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第157話 見つけた!

 上空をシルヴァ―が走っている。

 その背には、キルスをはじめキリエルン王国騎士団団長ゾロテス以下、10名の騎士が乗っていた。


「お、おお、落ちないよなぁ」

「だだ、だい、大丈夫だよな」

「お、押すんじゃない」

「お、お、落ち着け、、俺、落ち着くんだ」

「ああ、神様」


 騎士たちは初めて空を飛んでいるものだからかなり騒いでいた。


「す、すまんな、キルス」


 そんな部下達に団長のゾロテスは平静を装いながらキルスに謝っている。


「気にするな。はじめはこんなもんだろ」


 この時、キルスは前世の高校時代の出来事を思い出していた。

 それは北海道への修学旅行に行くときである。

 この際に初めて飛行機に乗る生徒が多数おり、離陸の際に彼らが騒いでいた。

 確かに、飛行機というのは金属の塊、いくら航空力学やジェットエンジンといったものが付いているからと言われても、高校生では理解しきれない。

 いや、ある程度はこういうものだと理解はできる。それでも、やはり不安となる。

 というわけで、貸し切り状態ということもあり、飛行機内は大騒ぎであった。


(まぁ、ああいうのって、周りに同じような奴がいて、周囲が友人だからこそ出来ることだよなぁ。それに、むしろ、それも楽しんでいるようなもんだろう。俺も、そんな連中を見ていて楽しかったしな)


 ちなみに、キルスはその時すでに飛行機は体験していたので騒がなかったし、何よりシルヴァ―に初めて乗った時も、その前世の経験とシルヴァ―に対する信頼により全くと言って恐怖を感じなかった。



 そうして、一時間ばかり乗っていると、さすが鍛え抜かれた騎士、だんだんと慣れてきていた。


「おい、みろよあれ」

「んっ、冒険者か?」

「みたいだな。相手は、アウルベアか」

「だな、おっ、なかなかやるじゃないか」


 眼下では冒険者がフクロウと熊を合体させたような魔物アウルベアと闘っていた。

 その強さは脅威度Cランクで、普通に考えると驚異的な相手だが、眼下にいる冒険者は危なげなく闘えている。


「おっ、倒したぞ」

「ほんとだな」

「なかなか、やるじゃないか」


 どうやら、冒険者たちはアウルベアを倒せたようだ。

 そんな状況にほっとしながらも、どこか上から目線だった。

 それというのも、騎士は皆貴族家の出身、それに対して冒険者はほとんどが平民、まぁ、中には冒険者になろうという貴族もいるが……。

 それでも、彼ら騎士にとって冒険者は自分たちより身分の低い者達であるという認識がある。

 だが、もちろんそれを表立っていうことはせずに、今も見下すような表現をしているのは無意識であった。

 それに気が付いたゾロテスは、キルスに対しても申し訳なさそうな顔を向けていたが、キルス自身全く気にもしていなかった。


「しかし、最初はどうなるかと思ったが、空を飛ぶってのも悪くないな」

「そうだな。それに、上空からだったら、地上がよく見える」

「もし、下が戦場なら、戦況もよく見えるってわけだな」

「これを敵が持っていると、脅威だな」


 騎士たちの会話は次第に戦争時の者となっている。

 そんな部下たちを見て確かにと納得するゾロテスだった。

 確かに、近々帝国との戦争がはじまると思われる中、シルヴァ―というその背に複数人の人間を乗せ、空を飛ぶことができるというのはかなり有用だ。

 それを考えたゾロテスであったが、さすがにそこまでキルスに頼るのはどうかという思いがあったし、そんなことをしてかつて自身の上司であったフェブロの怒りを買わないかと心配がある。

 そう考え身震いをしたゾロテスであった。



 数時間が経過した。


「んっ、ゾロテス、あれじゃないか?」


 そろそろかと思いつつ、眼下を見下ろすと、少しっ得に馬車の一団が見えた。


「どれだ、んっ、お前、よく見えるなぁ。少し近づいてくれ」


 キルスの目は非常に良く遠くにある米粒みたいな馬車の一団を見ることができたが、ゾロテスはそれほどでもないために、今だよく見えていなかった。

 それから、少ししてようやくゾロテスの目にも馬車の一団が見えていた。


「あれか? ……間違いない、あれだ! あの紋章はブレンダー男爵家の物だ」


 貴族の馬車には持ち主の紋章が刻まれている。

 その場所は人にもよるが、ブレンダー男爵は分かりやすく屋根にも刻まれていた。


「分かりやすくていいな。それじゃ……もう少し様子を見てからにするか」


 キルスはさっそく降りようかと思ったが、騎士たちを見て様子を見ることにした。

 というのも、キルスは普段からシルヴァ―の背に乗っているが、騎士たちは初めてのことだった。慣れたとはいえ、どう見ても疲れている。

 このような状態で降り、ブレンダー男爵と対峙しても、下手をすれば返り討ちにあってしまう。

 そう判断しての発言だった。


「ああ、そうしてくれるか」


 ゾロテスも自身や部下たちを見て、キルスの提案をありがたく受け入れる。

 それから、キルス達はシルヴァ―の背に乗ったまま、キルスが鞄からと見せかけ、マジックストレージから適度に冷えたおにぎりを取り出し騎士たちにふるまった。


「これは、なんだ?」


 受け取ったゾロテスもそれが何か疑問に思いキルスに尋ねた。


「それは、おにぎりってものもだ、こういう時の携帯食にぴったりだよ」


 そういって、キルスも鞄からおにぎりを取り出し一口食べる。


「おにぎりか、確かに、こうやって持って食べるってのは、いいかもな。しかし、この白い粒はなんだ」


 ゾロテスもおにぎりは気に入ったようだが、米が何か気になった。

 そこで、キルスは簡単にではあるが説明することにした。


「ああ、それは、ネメニス穀、俺は米って呼んでるけどな」

「ネメニス穀? それってたしか、カルナートで食べられているものだよな」


 さすがは騎士団長、ゾロテスはネメニス穀を知っていた。


「そうそう、昔は家畜の餌だったらしいけど、食糧難の時、食べてみたらうまかったらしい。それ以来、カルナートでは食べるようになったって聞いたぞ」

「食糧難か、わが国でもかつてあったと聞いたことがある。その時は多くの民が命を落としたと聞いてる」


 ゾロテスはそういいつつ顔をしかめた。

 ゾロテスが民と表現した理由は、命を落としたのが平民だけだったからだ。ゾロテスの先祖である貴族は誰一人死ななかったという。

 それを知っているから故、ゾロテスの表現となった。


「そうらしいな」


 こうして、キルス達は眼下のブレンダー男爵一行を眺めつつおにぎりを堪能したのであった。

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