第189話 領民との邂逅
翌日、キルスたち一家は全員でオルスタンを望む丘の上にやってきていた。
「ほぉ、あれがオルスタンか」
「バイドルよりも大きいんじゃない」
「そりゃぁ、元は帝国の軍事的な要衝だった場所だからな」
「ここから見ると、普通の街に見えるね」
眼下にオルスタンを見下ろしながら、フェブロ、レティア、キルス、オルクが順に会話をしていた。
「おっきい、まちだね」
「うん」
「あそこが、キルス兄さんの街なの?」
そんな大人たちに混じり、キルスの妹であるルニアとミレア、キレルたちが楽し気にしゃべっていた。
そう、ここにいるのはキルス一家全員、つまり大人全員だけじゃなく、小さな弟妹たちも全員やってきていた。
最初は弟妹達はおいていくという話があったが、大人のほとんどが出かけることになり、小さな弟妹達だけを家においておくのはちょっと気が引けたこともあり、今回一緒に行くこととなった。
尤も、これからいく場所は元は帝国の領地で、人もまた元は帝国人、彼らは今も帝国人としても誇りとプライドを持っている。
つまり、彼らにとってキルスたち一家、王国人は敵ということで、敵意を向けられる上に、下手をすれば襲われても仕方ない。
そんな場所に小さな弟妹を連れて行くのもどうかと思うキルスではあったが、キルス一家は強者が多いということや、シルヴァーがいることから踏み切ったというわけだ。
「そんじゃ、行くか」
「うむ、お前たちもわかっていると思うが、あの街はつい先日まで敵地、何があってもおかしくはない、気を引き締めていくような」
キルスの号令にフェブロが元国軍兵士らしく、家族全員にそう忠告した。
「わかってるよ。父さん」
それに答えたのは、一応一家の大黒柱たるファルコである。
それから、キルスたちは丘を降りて街の門の前までやってきた。
「とまれ!」
「お前たち、どこから来た? ここは現在、キリエルン王国軍が支配している。一般人は許可されていないぞ」
キルスたち一家の装いが明らかに普段着で一般人そのものだったこともあり、門を守る王国軍兵士の番兵がそういった。
「んっ、ちょっと待て、お前もしかしたら、キルスか、冒険者の?」
キルスたちを最初に止めた兵士が、集団の先頭に立っていたキルスを見つけそう言って声をかけてきた。
王国軍にとってキルスとシルヴァーはまさに救世主だったために、シルヴァーの姿を見てキルスに気が付いたようだ。
「ああ、でも今は陛下から男爵位を授かって、この街を下賜されたんだ。これが、その証拠だ」
キルスはそう言って、懐から紋章の刻まれた大きなブローチを取り出し兵士に見せた。
このブローチは爵位を持つ貴族だけが持つことが許され、国王から与えられる貴族の証である。
「こ、これは! ま、まさか! 本物か?」
さすがの兵士もいきなり見せられたブローチに混乱していた。
「残念ながらな」
キルスはちょっと半分冗談めかしてそういった。
これは、キルス自身が冗談であってほしいという願いからであった。
「というわけで、中に入りたいんだが、いいか」
「あ、ああ、いや、失礼しました。どうぞ、お入りください。お分かりとは存じますが、くれぐれもお気をつけください」
兵士がとたん敬礼をして対応を始めたことに、キルスたち一家は苦笑いしつつ門をくぐって街の中に入っていった。
「まずは、ゾンタスだな」
現在オルスタンをキルスの代わりに統治しているのが、騎士団長であるゾロテスの弟で、騎士隊長であるゾンタスであった。
引き継ぎのために、まずは会う必要があった。
「ゾンタス、確かゾロテスの弟であったな」
「じいちゃん、知ってるのか?」
フェブロがゾンタスを知っていることに緒と不思議に重いながらキルスはフェブロに尋ねた。
「ゾロテスからな、直接あったことはないはずだ」
「そうなんだ。あっ、あの騎士に聞いてみるか」
家族そろって街を歩いていると、目の前に見知った騎士の姿を見つけた。
「おーい、ちょっといいか?」
「んっ、おう、キルスじゃないか、どうしたんだ?」
騎士はキルスを見かけて、さらにその背後にいるキルス一家を見て訝しながら用事を尋ねた。
「実はな……」
それから、キルスは男爵位を授かったことやゾンダスを探していることを話した。
「……それはまた。ああ、隊長だったな。隊長なら、広場にいるぞ」
「そうか、悪いな」
騎士から聞いた広場へと向かうキルス一家であった。
それから、数分後広場へとやってきたキルスたちはようやく目的の人物であるゾンダスを発見した。
「ゾンダス!」
「んっ、おおっ、キルス、どうした? ていうか、なんだ、その後ろは?」
ゾンダスはキルスを見つけると満面の笑みで迎え、と同時に背後にいるキルス一家に今日書きしていた。
「ちょっとな……」
それから、キルスはゾンダスにも男爵位を授かったことなどを話していった。
「そうか、キルスがこの地を授かったのか。この地は、難しいぞ」
「だろうな。そのために家族に応援を頼んだんだよ」
「そのようだな。って、ちょっとまて、もしかしてその方はフェブロ大佐!」
ゾンダスはキルスの家族を見た後、その中にフェブロがいることに気が付き、とたん緊張した。
ゾンダス自身はフェブロのことは知らないが、兄であるゾロテスから散々聞かされた人物であるために、緊張しているのだった。
「ああ、じいちゃんには、警備隊を任せようと思ってな。隊長も逃げたんだろ」
「あ、ああ」
「おいっ!! なんだ、そのガキは!」
キルスとゾンダスが会話をしていると、すぐそばにいた街の住人の1人が怒鳴り声を上げてきたのだった。




