第18話 野営試験
冒険者になるための登録試験、その最初の試験である戦闘試験が終了した。
「ふぅ、これで、戦闘試験は終了だ。次は野営試験となる。各自準備をして夕方5時までに門に集まるように、以上」
ゲイルクは先ほどのキルスやサディアスとの連戦において、肩で息をしながらも何とか一息ついてからそういった。
「なに、試験はこれだけではないのか」
ここで、再びサディアスが吠え始めたがキルス達は無視してギルドの中に入っていった。
(さてと、これからどうするかな)
キルスはこれからの時間をどうするのかを考えていた。キルスは野営試験があるとこを知っていたために、すでに準備は整えている。
後は用意した背嚢を背負うだけであった。
「あっ、キー君、戦闘試験終わったんだ。どうだった」
とここでニーナがキルスに声をかけてきた。
「終わったよ。だから、これからどうしようかなって、思って」
「どうしようって、そんなの、ゆっくり休むに決まっているでしょう。野営なのよ、ちゃんと時間までゆっくりと休みなさい」
「お、おう」
ニーナは姉としてキルスが徹夜をするのをわかっていて、休息を取らないということを許容できなかった。
キルスとしては、特にこれから1日ぐらいの徹夜なら問題ないと思っていたが、ニーナの妙な迫力に押されてしまった。
「えっと、キルス、知り合い」
キルスとニーナのやり取りを見ていたシャイナは、少しニーナの迫力に押されながらも気になりそう尋ねた。
「ああ、まぁ、姉さんってところだな」
「お姉さん? でも、その人、獣人族よね」
シャイナが不思議に思うのは無理はない、この世界において、獣人族と人間という異種族間においてもたまに結婚し子供を授かることがある。
しかし、その場合子供の種族は人間となる。なぜそうなるのかはわからないが、獣人族の遺伝子が人間の遺伝子より劣勢であるという理由が考えられる。といってもそれが正しいのかは全くわからない。
そのため、獣人族と人間が兄弟として生まれることはない。
「そりゃぁ、もちろん血のつながりはないよ、ただ、いろいろあって、家で引き取ることになって、本当の兄弟のように面倒を見てもらっていたんだよ」
「へぇ、それで、お姉さんか、でも、あれだけ強いのに彼女には弱いのね」
姉に勝てる弟はいない。まさに今のキルスはそうであった。
「まぁ、昔からだからな」
それから、野営試験の準備というわけでビル、シャイナ、ガイネルと別れキルスはニーナのいう通り家に帰ることにした。
キルスが家に帰ると案の定エミルをはじめとした家族から、時間まで休むように言い含められてゆっくりと休むことになった。
そうして、時間となりキルスは門にやってきていた。
「よぉ」
「おう」
「あっ、キルス」
「おう、3人とも早いな」
キルスがやってくるとすでにビルたちがすでに門の前に集まっており、サディアス以外ではキルスが最後であった。
「あたしたちもさっき集まったばかりだけどね」
シャイナが言った通り彼らも今しがた集まったばかりであった。
それから、数分待っていると、ゲイルクがやって来た。
「なんだ、まだ全員じゃねぇのか」
ゲイルクがそういった瞬間街の中から一台の馬車が出てきた。
その御者台に座っているのは、キルス達も見覚えがあった。
それは、サディアスのそばにいた執事だったからだ。
「来やがったか、よし、お前ら馬車に乗れ」
キルス達はサディアスの登場の仕方にあっけにとられていたが、ゲイルクはこういったことになれているために特に気にした風もなく馬車に乗るように促した。
キルス達が向かったのは、バイドルから小一時間ほど馬車で進んだ森の中だ。
ここにはギルドが魔物よけの結界を張っており、動物や虫はいるが魔物は出現しない安全地帯となっている。
ここでは、今回のような野営試験を行ったり新人冒険者に野営の仕方、森の歩き方などを教えるための施設のような場所だ。
「ようし、お前ら、馬車から降りろ。これから試験を始める。さっそく野営の準備をしろ」
結界の中に入るなりゲイルクが馬車から降りてそういった。
それを聞いたキルス達はそれぞれ指定された場所に背嚢をおろし始めた。
そうして、始まった野営試験、まず始めたのはテントの設営となる。
このテント、キルスはレティアが使っていたものをお下がりとしてもらっているが、ビル、シャイナ、ガイネルは持っていなかった。そのためギルドで借りている。
これは、キルスが珍しいわけで大体の受験者がギルドから無料で借りることになる。
というのもテントというものはそれなりに値段がかかる。まだ冒険者にもなっていない受験者に買えるようなものではない。
ちなみにだが、ここで貸し出されているテントは通常は冒険者に貸し出されている。その時は当然有料となる。
テントの設営が終わると、今度は火を熾すわけだが、キルス以外の3人は火打石を取り出し、そこに木くずを置き火打鎌と呼ばれる金具が着いた道具を打ち付ける。
そうすると、木くずに火種ができ、そこに木の破片の先を付けることでようやく火を熾すことができる。
といったような手間をかけるのに対してキルスはただ呪文を唱えるだけ。
『炎よ』
キルスが使ったのは着火の魔法、かつてキルスが赤子のころ使った灯の魔法と同様に炎魔法の最下級に相当するものだ。
試験で魔法は使っていいのかという話になるが、これは全く問題ない。そもそも、これは野営能力を見るものであって火熾しまでは一々見ないからだ。
そうして、火を熾したところで今度は食事となる。
ビル達3人はそれぞれが街などで購入してきた干し肉をかじる。
これは冒険者たちにとっては標準的な食料となる。
といっても、彼らが購入できるような干し肉は決して美味くない。
それに対して、キルスが食するのは、同じ干し肉でもファルコ特製のもはや別物といってもいい物だ。
そして、それをキルスはあろうことか鍋を取り出した。
『水よ』
キルスは、取り出した鍋に魔法で水を満たした。
そして、先ほど熾した火を竈としてその鍋を沸騰させ、そこにいくつかの調味料などや他の食材も混ぜてシチューを作り食べ始めた。
これには、ビルたちもうらやましそうに見つめている。
シャイナに至っては、鍋などを持ち寄るか迷った挙句にやめたということもあり、悔しそうだ。
そんな風にそれぞれの食事のあとは、特にすることはない、ただただ一晩見張りという退屈な時間を過ごす。
退屈という理由は簡単、この森に魔物は結界によって出現しないようになっている。
だから、見張りをしたとしてもまったく意味をなさないからだ。
それでもこの世界の野営となるとどうしてもこうした見張りをしなければならない。
今回はソロでの活動という名目のため、たとえお互いに見える範囲に受験者全員がいるからといって交代で見張りをするわけではない。
そんな野営試験が終了し、キルス達は再び馬車に乗りバイドルまで帰ってきた。しかし、その表情は一晩の徹夜により、疲れていた。約1名を除いて……。
 




