第132話 祝いでの遭遇
キルスがオークキングを討伐して、オークの集落の中心部に向かうと、そこには甲高い歓声をあげている女性冒険者たち。
「キルス、そっちも終わったの」
キルスの存在を認めた女性冒険者がそういって声をかけてきた。
「ああ、まぁな、そっちも終わったみたいだな」
「ええ、今ちょうどね。それより、ほんと凄いわね。私らが、オークを討伐している間にキングとか他にも上位種がいたんでしょ」
「ああ、オークメイジとオークアーチャー、後はジェネラルだな」
「Bランクも伊達じゃないってことだね」
キルスの答えに対して、女性冒険者たちは感心していた。
今回のオークの集落には、ゆうに100体を越えるオークがいた。
そんな、集落をこの短時間で制圧できた理由は、なんといっても冒険者の数が62人いたことだろう、単純に計算しても多くても1人で2体倒せばいい。
しかも、参加した冒険者のランクは基本Cランク、ゆえに通常のオークであれば問題なく倒せるのであった。
ちなみに、オークに囚われていた女性に関しては、無事に保護したということだけで、具体的なことは何も聞かされていなかった。
というもの、やはり被害者は女性であり、キルス達男性に細かく説明することもないためである。
キルスとしても、無事に保護したのならとそれ以上聞くことはしなかった。
そうして、問題なくオークの集落の討伐依頼をこなしたキルス達は、キングなど上位種を数体確保して、後は建物ごと燃やすことになった。
建物を燃やすのは、ここがまた新たな別のオークなど魔物が住み着くのを防ぐためである。
そして、今回の討伐には多くの冒険者が参加しているために、マジックストレージを使えず、オークの肉を確保出来なかったキルスであった。
その日は、その場で夜営をすることになり、燃やしていなかった数体のオークの肉を焼いてみんなで食べたのであった。
次の日、キルス達は王都に戻ったわけだが、当然ギルドでは宴会となった。
「えー、君たちのおかげで無事オークの集落は壊滅、キングや上位種はここにいるキルスが討伐した。まずは君たちに感謝する」
女性ギルドマスターが挨拶を述べる。
「さぁ、今日は宴会だよ。食材はキルスが討伐したキングと上位種、遠慮せずに頂こう、乾杯!」
「かんぱーい!」
ギルドマスターの号令とともに、その場にいた冒険者たちによって杯をぶつけあって乾杯した。
「おいしいー、さすが、キングー」
「ほんと、おいしー」
「さいこー」
冒険者たちは軒並み酒を飲み、オークキングのステーキをたらふく食べていった。
そんな中、キルスは囲まれていた。
というのも、やはりキルスがまだ15歳という少年で、彼女たちからしたら年下、その年下の子が自分たちでは勝てないキングを倒したのだからまさに英雄扱いである。
この国の女性たちは強い、そのため弱くなった男性を馬鹿にする傾向がある。しかし、だからといって男性に対して不当な評価をしているわけではなく、キルスのようにちゃんと評価に値すればするというスタンスである。
そのため、現在キルスは女性冒険者達から囲まれて称賛を浴びているのであった。
「ほんと、すごいよねぇ」
「これで、あたしらより、年下ってんだからねぇ」
「もう、お姉さん、褒めちゃうー」
などといって、若干酒に酔ってもいた。
「あははっ、まぁ、そういえば、1ついいか」
「なになに、何でも聞いて」
「えっと、今更だけど、なんで、みんなあんなにオーク討伐をしたがったんだ」
オーク討伐に向かう際、実は人数的には120ぐらいが希望を出していた。
さすがに、それは大所帯過ぎるという理由から厳選して62人という人数となっていた。
厳選したのに中途半端となったのはパーティで選んだからだ。
「ああ、そのこと、それはね」
「あたしたちはカルナートの冒険者はある女性冒険者に憧れてるからなんだよ」
「憧れ?」
「そう、キルス君って確かキリエルンから来たんだよね」
「そうだけど」
「だったら、知らない、レティア様」
「! レティア……様?」
ここでまさか自身の母の名前が出るとは思わず、聞き返した。
「そう、殲滅のレティア様、私たちの憧れなんだよね。ほら、レティア様ってたった1人で、オークの集落を殲滅したでしょ」
「知らない?」
キルスが黙っていることに知らないのかと思い尋ねてきた。
「い、いや、まぁ、噂程度では?」
さすがにここで、息子であるというのは危険だと思ったキルスはひとまず、噂としてごまかした。
「そうなんだ。じゃぁ、教えてあげる」
そういって始まったレティアの伝説、どれもキルスにとっては母のことである、知っている事実も多かったが、中には明らかに捏造されたと思われるエピソードもあり、キルスは若干引きつった笑顔を見せて聞いていた。
そうして、しばらく話を聞いていたキルスはようやく介抱されたのであった。
「ふぅ、疲れたぁ」
(そういえば、シュレリーが俺なら問題ないって言った後、別の大変さがあるかもって言ってたけど、こういうことか)
話を聞いているうちに、もしここで息子だと言っていたら本当に大変なことになっていたとつくづく感じたキルスであった。
「まぁ、とにかくなんか食うか」
今回の宴会は人数が多いということで、ギルドの酒場だけではなく訓練場も解放されてのものとなっていた。
そのため、立食形式を取っており、キルスは取り皿を持ち料理が置かれているテーブルに向かって行った。
「へぇ、みんなうまそうだなぁ」
キルスは食堂の息子であり、食べることも好きなために、異国の料理に興味津々であった。
そうして、料理を眺めつつ、気になったものを取り皿に入れて、食べているとキルスの目にある料理が飛び込んできた。
「えっ、こ、これって、まさか! いや、まさか!!」
キルスの目に飛び込んできたものは、小さな穀物を煮た物であった。
「まさか、米……か? いや、でも……」
そう。その見た目は完全に米であった。
キルスは確かめるように恐る恐る、取り皿に取ると、それを口に運ぶ。
「!!! ……まじかよ!」
口に入れた瞬間、キルスの舌には懐かしい甘さと、舌触り、チーズの風味が感じられた。
「米だ、それも、これは、リゾットじゃねぇか!」
キルスはこの世界に来て、15年、ついに懐かしの味日本人のソウルフード米に出会ったのだった。




