第169話 東奔西走01
キルスの姉、エミルが突然国軍兵士に逮捕された。
その理由は機密窃盗容疑、とうぜんエミルはそんなことしていない。
では、一体何か、それは今現在のキルス達には全く分からないのであった。
「今帰ったぞ」
「あっ、おじいちゃんだ」
そんな時、キルスの祖父フェブロが帰ってきた。
「おじいちゃん、どうだったの」
帰って来たばかりのフェブロにキレルが詰め寄りながら聞いた。
「うむ、どうやら、石鹸のようだ」
「石鹸? なにが?」
「エミルが逮捕された理由だ。お前たちも石鹸がヘルフェリア商会専売であることは知っていよう」
「ああ、そりゃぁ、知ってるけど、だから、姉さんは作った石鹸を売ることはせずに、信用できる知り合いに配るか、俺たち家族でしか使ってない」
この世界にも石鹸は存在している。しかし、それはヘルフェリア商会が独占的に製造しておりその製法は秘匿している。
そして、その石鹸は高価なため王侯貴族しか購入できず、平民は昔ながらのムイレスの実という果実を使っている。
これは、一応汚れは落ちるがただの水のみで洗った場合と比べると2/3の時間で洗い終わるというだけのものだ。
そのため、このムイレスの実は食堂などといった多くの食器を使い、少しでも早く使いまわしたい場合にのみ使われている。
実際、エミルが石鹸を作り始めるまで、ファルコ食堂でもこのムイレスの実を使っていた。
「それは分かっておる。だが、先日殿下に送っただろう」
確かに先日、キルスはバラエルオン伯爵夫人であるエリーゼに玲奈の美容液と石鹸を送る際に、カテリアーナを通して殿下たちに同じものを送った。
これは、簡単にエバ、エリーゼの為だった。エリーゼは伯爵夫人、そのエリーゼの肌が美しくなっていたり、いい香りを出していれば後々面倒だ。と考えて、より上の立場である殿下方に送ったというわけだった。
「ああ、伯爵夫人だけってわけにもいかなかったし、カテリアーナ殿下とは一度会ってるしな。ちょうどよかったんだよ」
「そうか。しかし、それが原因だな。貴族というのは目ざとい、殿下方の秘密を知ろうとする。そして、その1つが石鹸であると気が付いた」
そうなれば、当然石鹸を独占販売しているヘルフェリア商会へ問い合わせる。
しかし、当のヘルフェリア商会にはそんな物がない。
「エミルの石鹸はどう見てもヘルフェリア商会の物よりも優れているからな。奴らも躍起になって出所を探したんだろう」
そして、ついにバイドルのエミルという娘が作っているものだということが分かった。
これにつていは仕方ない、ヘルフェリア商会は大きな商会で、多大な資金力で調べたからだ。
まぁ、実際、エミルの石鹸はここバイドルではちょっとした有名品のため、バイドルで調べればすぐにわかることだろう。
「なるほどな。でも、だったら、なんで国軍の兵士が来たんだ」
これは大きな疑問だ。例えば、商人が訴えただけなら、然る機関からの妖精を受けた警備兵たちが動くはずだからだ。
「うむ、どうやら、これには大物貴族が絡んでいるようだ」
そこまではフェブロもわからなかったという。
「うーん、そこらへんも調べてみる必要がありそうだな」
「そうだな。それで、どうするんじゃ、キルス」
「そうだなぁ、とりあえず殿下にでも聞いてみるかなぁ」
「殿下に? うむ、普通ならありえんと応えるところだが、それがいいかもしれんな」
というわけで、キルスは王都に転移し、カテリアーナを訪ねることとなった。
「ああ、でおその前にシュレリー達に報告しておかないと」
「あっ、それなら、私がさっき手紙書いておいたよ」
そういったのはキレルだった。
「おう、そうか、んで、返事は?」
「来てるよ。お義父さんとお義母さんが来てくれるみたいだね。キルス、迎えに行ってもらえるかい」
そこにシュレリーからの返事を読んだファルコが、そういいながらやって来た。
「わかった」
「あっ、まってキルス、トーライドにはあたしが行ってくるよ」
玲奈がそういった。玲奈もまた転移スキルを獲得しており、トーライドまでは問題なく行くことができる。
「そうか、じゃぁ、頼む」
「オッケー、任せてー、じゃぁ、行ってくるね」
そういって、玲奈はさっさと転移して、すぐに戻ってきた。
「話は聞いた。ヘルフェリア商会が相手だそうだな」
「ああ、そうらしいんだけど、なんでか姉さん国軍の兵士に逮捕されたんだよなぁ」
「それなんだが、ヘルフェリア商会はコリアット侯爵家と裏で繋がっている。おそらくはコリアット侯爵が動いたんだろう」
新たな情報であった。情報を持ってきたコルスは王国の西側を拠点としていた冒険者であり、元トーライドのギルドマスターのためそういった裏の情報も持っていた。
そして、コリアット公爵の領地は西側である。
「裏で?、しかも、侯爵ってまた、厄介な」
「どういう関係なんじゃ」
いくら元国軍の兵士、大佐の地位まで登ったといっても、全てを知っているわけではなく、特に西側の情報には疎いフェブロであった。
「ヘルフェリア商会の創設者がコリアット侯爵家の出身でな。商会本部も侯爵家の領地にあり昔から紹介から多額の金が侯爵家に流れているんだ」
「えっと、つまり、どういうことだ」
キルスは少し理解ができなくなっていた。
「おそらくだが、今回の件、エミルの石鹸の製法を狙っているのかもしれん」
それが真実だろう。エミルの石鹸はヘルフェリア商会の石鹸とは比べ物にならないほどの性能がある。
ヘルフェリア商会がこの石鹸の製法を知ることができれば、より一層石鹸が売れ、彼らの懐が暖かくなるというわけだ。
「そういうことか。となると、やっぱりすぐにでも殿下に会った方がよさそうだな」
「そうだな。となると、ワシも行こう、ワシが行けばゾロテスを通してすぐにお会いできるかもしれん」
「あっ、そっか、確か爺ちゃんってあの騎士団長の元上官だったっけ」
「そうだ」
ということで、キルスとフェブロは王都に跳ぶこととなった。
「ねぇ、お姉ちゃん大丈夫かな」
キレルが心配そうに聞いてきた。それを見たレーラがキレルを抱きしめながら言った。
「そうね。確かに、心配ね。どこに連れていかれるのかもわからないし」
「ああ、そうだな。だったら、シルバーに上空から見張らせるのがいいかな」
「うむ、それがいいだろう。となると、シルヴァ―とともに俺たちが行こう、そうすればいざという時に動きやすい」
「そうね、そうしてくれる。本当なら私が行きたいんだけど」
コルスの提案にレティアがそういって頼んだ。
レティアとしては娘のこと何をおいても自分が行きたいが、サーランをはじめ小さい子供がいるために、早々動けないのだ。
「任せておきなさい、レティアはここで子供たちの面倒を見ていなさい」
「ええ、お願い」
そんなわけで、シルヴァ―に乗り、コルスとレーラがエミルを連行している国軍兵士達の監視をすることとなった。




