第162話 海水浴
この世界においておそらく史上初の海水浴を行うキルス一家。
女性陣が着替えている間に、キルス達はテントの設営を行っていた。
「さてと、こんなもんか?」
「うむ、そうだな」
「そっちの準備も終わった、兄さん、父さん」
「うん、終わったよ」
「そう、んじゃ、俺たちも着替えちゃおう」
「そうするか」
設営が終わったところでキルス達男性陣も着替えることとなった。
キルス達が着替える場所は、設営したテントの中やそこらへんである。
そうなると、当然急がないと先に着替えに行った女性陣が戻ってきてしまう、いくら家族でもそれはまずい、ということでキルス達はいそいそと着替え始めた。
もちろん、その際弟たちの面倒も忘れない。
動き回る弟達に苦労しつつ、男性陣全員も着替え終わる。
「みんな同じ服っていうのも、なんか変な感じだね」
オルクがそういうように、男性陣の水着はみんなほぼ同じで一般的なトランクスタイプとなっていた。
違いといえば、微妙に色が違う程度であった。
「まぁ、男の水着なんてこんなもんだからね」
「ねぇねぇ、キルスにーちゃん」
「んっ? なんだ? オーレル」
オルクとキルスが話していると、そこに五男のオーレルがやって来た。
「まだ、入っちゃダメ?」
どうやらオーレルは早く海に入りたいようだ。
「もうちょっと待ってろ、姉さんたちが出てきたらな」
「え~」
「もう少しだからね。それに、先に入ってたら、姉さんに怒られちゃうよ」
「やだー」
こういう時、普通はお母さんに怒られるというものだが、キルス一家の場合はエミルだった。
「お待たせ」
そうこうしていると、レティアが設置した土魔法の簡易更衣室が解かれ、中から女性陣が出てきた。
「おう、じゃぁ、さっそく……」
キルスは不覚にも絶句していしまった。
それはそうだろう、いくら家族とはいえ、エミルは絶世の美女、その水着姿は弟にしても見とれる物であった。
「……」
それは、他の家族も同様でみんな黙ってしまっていた。
「? どうしたの、みんな」
「あははっ、みんなエミルさんに見とれてるんですって」
「えっ、そうなの」
「んな、そんなわけないだろ」
キルスがそう反応するも、その動揺がすべてを物語っていた。
「いやぁ、びっくりしたぁ。みんな、よく似合ってるよ」
そんな動揺するキルスをよそにオルクが素早くみんなを褒める。
「うむ、そうだな。よく似合っておる。しかし、なんとも人には見せられんな」
「同感だ。キルス、あのような恰好が、向こうでは一般的なのか?」
フェブロとコルスは孫娘をはじめうら若い娘があのような恰好をしてもいいのかと疑問を投げかける。
「ああ、そうだな。一般的なものだな。ていうか、あれ作ったの玲奈だからな」
そう、水着にデザインを考え作ったのは誰あろう玲奈である。
「そうか、そうだったな」
妙な疑いをかけられたが、玲奈が作ったことを改めて言うと、2人も納得したようだった。
「どうどう、キルス、すごいでしょ」
そこにパレオと普通タイプのビキニを身に付けた玲奈がキルスに寄ってきてそういった。
この中で玲奈だけが、この格好に慣れているのである。
「お、おう、そうだな。まぁ、家族っていうのが残念なところだな」
「あははっ、それはしょうがないって、ねっ、ほら、サッちゃんも」
「あっ、ちょっ」
玲奈に手を引かれてやって来たのは幸。
そんな幸の水着は、ワンピースタイプだった。
それでも、幸はかなり恥ずかしそうに真っ赤にしてうつむいていた。
「幸も似合ってるぞ」
「あ、ありがとうございます」
ちなみに、他の面々の水着は、レティア、エミルとシュレリー、ニーナとターナーが玲奈と同じようにビキニタイプ、キレルがセパレートタイプとなっている。
そして、レーラとアメリアをはじめ、小さな子供たちは幸と同じくワンピースタイプだった。
尤も、子供たちの物には、それぞれ工夫は凝らしていあった。
「えっと、まぁ、とりあえず、オーレル達も早く海に入りたいみたいだし、さっそく始めるか」
「そうね、でも、海水浴って何をすればいいの?」
さっそく始めようとするキルスに何をすればいいのかと尋ねるエミル。
「そうだなぁ、普通は、海で泳いだり、砂浜で城を作ったり、スイカ割りだよなぁ」
「うんうん、外せないよねぇ」
海で遊ぶ基本である。
「といっても、基本みんな泳げないだろ」
「あっ、そっか」
この世界では泳ぐという行為自体がほぼないために、泳げる人間はかなり限られてしまう。
「まぁ、泳げなくても波打ち際で遊ぶとか、あるしな。それに俺と玲奈が泳げるから、教えるって手もあるし」
「わたしおよぎたい!」
「ぼくも!」
キルスの言葉を聞いて、弟妹達が手をあげて言った。
「私も教えてもらうかな」
それから、エミルたち大人も手をあげたことで、まずは泳ぎを教えることとなった。




