第116話 衝撃
祖父母を尋ねてキリエルン王国南西端に位置するトーライドへと行っていたキルスは、祖父母と叔父叔母、従姉を連れてようやくバイドルに帰ってきた。
家に帰ると、休憩中の店内には末っ子であるサーランを抱いたレティアがいた。
「久しぶり、えっと、抱く」
レティアはひとしきり弟や義妹、姪に挨拶をした後、ついに両親へと目を向けそういった。
「当然だ」
「そうね」
コルスとレーラはいきなりそういった娘に少々ため息を吐きつつも、変わらないことに安堵し、そう答えた。
「気をつけてよ」
「わかっている。おお、よしよし」
まずはコルスがサーランを抱くようだ。
コルスにとって赤子を抱くなどゆうに20年ぶり、恐る恐るレティアからサーランを受け取った。
「あいー、だうー、あぅー」
サーランは祖父に抱かれているのがわかるのか、嬉しそうに笑った。
「おお、笑ったぞ」
「ああ、可愛いぃ」
笑った孫を見て、2人はすでにメロメロであった。
「えっと、奥、行くか」
そんな親娘を見たキルスは放置されたアレンやリミルファ、シュレリーにそう言った。
「そうしようか」
シュレリーがそういったことで、キルス達は家の奥に向かって歩き出した。
「ただいま、姉さん」
奥に入ると、まずリビングにてまだ幼い弟妹達の面倒を見ていたエミルがいた。
「あら、おかえりなさい、キルス」
キルスを見たエミルはまず笑顔で弟に応え、その後立ち上がった。
「叔父様と叔母様、それとシュレリーさんですね。初めまして、わたしは長女のエミルと言います」
「……」
エミルの自己紹介を受けた3人は絶句した。
というのも、3人はエミルの美しさに見とれてしまったからだ。
「……ちょ、ちょっと、キルス君」
自身も絶世の美女として、毎日鏡を見ているために慣れていたシュレリーがいち早く復活してキルスに小声で詰め寄った。
「なに?」
キルスはシュレリーが急に詰め寄って来たので、どうしたのかと尋ねた。
「エミルちゃんて、私に似てるって行ってたよね」
「ああ、よく似てるだろ」
「どこがよ、わたし、こんなに綺麗じゃないわよ」
シュレリーはそういうが、キルスにとっては2人は同じくらいの美女だと認識していた為に、シュレリーが何を行っているのか理解できなかった。
実際、他の人間に聞いても、2人は似ていると判断していただろう。
なら、なぜ、そう見えるのか、それは、内面によるものだろう。
シュレリーは、絶世の美女だが、元気な性格や、年下として育ったためか少し幼いところがある、それに対して、エミルは長女として育ったために落ち着いており性格もファルコの性格を受け継いでおりおしとやかといってもいいものだ。またレティアからも真の強さを受け継いでいるためにまさに完璧と呼べる美女であった。
「そうかな」
キルスは身内のためによくわからず首を傾げるばかりであった。
「どうかしましたか」
そんなキルスとシュレリー、いまだ固まっているアレンとリミルファにこれまた首を傾げながらエミルは尋ねた。
「い、いや、想像以上だったから、驚いただけだよ。えっと、はじめまして、君たちのお母さんの弟でアレン、こっちは妻のリミルファで、この子が娘のシュレリーだ。よろしく、エミルちゃん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。ここでは何ですし、どうぞ座ってください、今お茶入れますね」
そういって、エミルは厨房に入っていった。
「ははっ、まさか、これほどとはね」
「え、ええ、ほんとに想像以上ね」
「キルス君は、もうちょっと、お姉さんの事認識するべきだよ」
「そういわれてもな」
「おねえちゃんたち、だーれ」
ソファに座って人心地ついた3人の前に先ほどまでエミルと遊んでいた幼い弟妹がやって来た。
「俺たちの従姉と、叔父さんと叔母さんだ」
「いとこ?」
「おじさん?」
「おばさん?」
「そうだ。俺がどこに行っていたか忘れたか?」
「あっ、おじいちゃんとおばあちゃん」
「あれ、おじいちゃんとおばあちゃんは」
少しだけ考えて、キルスが祖父母のところに行っていたことを思い出したが、肝心の祖父母がいない、首を傾げる弟妹達であった。
「ふふっ、可愛い」
「ああ、そうだな」
「……」
アレンとリミルファはそんなやり取りをしているキルス兄弟をほほえましく見ている一方でシュレリーはエミルの時以上に固まった。
「か!」
「か?」
ようやく話したかと思うと一文字だけつぶやいた。
「か、可愛いぃぃぃぃぃ」
シュレリーはそういって叫び出した。




