第145話 王都への誘い
突然やって来た王族の女性陣、その目的は玲奈から美容について聞くことであった。
玲奈も、まさか王族が自らやってくるとは思わずに驚愕しながらも自身が持つ美容の話をし始めるのであった。
美容講座が始まると王族の女性陣は真剣な顔で聞きいっていた。
その際、近くにいたキレルや幸、殿下たちにお茶を入れてきた殿下たちが連れてきたメイドもまた、聞き耳を立てていた。
殿下たちのお茶をメイドが入れている理由は、当然毒対策となる。
もちろんキルス一家が王族に毒を盛るなんてことはない、しかし、万全を期すのが王族である。
これに対して、キルス一家も全く気にせず当然と考えている。
ちなみに、現在店は王族がいるということもあり、臨時休業としており、ファルコは王族の前に出るわけにも行かず、厨房にオルクとともに引きこもりっている。
また、レティアもこの場に入るものの、美容にはあまり興味がないために少し離れた場所で見守っていた。
一方、その場を離れたキルスはというと、王族の前に出すわけにはいかない、弟妹達がシルヴァ―と庭で遊んでいるのを眺めつつ、サーランと戯れていた。
「はぁ、まさか、王族がやってくるとは思わなかったよなぁ、まぁ、確かに、あれを渡したわけだし、何らかのアクションはあったと思うけどな。それでも……」
呼び出されるならまだしも、まさか揃ってやってくるとは思わなかったキルスであった。
「あうー、だぁ、だー」
「おう、どうした、サーラン」
サーランはキルスと遊んでいるからか上機嫌だった。
「キルスさん、よろしいですか?」
キルスがサーランと遊び始めてしばらくしたところで、突然そんな声が背後からしたので振り返った。
するとそこには、第二王女たるカテリアーナが立っていた。
「カテリアーナ殿下?」
「失礼しま……まぁ!」
カテリアーナは断りを入れつつ室内に入ってくるなり、キルスの側にいるサーランの姿を認めた瞬間、目を輝かせた。
「キ、キルスさん、そちらの子は?」
「ああ、妹のサーランです。えっと、抱いてみますか?」
カテリアーナの様子を見たキルスはそう提案してみた。
「よ、よろしいのですか?」
「ええ、いいですよ」
カテリアーナはキルスの許可のあと、背後に控えていたメイドを見た。すると、メイドは心配そうにしつつも何も言わなかった。
それを受けて、メイドからも許可が出たとし、恐る恐るといった風にキルスからサーランを受け取った。
「わぁ、柔らかい、それに、思ったよりも重いのですね」
そういうカテリアーナだったが、その顔はとても幸せそうだった。
「わたくしにも妹と弟がおりますが、こうして抱いたことはなかったですから、とても新鮮です」
王族となれば、弟妹が出来たからといって、兄、姉が抱き上げるということはない、というか母や父であってもほぼないといえる。
その理由は、王侯貴族は子育ては使用人に任せるものであるという物があるからだ。
「それは、よかったです。えっと、あちらはいいのですか?」
キルスは気になったので、ここでなぜ自分のところに来たのかを尋ねた。
「あっ、はい、すみません。確かに、あちらも重要ですが、本日はそれとは別にキルスさんにご報告をしたかったのです」
「報告、ですか? それは、ガバエントのことですか?」
「はい、ご存知でしたか?」
「ええ、まぁ、そのきっかけとなった冒険者はここで一緒に登録試験を受けた奴でして、その関係でギルドから、あとは、祖父が元国軍の大佐だったことである程度の情報が入ってきていたようです」
キルスはどこまでの情報を得ているのかを話した。
「そうですか、ではその後のお話ですが……」
それから、カテリアーナはキルスが知るにらみ合いからの続報を教えた。
それによると、どうやら両者のにらみ合いからついにぶつかったようだ。
とはいえ、カテリアーナがキルスから受け取ったドラゴンの血により、事前に分かっていたこともあり、それをガバエントの王族に報せていた。
尤も、この世界には電話やネットがないために、その知らせは早馬や鳥を使ったもののために時間がかかる為に間に合わずぶつかってしまったようだ。
それでも、両王族はそれぞれの辺境伯に兵を引くように呼びかけているそうだ。
「……ですが、我々の力不足か、なかなかひいてはもらえないようです」
カテリアーナは沈痛な面持ちだった。
「あうー、あー、うー?」
そんな表情を見た、今だカテリアーナに抱かれているサーランが、右手を伸ばしてカテリアーナの顔を叩いた。
「まぁ、慰めてくれるのですか?」
それを受けたカテリアーナは、微笑みにながらサーランを撫でた。
「俺が、聞いた話では、そもそも、両辺境伯はあまり仲がよくなかったそうですし、お互い身内が亡くなってますからね。そう簡単には引けないと思いますよ」
キルスも聞いた話からそうだろうと慰めるのであった。
「ありがとうございます。キルスさん」
それからカテリアーナは北、つまりバラエスト帝国の話を始めた。
それによると、帝国はすでにキリエルンとの国境付近に軍を展開し始めているようだ。
これについても、事前に占いで分かっていただけに、すでにキリエルンでも軍の編成は済み向かっているという。
「……ということです、これもすべてキルスさんが貴重なドラゴンの血を分けて頂いたことで対応ができたことです。本当におりがとうございます。お礼を申しますわ」
「いえ、俺もキリエルンの国民ですからね。それに、占ったのは殿下ですから、俺は使い道のない血をお譲りしただけですから」
使い道がないというのは事実であり、キルスとしてもいいように使われてよかったと思っている。
「それでも、ありがとうございます。ところで、キルスさん」
再度お礼を言った後、カテリアーナは更なる話を始める。
「なんでしょうか?」
「実は、お父様、つまりキリエルン王国国王陛下が、キルスさんの話を聞き、ぜひお会いしたと申しております。いかがでしょう、ぜひ、一度王都へお越し願えませんか?」
突然のことにキルスは一瞬何を言われたのか理解できずにいた。




