第187話 家族会議02
戦場から帰宅したキルスは、急遽家族全員を集めて家族会議を開いていた。
その理由は、戦争の報告をしに行った王城にて、なぜか男爵位を授かったことである。
「なぜ、キルスが男爵に?」
「私たち平民でしょ。平民は貴族には成れないんじゃ」
家族はキルスから聞き驚愕していた。
「俺もそう思ったんだけど、どうやら俺たちにはその貴族の血が流れているらしいんだ」
「!! どういうことだ?!」
これにはさらに驚愕していた。
キルスは王城で受けた説明を家族にもするのだった。
「じいちゃんたちの父親がそれぞれ侯爵家と辺境伯家の子息だったらしい」
「なに?!!」
「親父が!」
フェブロとコルスが同時に驚いた。
この2人も自身の父親が貴族家の子息であることは聞いてはいなかったからだ。
「やっぱり、知らなかったんだ。フェブロじいちゃんの父親って、ヒュードって名前でしょ」
「うむ、そうだ。わしと同じく王国兵士だった」
「そのヒュードじいちゃんの本名はヒュード・ド・フェルードナルド、先代フェルードナルド侯爵の弟だそうだよ。だから、じいちゃんは現フェルードナルド侯爵様とはいとこになるらしい」
「! まさか、親父がそのような、いや、しかし」
息子であるフェブロにはどこか思い当たる節があった。
というのも、ヒュードには、平民とは違いどこか気品のある言動があったという。
「それで、コルスじいちゃんの父親はレオスって人だろ」
「ああ、そうだ。親父は冒険者だった」
「レオスじいちゃんは本名レオス・ド・レジナルディといって、先々代レジナルディ辺境伯様の弟だそうだよ」
「……」
コルスもまた絶句して驚愕していた。
「そんなわけで、俺たちには侯爵家と辺境伯家の血が流れているから、俺が男爵を得たことは問題ないらしい」
「でも、キルスたとえそうだったとしても、ほかの貴族が黙っていないんじゃないの?」
衝撃を受ける家族たちの中、さすがというべきかレティアがいち早く起動して質問をしてきた。
「そりゃぁね。新しい貴族が生まれるわけだし、それがいくら貴族の血が流れていようが、平民である俺、文句も結構出たよ」
キルスが爵位を得た時、当然ながら謁見の間に詰めていた貴族たちが口々に文句を言っていた。
「それで、どうやって納得させたの?」
キルスが男爵として帰ってきた以上、貴族たちは納得したということだ。なら、どうやってそれをなしたのか、レティアは気になった。
「それは、俺がもらった領地のオルスタンが関係しているんだ」
「オルスタン? うむ、そうか、そういうことか」
元国軍兵士であるフェブロはオルスタンの場所を頭で考えたのち、すぐにその理由に気が付いた。
「どういうこと、お父さん」
ファルコにはよくわからなかったので、フェブロに尋ねた。
「我が国と帝国の国境において、防衛すべき場所は3箇所ある。うち2つがボライゲルド辺境伯の領地であり、1つがブレンダー男爵の領地だった。尤も、ブレンダー男爵は先の事件でその領地をボライゲルド辺境伯に返還したわけだが」
それにより、ボライゲルド辺境伯家が帝国との国境を防衛しなければならなくなっていた。
「今回キルスが下賜されたというオルスタンだが、かの地を抑えたことで、防衛箇所が2つに減るんだ」
キリエルン王国北方には、帝国とその西側にあるユイベルト王国の両国との国境が交わる箇所がある。
そこには北に広がる山脈があり、ユイベルト王国はこの山脈のおかげで、帝国からの侵攻を防げているところがある。
その山脈は若干東側に向かって伸びており、オルスタンの北側まで来ている。
そのため、元の3箇所のうち2箇所がこのオルスタンを経由することになっていた。
「……ということから、帝国が我が国を攻めるには、重要な拠点の1つだったというわけだな」
「そういうこと、それによって辺境伯様が防衛する場所が1つに減ったんだ」
「でも、そうすると防衛費が下がるだろ」
ここでコルスがそんなことを言った。
防衛費というのは、国境に居を構えている領主たちに、国から出る防衛のための予算である。
「確かにね。でも、今回の戦争でかなりの数の兵を失って、それを分散となると、かなり厳しいものになるからね。だったら、1箇所にまとめられるほうが防衛しやすいんだそうだよ」
「だろうな」
「なるほどねぇ」
「ちょっと待って、そのオルスタンって街は帝国にとっては重要なところなのよね。そうなると帝国はオルスタンを取り戻そうとするんじゃないの」
ここでエミルが核心をついてきた。
「そうなるだろうね。だからこそ、ほかの貴族が黙ったんだよ。俺がオルスタンにいれば、帝国の攻撃はすべて俺に集中することになる」
「つまり、キー君を王国の帝国に対する防波堤にするってこと」
ニーナが若干怒りながらそういった。
「ああ、尤も正確に言うならシルヴァーだな」
シルヴァーはフェンリルであり長命種、なにより脅威度でいえばSランクの魔獣でもある。そんなシルヴァーがオルスタンにいれば帝国は攻めたくても攻めることはできない。
「そっか、キルスがオルスタンに入れば、自然とその従魔であるシルヴァーもオルスタンに入る。そして、シルヴァーなら今後いつまでもオルスタンにいるだろうね」
「そういうことだよ、兄さん」
シルヴァーにとって最も大好きなのはキルス、と思われがちだが実はちょっと違う。
シルヴァーにとって、キルスと同じようにその家族も大好きなのである。
そのため、キルスとその家族、もちろん子々孫々にいたるまで、シルヴァーはその場に生涯いることになるだろう。
「帝国も、さすがにフェンリルたるシルヴァーには向かってこないな」
「ああ、だからといって帝国としては黙ってはいないだろうが」
「あちこち侵略している帝国が唯一奪われた土地だしな」
こうして、キルスは家族に自身がなぜ男爵位と領地をもらう羽目になったのかを説明したのだった。




