが、エミルにとってはなじみがなくわからなかった。
「ああ、Eっていうのは姉さんの名前の頭文字だよ」
「Rはあたし」
「ああ、うん、それはわかったわ、それで間のものは?」
「&っていうのは”~と~”っていう接続詞のことで、まぁこれは向こうの言葉だからなぁ」
キルスのいう通り、玲奈は英語のandを使ったのであった。
「えっと、つまり、エミルとレイナ商会ってこと」
「まぁ、端的に言えばそうだな」
「なるほどね。いいわよ。でも、レイナちゃんが先のほうがいいんじゃ」
エミルとしてはE&RよりR&Eのほうがいいのではないかと言った。
「ううん、ここはやっぱりエミルさんが先のほうがいいよ。だって、そのほうが説得力あるもん」
E&Rは美容を売る商会として立ち上げる。その際絶世の美女たるエミルが先頭に立ったほうがいいと玲奈は考えたのである。
若干エミルは納得していなかったが、そんな細かいことを言っていても始まらないということで納得したことで正式にE&R商会としたのである。
「まぁ、いいわ。それで・・・キルス、レイナちゃんもってことは、美容品を扱うってことよね」
「ああ、そういうことになるな」
「あ、あの、それはどういうことでしょうか?」
「んっ、ああ、メリッサは知らないんだな」
エミルと石鹸は裁判によって大々的に知られてしまっているが、玲奈のことはあまり知られていない。いくら宰相家といっても一メイドに過ぎなかったメリッサが知らないのも無理がなかった。
「簡単に説明すると……」
そんなわけで、キルスはメリッサに玲奈のことを説明したのだった。
もちろん、メリッサにはキルスが前世の記憶も地であることなどもすべて話しているので、問題なく玲奈のことも説明できるのである。
「……そ、それは、本当ですか? レイナ様」
「う、うん、ほんとだよ。あたしが使いたかったからね。だって、ほら、エミルさんとかすっごくきれいでしょ。近くにいるとどうしてもねぇ」
玲奈が作ったという美容品のことを聞いてメリッサが前のめりで聞いてきたことで、玲奈はたじろいだ。
「それで、その、レイナ様、具体的にはどのようなお品物なのでしょうか?」
メリッサは興味津々で尋ねた。
「そうだなぁ」
「だったら、メリッサさんも試してみたらどうかな」
「あっ、それいいかも」
「よろしいのですか!?」
メリッサは嬉しそうに、戸惑いながら玲奈に尋ねた。
「いいよ。じゃぁ、ここじゃなんだし、なかで」
「はい」
こうして、玲奈に連れられてメリッサは屋敷の中に入っていった。
「うふふっ、やっぱりメリッサさんも女の子なのね」
「みたいだな」
残されたエミルとキルスはそう言って微笑んでいた。
そうして、数十分後ほくほく顔のメリッサがキルスのもとに戻ってきたがすぐに申し訳なさそうな表情をした。
「も、申し訳ありません旦那様」
キルスを忘れていたことを思い出して誤ったのであった。
「いや、特に気にしてないから謝る必要はないぞ」
「そうね。それにしても、メリッサさんもすごくきれいになったわ」
「でしょ、メリッサさん元がいいから、ちょっと整えてあげたらこんなによくなったんだよね」
エミルと玲奈はそう言ってすぐにほめたがキルスはさすがに出来なかった。
「えっと、い、いかがでしょうか? 旦那様」
いまだほめていないからか、メリッサが伺うようにキルスにどうかと尋ねてきた。
「お、おう、まぁ、いいんじゃないか」
キルスとしては返答に困る。恋人とかなら素直にほめればいいかもしれないが、メリッサは家令である。
その女性をどうほめていいのかわからないのだ。
「ふふっ、キルスも照れてるわね」
「たしかに、でもこんなにきれいなメイドさんって、キルスがうらやましいよねぇ」
「そうね」
なにやら、若干追い込まれるキルスである。
「えっと、それよりだな。今姉さんと話していたんだけど……」
キルスは無理矢理話題を買えるように先ほどエミルと話していたことを玲奈とメリッサに聞かせた。
「商会を立ち上げるっていっても、2人でどうこうできないだろ、だから従業員を雇う必要があるわけだ」
「うん、そりゃぁそうだよね」
「はい、街の方々を雇用するのですね」
玲奈とメリッサもキルスの苦し紛れというのは分かったが、話の内容の重要性に乗ることにした。
「ああ、でもいきなり街の住人を募集しても来ない可能性が高い」
食事によりいくらか溶けた心だが、それでもキルスに対して否定的な者が多いの事実である。
「だから、まずは女性を集めてデモをやろうと思う」




