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第197話 E&R商会

 キルスとメリッサはオルスタンの街を視察して、街の悲惨さを目の当たりにしていた。

 前帝国の領主がしていた借金については、一旦キルスが支払いそれを王国が補填してくれることとなったが、それでも一時的に資金がなくなるのは必定。

 また、今後の街の運営にしても資金はいくらあっても足りない。

 そもそも、街の修繕などを考えるとどう考えても足りないのであった。

 そこで、なんとしてもまずは金策を考える必要があった。


「一応、あの無駄に趣味の悪い美術品は全部売るとしても、足りないよなぁ」

「はい、全く足りません」


 キルスが言う美術品とは領主屋敷に飾ってあったものだ。

 元はもっと大量にあったが、領主が逃げ出した際にいくつか持ち出したからで、今残っているものはその時において行かれたものだった。


「とにかく、金策が必要なんだけど、一応考えはあるんだよなぁ」

「考えですか?」

「ああ、というわけで、姉さんを探そう」

「? はい」


 メリッサは頭に疑問符を浮かべたが、すぐに気を取り戻してキルスの後に続いたのだった。



 そうして、やってきたのは孤児たちとキルスの弟妹達が遊んでいる屋敷の庭。


「あっ、いたいた、姉さん」

「あら、キルスどうしたの。メリッサさんもおはようございます」

「おはようございます。エミル様」


 エミルが挨拶をするとメリッサもまた丁寧に挨拶をした。


「エミル様、どうかわたくしのことはメリッサと、呼び捨てにしてください」


 エミルはメリッサが2つ年上ということで敬語の上にさんをつけて話しているが、メリッサにとっては自身の主であるキルスの姉、丁寧にされても困るのである。


「そう言われても、年上ですし」


 エミルもまた年上を呼び捨てにはできないと拒んでいる。

 実はこのやり取り昨日も同じことをしていた。

 ちなみに、キルスに幼い弟妹達はすぐにメリッサになつき、メリッサおねーちゃんと呼んでいる。

 キレル以上の姉弟たちはさんをつけていた。


「まぁ、それは今はいいとして、姉さんに頼みがあるんだけど」

「あら何かしら」


 エミルは弟妹が大好きで、当然ながらキルスのことも大好きなのでそんなキルスからの頼みをにこにこと聞くことにした。


「うん、ほらあの裁判のあとから考えていたことなんだけど」


 あの裁判とは、エミルが訴えられた裁判のことである。


「ああ、あの、それでどうしたの」


 エミルは表情を苦いものにした。エミルにしてもその表情にさせる出来事だったのだ。


「単刀直入にいうと、姉さん商会を立ち上げる気無い」

「商会? 私が?」

「なるほど、そういうことですね」


 商会と聞きメリッサには合点が言ったのであった。


「そう、姉さんの石鹸は今王国貴族の間では話題なんだろ」

「はい、お嬢様や奥様、あっ、いえ、宰相閣下のお嬢様と奥様のことですが、お2人とも大変にご興味をお持ちでした」


 そういうメリッサもまたエミルの石鹸には興味津々であった。

 そのため、エミルにあった昨日は内心喜んでいたのだった。


「そ、そうね。なんだか、変な気分だけど、ここに来るまでずっと石鹸を作っていたわね」

「それを、作って販売する商会を作るんだよ。姉さんが商会を作って、俺がその後ろ盾になる。というか姉さんがこの街で商会を作るとその売り上げの一部を税金として取ることができるんだよ」

「えっと、どういうこと」


 エミルは教育を受けたわけではないので、キルスの言葉を理解する基礎がなかった。

 そこで、キルスとメリッサにより詳細を説明したのだった。

 元は頭が悪いわけではないエミルはすぐにそれを理解したのだった。


「というわけで、姉さんが商会を作ればこの街の運営が助かるんだよ」

「そう、そういうことならもちろん協力するわよ。家族なんだもの、でも、私みたいな女が商会を作ってもいいのかしら、また何か問題にならない?」


 エミルはよほど裁判に答えたのか、不安そうにキルスとメリッサに尋ねた。


「法律上、男性でなければ商会を立ち上げてはならないとはありません」

「そうなの」


 キリエルン王国においての法律では男性、女性の区別はない。

 これまでも、女性が国王になった例もあれば、貴族家の主となったこと、商会長になったという人物もいる。

 尤も、それらはあまり歴史で語られることはないほどに珍しい出来事ではあった。


「はい、あまり知られていませんが過去にもそういった例はあります」

「そうなんですね。だったら、いいのかな」

「ああ、それに実は玲奈にも頼もうと思っているんだよ」

「レイナちゃんにも?」

「えっと、旦那様それは一体?」


 メリッサはエミルの石鹸のことは知っていても玲奈のことは知らないようだった。


「姉さんと玲奈で美容系の商会を立ち上げるってわけだよ」

「美容系?」

「なになに、あたしの名前が聞こえたんだけど」


 ここで、ちょうど通りかかった玲奈が自分の名が上がったことで興味をひかれていやってきた。


「おう、玲奈ちょうどよかった」

「なに?」


 それからキルスは玲奈にも商会のことを説明したのだった。


「……ああ、なるほど、確かにそれいいかも、それじゃ社名はE&Rにしようよ」


 玲奈は乗り気でさっそく商会名を考えたようだ。

 それから少しして、この世界で初めての女性による女性のための商会、E&R商会が立ち上がったのであった。

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