第159話 おかえり
「終わったみたいだな」
「アウン」
キルスが見守る中、ゾロテス率いる騎士団が、ブレンダー男爵の私兵達を倒すことに成功した。
「ぐっ、お、おのれ~」
ブレンダー男爵は悔しそうに歯を食いしばった。
「閣下、改めて申し上げます。我々とご同道願いますか?」
相手が貴族であるために、ゾロテスも強制的に連行することができないために、改めて要請した。
「ぐっ、ぐぐっ」
もはやどうしようもないにもかかわらず、ブレンダー男爵は応えない。
「分かりました。応じていただけないとなれば、強制連行も陛下より許可を頂いております。よって、おいっ」
「はっ」
ゾロテスの命令を受け騎士数名がブレンダー男爵を囲み始めた。
「な、何をする。私は男爵だぞ!」
陛下から許可をもらっていると告げたにもかかわらず、ブレンダー男爵はあがき始めるが、騎士数名に対抗できるはずもなくあっさりと拘束されてしまった。
「まずは、積み荷を確認しろ!」
その後、ゾロテスは積み荷を確認するように命じる。
それから、数分後1人の騎士がゾロテスを呼んだ。
「団長、見つかりました」
「なに、もってこい」
騎士が何か目的の物を見つけたのを受けてゾロテスはそれを持ってくるように命じた。
そうして、騎士が持ってきたのは一振りの剣、それを遠目で見ていたキルスも気が付いた。
「うむ、これか、キルス、こっちに来てくれ」
「ああ」
剣を確認した後、ゾロテスはキルスを呼び寄せたことで、キルスはようやくその場に行くことが出来る。
というのも、今回の捕り物が貴族であるため、下手に平民であるキルスがうろうろすると面倒なことになる。そう事前に言われていたこともあり、キルスは呼ばれるまで離れたところに待機していたのである。
「来たか、確認してくれ」
ゾロテスが差し出した剣を確認したキルスはうなずきながら言った。
「間違いない、俺の剣、エスプリートだ」
キルスは自分の目だけではなく、鑑定スキルをも使い確認した結果、それは間違いなく、愛剣である。魔剣エスプリートであった。
「そうか、となれば、デリアルト、貴様が盗んだものだな」
ゾロテスはそういって、かつての部下をにらみつけた。
「……」
しかし、この時デリアルトは気絶しており、反応を示すことはできずにいた。
「さて、それで王都までの帰りは、キルスに任せるように言われているが、どうするんだ?」
ここで、ゾロテスは隣にいるキルスに今後の予定を尋ねた。
通常であれば、本来それを告げるのはゾロテスだ。しかし、今回の行き来においてはキルスに任せると宰相から指示があった。
「ああ、じゃぁえっと、出来るだけ小さい範囲の中に収まるようにしてくれ」
そういったキルスの指示にを受け、ゾロテスは部下に指示を出す。
「了解した。まずは男爵閣下とデリアルトをその馬車に貴様と貴様は監視に乗れ」
「「はっ」」
その後ゾロテスは部下にブレンダー男爵の私兵たちをもう1つの馬車に詰め込み、自分たちはその周囲に集まった。
「キルス、これでいいか?」
「ああ、問題ない。それじゃ、始めるぞ」
「頼む」
「そんぁ、まずは、範囲指定……転移!」
そう、キルスが行う帰りとは転移スキルを使うというものだ。
この転移スキル、使いようによっては非常に危険なもの、キルスとしてもこのスキルを国王に話すかどうかは迷った。
そこで、元国軍兵士である祖父フェブロと、元冒険者であるレティアに相談したところ、国王に黙っているのはあまり得策ではないので話した方がいいとのことだった。
もちろん、その際すべてを話すのではなく微妙に変える必要があるとアドバイスを受けた。
そんなわけで、キルスは転移スキルに必要な魔力量をごまかすこととした。
つまり、今回のように王都から約1週間の距離を馬車2台分の範囲より少し大きいものが限界であるとした。
また、自身が行ったことがある場所でなければ無理だということも告げており、いくら見える範囲でもそれは出来ないとも告げてある。
まぁ、本来は、このぐらいの範囲であれば、余裕で隣国カルナートの海岸沿いまで飛べるし、見えている範囲であれば、問題なく転移出来るが、それをいうと間違いなく戦争利用されるのでそれをいうことはしなかった。
こうして、キルス達が転移してきた場所、そこはキリエルン王国王城内にある騎士団の練兵場であった。
「こ、ここは、練兵場か?」
「なっ、馬鹿な」
「嘘だろ!」
ゾロテスをはじめ騎士たちは驚愕しあたりを見渡したり、自身の頬をつねることで夢かどうかを確認していたが、これは現実である。
「おおっ、これは?」
すると、そんな声が聞こえてきた。
その方を見ると宰相が驚きながら立っていた。
「ふぅ、お待たせしました宰相」
「ええ、本当によく戻りました。では、後のことは我々にお任せを、それと、申し訳ありませんが今一度、剣は預からせて頂けますか?」
宰相は、一度盗まれた剣をもう一度預けてほしいとキルスに依頼した。
「ええ、わかってます。どうぞ」
「確かに、こちらは、私が責任を持ってお預かりします」
それから、キルスは宰相に促されて後をついて行く、そうして連れてこられた場所は国王の執務室だった。
「おおっ、キルスか、よく戻った。しかし、まさかその日のうちに帰ってくるとはな、本当に転移スキルとは便利なものだな」
「はい、確かに、あのぐらいの距離と範囲であれば、ですが、以前にもお話したように消費魔力が膨大ですから、これ以上の距離だと難しかったですが」
「であるか、それは残念だが、それもそなたの持つ膨大な魔力だからこそというわけか」
「はい、そうなります」
キルスの魔力が膨大であることは国王には鑑定水晶によってバレている。
そして、現在国王の側には鑑定水晶が、となると、キルスの嘘がばれてしまうのでは、そう考えるが問題ない、実際キルスの現在の魔力残量はほんのわずかしかないように調整してあるからだ。
「ふむ、確かに、あれほどあった魔力がほぼ空か、それほどの消費、使えるようで使えないスキルというわけか」
「そうなります」
「まぁ、なんにせよ。よくやった、褒美を取らせるから後で宰相から受けるといい」
「ありがとうございます」
「さて、では今度こそそなたの剣を見せてもらえるか」
「もちろんです」
キルスから許可を得た国王は宰相からキルスの剣、エスプリートを受け取りしげしげと眺める。
「なるほど、確かに、あれとは別物、実に素晴らしい、これがオリハルコン、ヒヒイロカネか、それにみているだけで、大いなる力を感じる。ふむ、素晴らしい」
国王はエスプリートを絶賛した。
「ええ、まさに、国宝に匹敵する。いえ、おそらくですが、我が国の宝剣よりも上と考えてもいいでしょう」
宰相もまたそういって絶賛した。
「であるな。うむ、実に素晴らしいものを見せてもらった。キルスよ、礼をいう」
「ありがとうございます。陛下」
そういって、キルスもまた頭を深々と下げたのであった。
その後、国王の元を辞したキルスは無事家族の待つ離れに戻り、しっかりとエスプリートも返してもらってから、翌日家族とともに王都を後にしたのであった。




