第130話 オークの集落
キルスがカルナート王国王都のギルドで、自身の受けた依頼の説明を聞こうとしたところで、突如ギルド職員が緊急依頼を発動した。
これは、危機的事態が発生したという報せである。
「何があったんだ?」
「緊急、オークの集落が発見されました。皆さん、ご参加下しさい」
ギルド職員によると、王都から少し離れた場所において、オークの集落が発見されたという、しかも、その規模はそれなりに大きく、上位種はもちろん、オークキングもいる恐れがあるという。
それを聞いたギルド内はというと。
「よっしゃぁ!」
「やるよー!」
「待ってましたぁ!」
なぜかものすごく沸いた。
「?」
そんな様子のギルド内を見てキルスが訝しむ、オークというのは確かにその肉は美味い、キルスも相当数ストックしているし、ファルコ食堂では人気な食材だ。
男にとってはある程度のランクであればそれほど脅威な存在ではないが、女にとっては最悪な存在となる。
なにせ、オークにはメスがいない、そのため繁殖するには他種族が必要になる。つまり、女は捕まれば苗床にされるという事態となるからだ。
そして、このカルナートの冒険者はほとんどが女性であり、今沸いたのは女性冒険者だった。
キリエルンであれば、多くの女性冒険者がオークと聞けば嫌な顔をして、やりたがらない。
にもかかわらず、この異様な盛り上がりは一体何だろうか、キルスはそう思った。
「よし、みんな、気合入れて準備するよ」
そうして、ギルド内に居たほとんどの女性冒険者たちが一斉に準備に走り出した。
「キルスさん、キルスさんもぜひ、参加していただけませんか」
キルスが首を傾げていると、ジョッシュからそういわれた。
「ああ、それは、構わないが……」
「ありがとうございます」
ということでキルスも急遽オーク討伐に加わるのであった。
オーク討伐は翌日に向かうという話であったために、キルスはその日宿に泊り、翌朝集合場所の門にやってきていた。
「ああ、あんたも来たの……えっ!」
「ちょっ、なによ。それ!」
キルスが門にやってくると、昨日話しかけてきた女性冒険者たちがキルスを見つけ声をかけてきたが、キルスの隣を歩くシルヴァ―に驚愕した。
「ああ、俺の従魔でシルヴァ―だ」
「アウ、アウ」
「じゅ、従魔、って、いや、それより、でかくないかい、その子」
「うん、うん」
「大きすぎよ。なんなの、その子」
周囲にいた冒険者たちも集まってきて、キルスに質問を投げつけてきた。
「ああ、まぁ、シルヴァ―はフェンリルだからな。本来はもっとでかいぞ」
「はっ?」
「フェ」
「フェンリルー!!!!」
「いやいやいや、ありえないでしょ」
「ほ、ほんとに、ほんと、なの」
シルヴァ―がフェンリルだというと、その場にいた冒険者達は戦慄した。
その後、我に返った、女性冒険者たちにキルスは詰め寄られたが結局すぐにギルド職員が一括したことでその場は解散となり、オークの集落へ向けて出発となった。
「はぁ、それにしても、フェンリルって、規格外にもほどがあるわよ」
「ほんとだよね。これじゃ、Bランクっていうのもうなずけるよー」
「確かに」
オークの集落までは馬車で移動となるために、キルスも女性冒険者に囲まれつつ馬車に乗っていた。
そこでの会話の内容は主に、シルヴァ―のことであった。
どうやって、手に入れたのか、本来はどれほど大きいのかということである。
もちろん、キルスも前世のことなど言えるわけもないので、そこは偶然出会い、なぜか懐かれたと応えた。
そうして、進むことしばし、オークの集落までは2日かかるということもあり、その日は夜営をすることとなった。
そうなると、当然見張りが必要となる。
キルスはいつもシルヴァ―がいるために見張りはしていない、それを告げてみたが、さすがに従魔とはいえフェンリルであるシルヴァ―に頼れないとして、一応の見張りを設置することとなった。
もちろん、そこにはキルスも含まれており、その夜、キルスは数少ない男性冒険者とともに見張りをすることとなった。
というのも、実はこの国での男性冒険者はこうして見張りを請け負うことが多いそうだ。
「いいのか、それで」
キルスも思わず尋ねた。
「ああ、まぁ、夜更かしは美容の大敵らしいからな。それに、俺たちは戦闘ではそれほど活躍できないから、これぐらいはな」
男性冒険者すでにこうしたことを受け入れていた。
ところ変われば、慣習なども変わるということを実感した一夜であった。
そうして、翌日キルス達はいよいよオークの集落が見える位置までやって来た。
そんな中、キルスを含む男性冒険者たちにより集落の偵察にやってきていた。
「あれか、かなりの数がいるな」
「だな」
「おい、見てみろよ。あそこ、並んでるぜ」
よく見ると集落の一部にオークがずらりと並んでいるのが見えた。
「どうやら、あそこにいるみたいだな」
「のようだな。どうする?」
「とりあえず、報せるしかないだろうな」
「気が重いなぁ」
「確かにな。だが、言わないと、後の方が怖いだろ」
「違いない」
オークが並んでいる先には、間違いなく捕まった女性がいるはず、その事実を女性冒険者に告げると、当然だが彼女たちは憤慨する。
その様子を想像して気が重くなるが、もし、これを黙っていた場合も憤慨し折檻されてしまうだろう、その方が恐ろしいと考える男性冒険者であった。
キルスもまた、2人の姉と強い母を持つ身であるために、その恐怖はわかるのでうなずくのであった。
「まぁ、なんにせよ。とっとと戻ろう」




