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第11話 ニーナの事情

 ニーナが突如失踪した。

 キルス達姉弟はニーナを探すために街に散った。


 そんな中、キルスはニーナが子供であり、バイドルについたばかりであるという事実から、そんなに遠くには行っていないだろうと、家の近場で探し始めた。


「ニーナお姉ちゃーん」


 キルスはそう叫びながら探して歩いていた。

 そうして、探していると、キルスの思った通り、家の近所の路地でうずくまったニーナを見つけた。


 「ニーナお姉ちゃん」


 キルスが声をかけるとゆっくりと顔をあげキルスを見た。


「……」


 ニーナは、そんなキルスの顔を見て、すぐに再びうずくまった。


「ニーナお姉ちゃん、こんなところにいたんだ。帰ろう、みんな心配しているよ」


 キルスは、なるべく優しく声をかけた。


「……帰りたくない……」


 ニーナはそんなキルスの言葉に小さくそう答えた。


「どうして、何かあったの」


 キルスは、ニーナが出て行ったところに出くわしたわけではないので、事情を聞こうとした。


「……」


 キルスのその問にもニーナは応えない。

 そんなニーナをキルスは根気よく待つことにした。


…………


「……私」


 少しの間待っていると、ニーナはようやく話し始めた。


「……弟がいたの、5歳で、キルス君と同い年の……」


 ニーナは静かに語りだした。


「明るくて優しい子で、いつも私の後についてきて……」


 ニーナは話しながら涙を流し始めた。そんなニーナの様子にキルスは静かにニーナの言葉を聞いた。


 ニーナの話によると、ニーナは以前小さな村に住んでいた。

 そこで、家族4人にぎやかながらも平和に楽しく生活していた。

 そんな中、村ではやり病が発生した。

 そのはやり病とは、弱死病というものだった。

 この弱死病というものは、感染症の一種で、飛沫や接触などで感染してしまう、しかし、この病原菌は感染力は弱く、健康な抵抗力がある大人や子供でも、ある程度成長して抵抗力があれば発症することはまずない。

 だが、抵抗力の弱い幼い子供や老人となると感染する。そして、この病気の恐ろしいところは発症してしまうと、治すこともできず、そのまま死に至るというものだ。

 また、発症していない健康な人間でもたまに病原菌をすべて撃退できずに保有状態となることがあるということだろう、そのためその人間が広めてしまうという事態が起きる。

 実際、ニーナたちにはわからないことだが、たまたま立ち寄った冒険者の1人がこれに感染していた。

 そうして、広がった病原菌が村中に広がり、あっという間にニーナの家族を襲った。それでもニーナや両親は発症しなかったのは幸いだが、最悪なことにニーナの弟クリスが発症してしまった。


「……クリスが、だんだんと弱ってきて、私、何もできなくて……」


 ニーナは、悔しそうにそういった。

 だが、それは仕方ない事だった。弱死病には特効薬がない。というかこの世界の知識ではそもそも弱死病が感染症であり、微細な細菌が病原だということも知られていない。

 それを聞いたキルスは、まだ5歳のために弱死病については聞いたことがなかったためにわからなかったが、前世の記憶から大体の予想は出来た。


「えっと……」

「ごめんね、キルス君にはわからないよね」


 キルスが何も言わないことを見たニーナは、小さくそう言った。


「弱死病についてはわからないけど、何となくはわかるよ。ニーナお姉ちゃんやおじさんとおばさんがとても悲しい思いをしたってこと」


 キルスとしては、感染症がわかるというわけにもいかないためにそういった。


「そっか……ごめんね」


 キルスの言葉にニーナは再び謝りつつキルスを抱きしめた。

 そして、キルスもまたそんなニーナを受け入れ、黙って抱きしめられていた。



 一方そのころ、ファルコ食堂でもミーナがレティア達にも同じ話をしていた。


「……そうだったの、弱死病か、あれは、厄介よね。私も以前弱死病が流行った村に行ったことがあるわ。あの時も多くの子供やお年寄りが、亡くなって、それはひどかったわ」

「ええ、それで、あの子、あれ以来ふさぎこんじゃったし、私たちもあのままあの村にはいたくなくて」


 ミーナにとって我が子を失った場所だ。そんな場所には居づらくなる。どうしても失ったクリスのことを思い出してしまうからだ。


「その時にちょうど、主人の異動の話があって、それでこの街に来たのよ」


 ミーナたち親子にとってはありがたい話だった。

 こうして、ミーナたちはバイドルにやって来たということだった。



 そんな話をしていると、キルスがニーナを伴って帰ってきた。


「ただいま、ニーナお姉ちゃん、見つかったよ」

「ニーナ」


 キルスが家に帰ると、すぐにミーナがニーナの元に向かった。


「ごめんね、お母さん……ニーナの気持ちわかっていなかったね」


 そういってミーナはニーナを抱きしめた。


「……お母さん……」


 ニーナもわかっていた、ミーナが明るくふるまいながら、ファルコ食堂で働いていることも、夜両親がクリスのことで泣いていることも知っていた。


「……ごめんなさい」


 こうして、ニーナ失踪事件は解決した。


 その後、キルスの報告によってエミルとオルクが帰ってきて、エミルはニーナと何やら話し合ったようだった。

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