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第141話 和食

「こ、これって、お味噌 だよね。それに、お醤油……」


 玲奈は立て続けに出現した懐かしい味に信じられないものを見るようにそれらが入った壺を眺めている。


「……」


 一方で幸もまた茫然と見つめるだけであった。

 その気持ちはキルスもわかるので黙って2人を見ている。


「……す、すごい、すごいよ、キルス、ありがと、まさか、まさか、もう二度と食べられないと思ってた!」


 玲奈はひとしきり眺めたところで息せき切って、涙を流しながらキルスにお礼を言った。


「お、おう、喜んでもらえたみたいで何よりだよ」


 若干泣くほどかと思ったが、考えてみればキルスもまた泣きたい気持ちが分かったのでそれ以上は何も言わなかった。

 これは、この世界に来て数か月という短い玲奈と、15年、いや、前世の召喚から合わせると16年という月日のちがいといってもいいだろう。

 ようは、キルスはすでにあきらめがついていたからだった。


「俺も、まさか隣国で見つかるとは思わなかったけどな。しかも、何となく日本と同じ運命をたどっている国だしな」


 カルナートは精強な軍を持つ国であったが、大国に負けて以来戦争をしない国となった。

 キルスはそのことを言っているのである。決して男女の立場が逆転しているということではない。まぁ、昨今の日本を見ていると、そうなりそうな気配がないわけではないが……。

 閑話休題


「ねぇ、食べてみたいんだけど、いいかな?」


 玲奈はまさにおねだりするようにキルスにそういった。


「もちろん、というか今日の夜はそのつもりだ」

「やったー、ねっ、さっちゃん」

「は、はい、ありがとうございます」


 ということでさっそく夕飯作りとなった。

 普段キルス家の夕飯はファルコやオルクが食堂での料理のついでに作っている。

 しかし、本日の献立を2人が作ることはできない。

 そのため、今日はキルス、玲奈、幸の3人で作ることとなった。

 尤も、数が多いためにサポートとしてオルクが入っている。


「さてと、まずは、なんといっても米だけど、こればっかりは……」

「うん、そうだね……」

「「さっちゃんお願いします」」


 キルスと玲奈は同時に幸に向けて頭を下げた。


「え、えっと、はい、わかりました」


 キルスと玲奈と同時に頭を下げられて幸は困惑していた。


「いやぁ、ほら、俺と玲奈の時代って、技術が進歩しててさぁ」

「炊飯器があれば、炊けるんだけどねぇ」

「そうそう、ボタン1つでできるしな」


 そう、キルスと玲奈がいた時代はほぼ似ており、当然炊飯器が普及している。だが、当然ながらここに炊飯器はない。

 そうなると、鍋などを使って昔ながらの方法を取るしかなく2人にとってはお手上げである。

 一方、幸はというと江戸時代からやってきている為に、当然炊飯器はまだなく、釜を使っていた。

 というわけで、この3人の中で現在ご飯を炊く技術を持っているのが幸だけだったのだ。


「さっちゃんがいてよかったよ」

「ほんとにな」

「それじゃ、あたしはお味噌汁作るよ」

「おう、頼む」


 そういって玲奈は動き始める。

 味噌汁といっても、味噌だけでは当然だが作れない、肝心な出汁が必要となる。

 しかし、そこはキルス抜かりはなく、イザナールの海で昆布を見つけ乾燥させたものと、小魚を大量に手に入れて乾燥させた。つまり煮干しを持って帰っていた。


「鰹節はなかったけどな。まぁ、これでも出しとしては十分だろ」

「そうね。任せて」

「じゃぁ、俺はその具だな」

「あっ、そうだ、何にするの」


 味噌汁を作るといったが、玲奈は具までは考えていなかった。


「ここはシンプルにワカメと豆腐でいいだろ」

「えっ、豆腐、お豆腐もあるんですか」


 豆腐に反応したのは米を研いでいた幸であった。


「ああ、といっても、豆腐自体はないぞ、海に行ったからな、塩も作っていたし、苦汁をもらって来たんだ。後は、今日帰ってきてから大豆を水に浸していたからな。そろそろいいだろ」


 といって、キルスは隅に置いていた桶を持ってきた。


「そうか、大豆はあるんだもんね」

「そういうこと、無かったのは苦汁だけだったからな」


 ということで、問題解決と言わんばかりにキルスは豆腐作りとなった。

 作り方は簡単、この水につけていた大豆をすりつぶす、ミキサーがあれば楽だがここにはない、そのため店でも使っている臼のようなもので潰していく。

 その後丁寧に火にかけていく、それが終わると布を使いこしていく、そして出来た液体が豆乳となるわけだ。


「よし、豆乳ができたぞ」


「わぁ、いい匂い」

「はい、懐かしいです」


 あとは、ここに苦汁を投入するわけだが、ここで問題なのが苦汁の分量だ。

 少ないと固まらないし、多くてもダメ、というわけでちょうどいい分量である必要があるわけだが、キルスはどれだけ入れればいいかわからなかった。

 そこで、イザナールで幾度となく試してみて、ちょうどいい分量を見極めていた。


「よし、こんなもんか、後は固まったら出来上がりだな」

「へぇ、面白い料理だねぇ」


 豆腐作りを見学していたオルクが面白そうにしていた。


「まぁね。ああ、そうだ、兄さんこれ、捌いてくれない」

「これをかい、大きいね。海の魚かな」

「ああ、そうだよ。これを焼くんだ」

「へぇ、ちょっとまってね」


 そういってオルクは手早く魚を捌いていく。


 その後、出来上がった豆腐を玲奈に渡し、味噌汁が完成。

 ちょうどそのころ幸が作っていたご飯も炊け、ついに念願の和食が出来上がったのである。

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