第125話 カルナート王国
急にギルドに呼び出されたと思っていたら、突如Bランクに昇格が決まった。
Bランクに昇格するには、複数のギルドマスターからの推薦と昇格試験を受ける必要がある。
その試験というのは、まずは戦闘試験、その後貴族との面接というものとなっている。
というのも、Bランクともなればどうしても貴族からの依頼を受けることもままあるからだ。
だが、特例として貴族からの嘆願書が届けば、面接は免除される。
また、戦闘試験も拠点ギルドのマスターの権限で免除することもできる。
つまり、この2つを得たキルスは試験もせずにBランクへと昇格することができたというわけである。
「それで、どんな依頼なんだ」
Bランクの昇格とともに、キルスにはトーライドのギルドマスターからの依頼の話があった。
「ああ、お前にはカルナート王国に行ってもらいたいってことだ」
「カルナート、それって確かこの国の南西にある国だよな」
キルスは、キリエルン王国の冒険者として、一応隣接する国の名前ぐらいは知っている。
といっても、キルスが知っているのは国名だけだが……。
「ああ、そうだ。その様子だと、どういう国かは、知らないようだな」
「まぁな、っで、どんな国なんだ」
これは、別に恥ずべきことではない、なにせキルスが拠点としているバイドルから、カルナート王国に行くには、馬車を使っても、数か月はかかるトーライドよりもさらに数日はかかるからだ。
「それなら、私が説明するわね」
ここで、名乗り出たのは当然だが、シュレリーだった。
「あっ、そっか、シュレリーなら知っているのか」
「当然!」
シュレリーはカルナート王国との国境を管理するトゥメイル辺境伯領の領都であるギルドの受付嬢、当然隣国であるカルナート王国の情報も持っていた。
そんな、シュレリーの説明によると、カルナート王国は、ここトラベイン大陸においては現在最も古い国とされている。
つまり、この国はトラベイン帝国が覇を唱えていたころ、最も早くに独立に成功した国ということだ。
そんな国ではあるが、その国土はキリエルン王国より5分の1にも満たない小さな国だ。
しかし、この国の軍は精強であり、これまで周辺諸国から幾度となく侵略の手を向けられていたがこれらをすべて撃退してきたという。
また、カルナートの歴代の王はなぜか領土欲がなく、逆に侵攻することもなかったという。
そのため、この小さな国土は、建国以来全く変わっていない。
「カルナート王国は、女尊男卑、つまり、女の子が強くて、男の子が弱い国なのよ」
普通より男女が逆転している国だという。
どうして、こうなったのか、実はかつてのカルナートはその逆の男尊女卑の激しい国であったという。
それでも問題なかったのは、その頃の軍が強かったからだった。
しかし、今から約200年前、カルナートの北西に位置している大国、アダルエイト公国との戦争が勃発。
これは、いつものようにアダルエイトの侵略だった。
アダルエイトとカルナートの国力差は歴然、どう考えてもアダルエイトにカルナートが蹂躙される未来しか見えない戦争であったが、カルナートは見事にこれを10年戦い抜いた。
それどころか、もう少しで勝利すら見えていた。
ありえない、それは当時カルナートを支援していたキリエルン王国もそう考えた。
なぜ、カルナートがここまで強いのか、その理由はよくわかっていないが、1つはっきりしていることがある。
それは、この世界において、キルスも学んでいるが、すべての剣技をはじめ格闘術などあらゆる武技の発祥の地がこのカルナートと言われている。
そのため、その宗家ともいえる者たちが多く存在していたのが理由の1つだろう。
尤も、それだけではないだろうが……。
とにかく、そうして、続いた戦争だが、アダルエイトはついに切り札を切った。
この世界の戦争は魔法があるだけに量より質、それは明らかに小さい国であるカルナートが大国アダルエイトと渡り合っていることからも明らかだろう。
そう、つまり、アダルエイトは質、つまり、圧倒的な強者を投入した。
それは、キルスやレティアのように個人で一騎当千の力をもつ冒険者を戦場に出した。
しかも、その冒険者はキルスのようにグリフォンという従魔を持っていた。
突如、戦場に現れた強者とグリフォン、これにはさすがのカルナートの軍も敗北せざるを得なかった。
こうして、長い歴史の無敗伝説が破られたのである。
その後、アダルエイトは圧倒的な国力差にもかかわらず10年も闘い続けたカルナートに敬意を評して、支配をすることをやめた。
その代わり、内政に介入し法律を改めさせた。
まず、軍の撤廃、街の治安を守る警備隊のみ許可された。
また、その代わりにアダルエイトの軍を各地に設置した。
そして、何よりアダルエイトが執拗にまでに狙い続けた目的、海の使用の自由化である。
このほかにも様々に介入したのだ。
これにより、カルナートは戦争が出来ない国となった。
ここまで聞いたキルスはまるで戦後の日本だな、そう思った。
そこからの歴史を聞いたが、それもまた日本とよく似ていた。
というのも、軍が無くなり、戦争をしなくなったことで、カルナートは平和となった。
それはよかったが、それに伴い男たちの立場が徐々にだが弱くなっていった。
それはそうだろう、これまでは戦争により戦功をあげてきたのに、それを生かす場がないからだ。
そんなわけで、女性が徐々に力を付けていき、だんだんと男の立場を奪っていった。
そうして、ついに男女平等を謳い始めたのだ。
もちろん、この時の男たちはそれに贖う術など無く、これを受け入れた。
これにより、女性がどんどん社会に進出を始めた。
最初は問題がなかった。しかし、雇用問題が出始めた。
なにせ、これまで男しか求職していなかったのに対して、急に女性まで求職し始めたのだから、単純に考えて数が倍だ。
だからといって、求人が増えるわけでもなく、完全に飽和状態となったとこで、実力ある女性が就職し力のない男性が雇用されなくなっていった。
その結果、徐々にだが主夫が出始めたのだ。
しかも、そのころ王家では女性しか生まれないという事態となり、世間的にも女王の誕生が求められ王家もこれを了承した。
そこからだろう、いつしか女性の力が強くなり、男性がその陰に隠れることとなり、気が付いた時には女尊男卑という形となっていた。
ちなみに、カルナートでは今でも一応男女平等を掲げている。
「……」
キルスは話を聞いて、なんか未来の日本かと思ってしまった。
もちろん、それはキルスの主観であり、未来の1つに過ぎないが、それでも、そう考えてしまったのだ。
実際、キルスも就職難に見舞われたのだから。
「えっと、そんな国に俺が行っても大丈夫なのか?」
女尊男卑の国に男のキルスが行ってと心配するキルスであった。
「それなら、大丈夫だろ、あの国でさげすまれるのは弱い男だけだ、キルスは強いからな」
「それと、レティア伯母さんの息子さんっていうのもあると思う」
「どういうことだ?」
シュレリーによると、女性が強いカルナート王国では強く美しい女性であるレティアの人気が高いという。
「まじか?」
「まぁ、その分、別の意味で大変かもしれないけどね」
キルスがレティアの息子ということで、レティアのことを根掘り葉掘り聞かれるのではということだった。




