第146話 王都へ
突如第二王女であるカテリアーナから王都に来ないかと誘われたキルス、しかもその理由は国王が話をしたがっているからだという。
カテリアーナは頼みとしてキルスに言っているが、国王が会いたいと言っている以上キルスに断ることはできないだろう。
「え、えっと、わかりました」
と、応えるしかないのだ。
というわけで、キルスは急遽王都へ向かうことになった。
同行者は、同じく誘われた玲奈とエミル、オルク(当初はファルコであったが、ファルコ自身があまりに無理だというので交代した)となっている。
また、玲奈の懇願によりサポートとして幸、オルクの虫対策に婚約者であるラナと、本人の希望によりキレルとなっている。
「それじゃ、行ってくるよ」
「行ってきまーす」
「行ってきます。父さん店をよろしくね」
「行ってきます」
「みんないい子でちゃんとお母さんとお父さんのいうことを聞くのよ」
「ターナーさん、行ってきます」
「行ってまいります」
「ガ、ガウ、ガウ」
街の門の前でキルス、キレル、オルク、ラナ、エミル、玲奈、幸、シルヴァ―の順で挨拶をしている。
相反するのは、残った家族とターナーであった。
「行ってらっしゃい、キレル、キルス達のいうことを聞くのよ」
「う、うん、そうだね。オルクも、後は僕に任せて、楽しんできて」
「いってらっしゃーい」
「うらやましいわね。玲奈ちゃん、帰ったら王都のこと聞かせてね」
という言葉をそれぞれ掛け合っていた。
「じゃぁ、これ以上殿下たちを待たせるわけにも行かないら、行ってくるよ」
「うむ、気を付けてな」
「行ってらっしゃい、みんな」
最後にフェブロとアメリアに見送られてキルス達はカテリアーナ達が待つ馬車へと向かって行った。
「すみません、お待たせしました」
エミルが代表して謝罪した。
「いえ、お気になさらずに、もうよろしいですか?」
「はい、お願いします」
それから、キルス達は馬車に乗り込んだわけだが、その乗り込んだ馬車は、当然キルス達用に新たに用意した馬車となる。
そのため、馬車に乗るとそこは家族のみとなる。
そして、その横をシルヴァ―が随伴するというわけだ。
「はぁ、わたし馬車に乗るの初めて、なんか、ワクワクしてきた」
「ふふっ、そうね。私も初めて、どんな旅になるのかしらね」
キレルとエミルの姉妹はワクワクしながら馬車に揺られている。
「お、思った以上に揺れるね」
「は、はい、そうですね。でも、本当に私も一緒でよろしいのでしょうか?」
玲奈は馬車の揺れに辟易しながらも異世界ならではのことにテンションが上がっている。
一方、幸は招かれてもいない自分が行ってもいいのかと恐縮していた。
「大丈夫だって、さっちゃんがいてくれた方が、あたしも気がすっごく楽なんだから、それに殿下たちも良いって言ってくれたじゃない」
「は、はい」
「ラナさん、大丈夫?」
「う、うん、ちょっと揺れるけど、でも、オルクさんと旅行が出来るなんて、殿下には感謝だよね」
「そうだね」
婚約者であるラナを心配するオルクと、そんなオルクと旅行に行けることを素直に喜んでいるラナであった。
「ほんと揺れるよなぁ、せめてサスとか入れていてほしいよなぁ」
「あっ、それ、よくあるよねぇ」
馬車にサスペンションが欲しいと漏らすキルスに、同じく意味の分かる玲奈が異世界ものでよく主人公が実際に作って使っているシーンを思い出していた。
「キルス、そのサスってなに?」
その言葉を受けたエミルが何か聞いてきたので、キルスは簡単に説明した。
「ああ、正式にはサスペンションって言って、なんていうかな、揺れを軽減する装置ってとこかな」
「揺れを? へぇ、そんなものあるんだ」
「向こうの世界じゃ当たり前だからな。とはいえ、俺にそんなものを付ける技術はないけどな」
ここが問題である、キルスは内心そう思っていた。
そんな、旅路であるが行程そのものは順調であった。
それもそのはず、キルス達が乗る馬車の前には王族の女性陣が乗っている。
そうなると、当然護衛が大量に付いており、目を光らせている上に、キルス達の乗る馬車の隣にはフェンリルたる、シルヴァ―が随伴している。
そんな、馬車を襲撃しようと考える盗賊はいないし、魔物はシルヴァ―を恐れてやってこない。
つまり、平和な物であった。
時が経ち、夕方近くとなってきた。
「街が見えてきた!」
窓の外を見たキレルがそういった。
「ほんとだ、今夜は、あそこに泊まるのかな」
「だろうな」
オルクとキルス兄弟が会話した通り、見えてきた街の宿に泊まる予定となっていた。
といっても、王族たちは街の代官屋敷となっているが。
「それでは、明日門の前に来るように」
騎士にそう告げられてキルス達は宿におろされた。
もちろん、宿は街の中でも高級宿となっており、すでに部屋も確保されている。
そこは、王族たちの客人という扱いなので、当然のことではある。
「はぁ、疲れたー」
「そうね。今日は、ゆっくり休みましょう」
「それがいいだろうな」
こうして、旅の1日目が過ぎ去っていったのである。




