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第118話 領都に連れて行って

 キルス兄弟の自己紹介を受けたコルス達はいよいよファルコとの対面の時を迎えていた。


「なんか、ちょっと、緊張する」

「大丈夫、お父さん、顔は怖いけど、優しいから」


 キルスやその兄弟たちから、その顔が怖いと聞きちょっと緊張しているシュレリーであったが、隣にいたエミルが苦笑いしながらそういった。


「えっと、いいのかな、大丈夫?」


 そんな緊張が伝わったのか、壁の向こう側でファルコがそんな情けない声をレティアにあげていた。


「ほら、しっかりしなさい」


 そんな情けない夫をレティアは笑いながら背中を叩いている。


「じゃ、じゃぁ……あ、あの、初めまして、その、ファルコ、です」

「……」


 ファルコが思いきって登場すると、その顔の怖さとセリフが会っていなかったからか、コルス達は絶句した。


「ご、ごめんなさい」


 ファルコは少々人見知りなところと気の弱いところがある。それが今まさに発揮されたのであった。


「ふふっ、なるほど、確かにキルスの言った通りだったな」

「ほんとにね。ふふふっ、レティアが気に入るわけだわ」

「はははっ、確かに、姉さんらしい」


 そんなファルコを見たコルス、レーラ、アレンの3人はさすがにレティアの血の分けた家族だけあり、すぐに立ち直り笑い始めた。


「伯父さん、すごい」

「……はっ、え、ええ、そうね」


 シュレリーも冒険者ギルドの受付嬢として、強面の男たちは見飽きるほど見てきた。だが、ファルコの強面っぷりはそれをはるかに越えていた。

 シュレリーはそれを素直に凄いと感じていた。

 そんな中、唯一一般的な思考を持つリミルファだけは再起動に遅れが出たが、自身の夫、その両親、娘が落ち着いていることから何とか叫ばずにいられたのであった。


「あっ、初めてだよ。レティア」

「そうね。大体は悲鳴をあげるか、石化するものだけど、笑ったのは始めてね」

「うん」

「ふむ、よろしくなファルコ、俺はレティアの父コルスだ」

「わたしはレーラよ。それから、こっちは……」

「弟のアレンです、よろしくお願いします義兄さん」

「妻のリミルファです」

「シュレリーです、伯父さん、初めまして」


 こうして、無事に対面を終えたころ、リビングへと新たな人物が入ってきた。


「ただいま、あっ、キルス、帰ってたんだ。おかえり」

「ただいま帰りました。キルスさん、おかえりなさいませ」


 帰って来たのは玲奈と幸であった。


「おう、ただいま、ていうか2人もおかえり」

「うん、あっ、えっと、私たちは、ここでお世話になってて、あたしは玲奈っていいます」

「はじめてお目にかかります。わたしは幸と申します」


 玲奈と幸は揃ってコルスたちに頭を下げた。


「お、おう、よろしくな」


 この世界にはお辞儀という文化はない、そのため2人のしぐさにコルスたちは戸惑いつつも何とか応対することができた。


 その後、当然の如く宴会に突入した。その際もちろんだが、ファルコの両親であるフェブロとアメリアも参加していた。

 その際にわかったことだが、実はコルスとレーラ、そしてフェブロは知り合いであった。

 なんでも、かつて戦場でともに闘った仲だったという。考えてみれば、フェブロは元国軍兵士であり、コルスとレーラは冒険者、戦場で共闘していてもおかしくはなかった。

 というわけで、3人とアメリアはすぐに意気投合していた。

 お互いにまさか、自分の子供同士が結婚しているとは思ってもみなかったのだ。


 そうして時間が過ぎていく中、キルスが一息ついていると玲奈と幸が近づいてきた。


「お疲れー」

「おう、2人もお疲れ」

「お疲れ様です」


 ここで3人は日本式にお互いをねぎらう。


「それにしても、キルスが今日帰ってきたのって、ほんといいタイミングだったよ」

「玲奈さん。キルスさんはお疲れでは」

「ん、なにかあるのか」


 2人のやり取りにキルスは自分に何かの用事があったのかと先を促した。


「うん、それがさぁ」


 その後、玲奈と幸はキルスがトーライドに旅立った後のことを語りだした。

 それによると、2人の仕事である編み物は順調そのものであった。

 それを聞いて安堵しつつも続きを聞いていると、キルスは驚愕した。

 なんと、その編み物でドレスを作ってほしいとこの地の領主バラエルオン伯爵から依頼が飛び込んできた。


「この街の代官の使いって人がやってきてさ。いきなり、領主が奥さんにドレスを作りたいって行ってきたらしいのよ」

「話を受けられたのが、ターナーでして」

「あたしたちも後で聞いてびっくりだよ」


 編み物でドレスを作る。それは日本で生きてきた玲奈もキルスも驚愕の発想であった。


「ターナーさんにも、毛糸の編み物で作るのは防寒着だって言ってたし、理解出来てたんだけどね、話を聞いて面白くなったって、それで、受けちゃったみたい」


 ターナーという人物は、腕のいい服飾職人だ、だが、良くも悪くも根っからの職人である。

 編み物という技術はターナーにとっては青天の霹靂とも行ってもいいものであった。その技術を持ち込んだ玲奈に心からの感謝を送っていた。

 だが、同時にその編み物での可能性というものを考えるようになり、その時に舞い込んできたドレスの制作、これは面白そうだと考えたターナーは2つ返事で引き受けてしまったのだ。


「それで、ターナーさんデザインを書く手が止まらないって言い出して次々に書き出してさ」

「寝る間もお食事も忘れる勢いでした」

「あはは、まじか」

「まぁ、あたしもそのデザイン見たら、なんかやる気が出て」


 キルスがターナーの行動にあきれていると、不意に玲奈が言った。


「玲奈さんも同じような状態になってしまいました」


 どうやら、玲奈も寝る間も惜しんで編み上げたようだ。


「っで、昨日の夜出来たから今日はターナーさんと最終調整していたってわけ、それで、お願いがあるんだけど」


 ここで、玲奈は言葉を一旦切って、自分より背の高いキルスを見上げる。


「お、おう、なんだ」

「あたしたちをバイエルンまで連れて行って」

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字脱字書くの諦めました笑
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