第172話 裁判準備
「高等裁判って?」
「うむ、キルスが知らんのも無理はないか、ワシら平民にはほとんど縁のないものだからな」
フェブロが知っている理由は当然元国軍兵士だからである。
「高等裁判とは我が国の裁判制度の1つです。他には簡易裁判、通常裁判、最高裁判とありますわ」
「簡易裁判と通常裁判は、ワシらのような平民同士のトラブルに対して行う裁判となる。今回は相手が商会ということで通常裁判だと思っていたんだがな」
相手がヘルフェリア商会ということで、裁判となれば大事でも通常裁判となると考えいた。
「高等裁判と最高裁判は貴族同士などに使われる裁判となる」
「なるほど、あれっ、じゃぁ、なんで、姉さんが高等裁判なのでしょうか?」
当然の疑問である、なにせエミルは紛うことなき平民である。
そのエミルが訴えられたというのになぜ、貴族同士の裁判が行われるのか、キルスには意味がわからない。
「うむ、それだが、高等裁判において確かに貴族同士が通常となるが、今回のように貴族が原告で被告が重罪を犯した場合のみ行われることがある」
「重罪って」
姉が重罪を犯したと聞いてキルスは顔をしかめた。
「コリアット侯爵にとっては、重罪と考えているのでしょう」
だからこそ高等裁判所に訴え出たという。
(まじかよ)
キルスは余りのことに嘆息した。
「問題は、この高等裁判は貴族しか発言が許されないということですわ」
「えっ、そ、それって」
「はい、エミルさんは反論すら許されないのです」
「それじゃ、向こうの言いたい放題じゃないですか」
「はい、ですのでこの場合弁護人が着くこととなります」
「弁護人ですか、それは、一体誰が?」
「弁護人は裁判官が用意することとなる、今回の裁判官はブリューゲル侯爵が務めることとなるからの、おそらくグリアノース伯爵となろう」
「グリアノース伯爵様ですか、そのお方は一体どのようなお方でしょうか?」
フェブロも重要なことゆえにこの話に参加した。
「そこが厄介なのですが、グリアノース伯爵はコリアット侯爵と縁戚に当たるのです」
「へっ!」
「な、なんとっ!」
選ばれるであろう弁護人がまさか原告側のコリアット侯爵の親戚、どう考えてもまともに弁護してくれるとは思えなかった。
「それじゃ、詰んでるじゃねぇか」
キルスは思わずそうつぶやく。
「陛下、弁護人はこちらでお願いすることは可能でしょうか?」
ここでフェブロが国王にそう尋ねた。
「それは可能だ。そもそも、本来はそのようにするものだからな。しかし、平民が貴族に弁護を依頼することが出来ない故の処置となる」
「なるほど、では、こちらでお願いできれば問題ないということですな」
「うむ、そうか、バラエルオンに頼むつもりか。しかし、彼のものでは間に合わんであろう」
「それなら問題ありません、実は場合によっては伯爵様に助けを求めると考えて、玲奈を伯爵様の所に行かせてあります」
「レイナさんをですか」
「はい、……ちょっと待ってください」
キルスは少し考えたのち、エミルを助けるためには出し惜しみはしない。そう思いマジックストレージから紙とペンを取り出し、簡単にその場で手紙をかき、再びマジックストレージに入れた。
「キルスさん、一体何をされているのですか?」
「玲奈に手紙を書いたんです。おっ、来たか」
「お手紙、ですか。それは一体?」
カテリアーナは疑問符を頭に浮かべているが、キルスは玲奈からの返事をマジックストレージから取り出して読んだ。
「陛下、お願いがあります」
「申してみよ」
「はい、実はこれよりバラエルオン伯爵様にお越しいただくために、王城内への転移の許可を頂きたいのです」
「なに、王城へとな。それは本来であれば許可は出来ぬが、うむ、今回だけは許可を出そう」
「ありがとうございます。では、さっそく」
そういってキルスは再び手紙を書いてマジックストレージに入れた。そうして、すぐに返事がありすぐに転移してくることとなった。
「すぐに来るそうです。転移の場所はこの離れの前となります」
「うむ、ではゾロテス」
「はっ」
ゾロテスが国王から指示を受けて離れを飛び出していった。
「キルスさん、もしかして転移はレイナさんが?」
「はい、玲奈と幸、2人とも転移スキルを獲得しています」
「おおっ、まさか、転移スキルの使い手が3人となったのか、それは素晴らしい」
「はい、素晴らしいですわ。ですが、それより、キルスさん、さっきのお手紙ですが、キルスさんマジックストレージのことはお聞きしておりましたが、それで、どうやって離れたレイナさんとお手紙を」
「ふむ、我も気になっておった、そもそも、マジックストレージとはなんだ?」
ここで、国王とカテリアーナから質問を受けたところでキルスはマジックストレージとマジックバックについて説明した。
「なんとっ、そのようなものが!」
「まさか!」
「陛下、お分かりとは思いますが、孫のマジックストレージのことは内密にお願いします。孫によれば、かつてこれをめぐり戦争になりかけたということです」
「さもあろう。これがあれば軍備において革命が起きよう、また、商人たちにとっても喉から手が出るほどであろうな」
国王はマジックストレージをめぐって起きる事態を想像してから深くうなずいた。
「あいわかった、これは我も欲しいものではあるが、同時に危険な物であることも理解できる、カテリアーナ、そなたもよいな」
「はい、元より、わたくしはキルスさんよりマジックストレージの存在自体はお聞きしておりましたから」
「であったな」
「バラエルオン伯爵様がお越しです」
その時、バラエルオン伯爵が離れにやって来た。
「陛下、突然の訪問お許しください」
「よい、さて話を始めよう」
「はっ」
それから、バラエルオン伯爵を交えてエミルの裁判に対する話し合いが行われた。
尤も国王は公務のために少ししたところで退席してしまったが、この話し合いによって大方の対策が講じられたのであった。




