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第192話 現状回復

 ファルコとオウルの料理を食べ、ようやく若干心が解けたところで、キルスは声を大きくして言った。


「そのままでいいから聞いてくれ、俺の名はキルス、元Bランクの冒険者だった。しかし、此度の戦争によって陛下より男爵位を授かり、この地を領地として賜った」

「まじかよっ!」

「うそっ、なんで、こんな……」


 住人はそれを聞いてどよめいた。


「言いたいことは分かる。なにせ、俺自身がなんでだと言いたいからな」

「おいおい」


 キルスのあんまりな言葉を聞いて、数人の住人が呆れていた。


「だが、賜った以上全力をもって治めるつもりだ。とはいえ、俺一人でそれをなすのは無理がある。そこで、家族の助けを借りたってわけだ」

「家族?」

「ああ、今?たちが食べている料理を作っているのは、俺の父と兄、孤児の子供たちの面倒を見ているのが姉と母、祖母、あとそこら辺をうろちょろしているのが弟と妹たちだ」


 キルスの紹介を受け周囲を見てみる住人達は、一斉に思った。多いなと。


「まぁ、姉弟が多いのは認める。全部で13人だからな」


 具体的な姉弟の数を聞いてさらに絶句する住人達であった。


「それで、聞きたいんだが、ここにギルド関係者はいるか? いたら、前に出てきてほしい」

「あ、あの私は、受付をしております」


 すると、真っ先に声を上げたのは受付をしている若い女性だった。


「そうか、確かにギルドの制服だな。聞くが、ギルマスが前の領主とともに逃げたと聞いたが、間違いないか?」

「は、はい、間違いありません」

「気が付いたら、いなくなっていました」


 ここで、新たなギルド職員がそう言いだした。


「そうか、情報通りだな。なら、じいちゃん」

「ああ、わかってる」

「この人は、俺の祖父でコルス、以前キリエルン王国のトーライドって街で、ギルマスをしていた。だから、正式なギルマスが決まるまでの臨時のギルマスとして、ギルドをまとめてもらおうと思ってる」


 キルスがコルスを紹介すると、ギルド職員は少しほっとしていた。

 やはり、一番の上司がいないというのは不安なのだろう。たとえそれが、昨日までの敵だった者でもありがたいのだった。

 まぁ、そもそもギルドには国境はないが……。


「コルスだ。少しの間となるだろうがよろしく」

「「よろしくお願いします」」

「あとは、ばあちゃん、シュレリーとニーナ姉さんもギルドを手伝ってもらうことになる。といってもシュレリーとニーナ姉さんは、自分とこの仕事があるけどな」

「ええ、任せて」


 こうして、とりあえずギルマスのいなくなった冒険者ギルドはコルスたちに任せることとなった。


「それじゃ、次は警備隊だけど、こっちはもう1人の祖父に頼むつもりだ」

「うむ、わしはフェブロだ。今は引退しておるが、元は王国軍兵士、大佐を拝していた」

「まぁ、というわけで、これまた臨時で警備隊をまとめてもらうつもりだ」

「警備隊は、食事が終わり次第、すぐにわしのもとに集まるように」


 そう言ってから、フェブロはどこへともなく歩いて行った。


「ああ、ちなみにあの祖父は父方、つまりお前たちが今食ってるその料理を作った父の親だからな。まぁ、見ればわかるか」


 キルスは一応と言わんばかりにフェブロとファルコが親子であることを示したが、よく考えれば顔を見ればこの2人が親子であることは明白であった。

 なにせ、双方ともにこわもてだからだ。


「あとはっと……」

「キルス」

「んっ、なに、兄さん」


 キルスが次の指示を出そうとしたところで、オルクがキルスに声をかけた。


「さっき、師匠に応援を頼んだんだけど」


 オルクが言うには、住人の数に対して料理人の数が明らかに足りなかった。


「ああ、なるほど、確かに2人じゃ足りないよなぁ。まぁ、幸も味噌汁作ってくれているけど」

「うん、だから父さんやラナさんとも相談して、師匠に応援をお願いしようってことになって、さっき手紙をかいたんだけど、いいって返事が来たんだ」

「わかった、それで、迎えに行けばいいってわけか」

「うん、お願い」

「それは、いいけど、俺は今手が離せないからなぁ。ああ、玲奈」

「なに?」


 キルスは少し悩み、エミルたちと子供たちの面倒を見ていた玲奈を呼んだ。


「ちょっと、バイエルンに転移してきてくれ」

「バイエルンに? どうして?」


 キルスは玲奈にことの経緯を説明した。


「ああ、確かに3人って無理だよね。いいよ。でも、あたしそのトルレイジ亭って行ったことないんだけど」

「それなら、ラナを連れて行ってくれ。ラナの実家だし」

「あっ、そっか、わかった。ラナさーん」

「なに?」


 玲奈は料理を配っていたラナを見つけて、すぐにバイエルンへと転移していったのだった。

 その様子を見送ったキルスは再び住人たちに向き直った。


「な、なぁ、いいか?」


 ゴーギャスがキルスに声をかけてきた。


「なんだ?」

「さっきは、その、悪かった。それで、その、俺は料理しかできねぇ。だから、俺にも料理をさせてくれ」


 ゴーギャスはそう言ってキルスに頭を下げたのだった。


「それは、助かる。ほかにも料理ができる奴がいたら、手伝ってくると助かる」


 そのあと、自分も自分もと数人の声が上がり、料理を作ることになった。

 また、オルクの師匠でもあるデイケス率いるトルレイジ亭の面々もやってきて、大量の料理があっという間に作られていったのであった。

 そうして、ゴーギャスたちも加わったことで、住人全員が文句なく料理を受け取ったのだった。

 尤も、いまだにキルスたちに否定的な目を向けているものがいるのも事実であり、キルスは彼らの心をどうやってほぐすかこれからゆっくりと考えることにした。

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