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第170話 東奔西走02

 突然逮捕されたエミル、その原因はエミルが幼いころから作り続けている石鹸だった。


「それじゃ、父さん母さん、シルヴァ―お願いね」


 レティアがそういって両親であるコルスとレーラ、シルヴァ―を送り出す。


「任せておけ」

「行ってくるわね」

「バウン」


 コルスとレーラ、シルヴァ―はそういって街を出ていった。

 この2人と1匹はこれより、エミルを逮捕し連行している国軍兵士の後を上空からつけていくこととなっている。


「そろそろ、いいだろう、シルヴァ―、頼むぞ」

「バウッ」


 シルヴァ―もエミルが心配なために気合を入れて上空へと駆け抜けた。

 それから数分、すでに眼下には馬車が見えてきた。


「あれか?」

「そうみたね。あの子、大丈夫かしらね」


 コルスたちの目線の先にある馬車は国軍所有、つまりエミルが収監されている護送車だ。


「エミルはポシェットを持っているのよね」

「捕まった時も身に付けていたと聞いた。試してみるか」

「そうしましょう」


 そういってレーラがさっと紙とペンを取り出し何かを書き出した。

 エミルが持っているというポシェットというのは、エミルがここ最近常に身に付けているもので、実はマジックバックとなっているものだった。

 元々、キルスがスタイラエルダンジョンで見つけたマジックバックをエミル専用として持っていたが、そのデザインはあまり女性が持つにしては無骨だった。

 そのため、エミルが部屋においていたのだが、それだと使い勝手が悪い、かといって常に持っているにしてはちょっと……そう思っていたところに、玲奈と幸の登場である。

 というのも、スタイラエルダンジョンの最下層である、マジックストレージが安置されていた場所にはマジックバックの作り方もかかれており、キルスはその方法を知っていた。

 そして、2人は空間を越えたことで空間魔法を使うことができ、それがマジックバック作成には必要だった。

 つまり、玲奈と幸であればマジックバックの製造ができるということだ。

 ということで、キルスは2人に作り方を教え、任せたことで出来たのがエミルが持つポシェット、マジックポシェットである。



 そのころ、エミルはというと1人馬車の中で落ち着いていた。


「んっ、あっ、お婆ちゃん?」


 エミルはポシェットの中に新たなアイテム、レーラからの手紙が増えていることに気が付いた。

 そう、エミルはポシェットをまだ持っていた。

 というのも、エミルが持つポシェットは一見すると普通のポシェットだ、兵士たちもさすがにこれを奪う必要性を感じなかったようだ。

 なにせ、エミル以外の人間が中に手を入れたところで、何も入っていないただのポシェットだからだ。


 そんなポシェットにエミルは手を入れて、中の手紙を取り出しそれを読んだ。


「……上? あっ、シルヴァー」


 馬車に開いていた小窓から上空を眺めてみると、そこには白い物体が見えた。

 エミルはそれがキルスの従魔で家族であるシルヴァーであると瞬時に分かった。

 そして、それが分かった瞬間、それまで抱えていた不安が一気に払しょくされたのであった。



「……どうやら、エミルは大丈夫のようだな」

「そうね。まぁ、あの子の子だからね」


 エミルからの返事を読んだコルスとレーラも、エミルが大丈夫と知り、ほっとした。



 一方、コルスたちを送り出した、キルスとフェブロはというと、2人もすぐに王都近くの森の中に転移していた。


「まずは、王城に向かい、ゾロテスの奴と接触すぞ」

「ああ、わかった」


 というわけで、キルスとフェブロはさっそく王都に入り、まっすぐに王城へと向かったのであった。



「止まれ! ここは、王城だ。用のないものは去れ!」


 城門に近づいてくる2人を見とがめた門兵達が持っていたハルバートを手に威嚇する。


「お勤めご苦労様です。ワシの名はフェブロと申します。騎士団長のゾロテス殿と面会がしたい。目通り願えるか?」


 フェブロは威嚇にも怖気づくこともなく丁寧にそういった。


「なに、騎士団長と、だと、分かった少し待て」


 門兵は2人を訝しながらも、面会の相手が騎士団長ならと、確認を取るために奥へと引っ込んでいった。


 そうして、それからしばし待っていると、奥から文字通り飛んでくるような勢いで騎士がやって来た。


「あ、あなたが、大佐殿ですか? んっ? おぉ、あなたはキルス殿、ではやはり、どうぞ中へ、団長がお待ちです」


 飛んできた騎士はまずフェブロを見て確認してから、その隣にいる見覚えのある少年、キルスを認めてから中へ入るように勧めた。


「うむ、失礼する。それと、ワシはもう大佐ではない、ただのじじぃだ」


 騎士とフェブロのやり取りを見ていた門兵達はギョッとした。というのも、大佐という肩書はキリエルン王国においては国軍にしか存在しない。

 そして、門兵達は騎士ではなく国軍兵士、つまり、フェブロはこの門兵達にとっては、たとえ退役していたとしても、上官ということになるからだ。

 そのため、必死になって門兵たちはフェブロに敬礼をし始めた。

 そんな門兵たちに軽くうなづくと、フェブロとキルスは騎士に導かれるように歩いていく、向かう場所は騎士たちの詰所だ。



「大佐殿、ご無沙汰しております」


 ゾロテスはフェブロが入ってくるなり、立ち上がり敬礼をしたが、その姿は前に見た敬礼よりびしっとしたものだと、キルスは感じ苦笑していた。


「久しいな、ゾロテス、元気そうで何より、それと、先日は孫が世話になったな」

「い、いえ、わたくしが至らないばかりに、部下が大変なご迷惑をおかけしたこと遺憾の極みであります」

「なに、済んだこと、さぁ、楽にしなさい」

「はっ、失礼します」


 そういって、ゾロテスはようやく態勢を崩したのだった。


「キルスもよく来たな。座ってくれ」

「あ、ああ、ていうか、爺ちゃんてどんだけ怖かったんだ」

「そりゃぁ、まさに、鬼だった……」


 ゾロテスがキルスの問いに応えていると、フェブロににらまれ、ゾロテスも黙ってしまった。


「まったく、それよりワシらはお主に用があって来たんだ」

「は、はい、何なりと」

「カテリアーナ殿下と話がしたいんだ」

「殿下と? 理由を聞いても」


 突然王女と話をしたいと言ってきたキルス達、それにはさすがに理由を聞く必要があったので、ゾロテスは居住まいを正しながら尋ねた。

 そこで、キルス達は、簡単にではあるが、エミルが逮捕された経緯を話したのであった。


「わかりました、といっても、私の一存では、会わせるわけには参りませんので、確認を取ってまいります。お待ちいただきたい」


 ゾロテスは、フェブロにそういって部下とともに部屋を出ていったのだった。

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