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第109話 シーブルト工房

「シーブルト工房だと、なるほどな、あいつの剣か、悪いがうちの店ではあいつの剣はあつかってねぇ」

「んだとぉ、てめぇ、おい、ガキ、適当なこといってんじゃねぇぞ」


 キルスの声が聞こえたドットが納得しつつほっとし、いちゃもんを着けた男は動揺してキルスに食って掛かった。


「適当じゃねぇって、俺には鑑定スキルがあるからな。そもそも、俺はシーブルト工房なんて知らないから、適当もなにもないだろ」


 キルスの正論である。


「このガキィがぁ」


 男は突如キルスに躍りかかった。


「いきなりだな」


 キルスはそうつぶやいた後、突っ込んでくる男をかわしつつ足をかけた。

 すると男はそのまま店の外に飛び出していった。


「グホォ、て、てめぇ」


 男は倒れた際に胸を打ち息が漏れながらも、立ち上がりキルスをにらみつけた。


「バウッ」


 だが、その時男の背後から大きな口が迫ってきて、その襟元を咥え込み持ち上げた。


「うわぁ、なんだぁ」


 シルヴァ―である。シルヴァーは店の前でくつろいで、キルスとシュレリーを待っていたところに、男が飛び出してきた。それもその先には何かをしたであろうキルスがいた。

 それを見たシルヴァ―は男がキルスの敵と判断したんである。

 ならば、逃がさないようにと襟首を咥え捕らえたのである。


「ぎゃぁ、は、はなせぇー」


 突然3mはあろうかという大きな狼に捕まり食べられるのではという恐怖から恥も外聞もなく叫ぶ男である。


「シルヴァ―、もういいぞ放してやってくれ」

「アウン?」


 シルヴァ―はいいのと言わんばかりに1吠えした後、男を解放した。


「くそぉ、おぼえてろ」


(古典だな)


 キルスにとっても古とも言える捨て台詞を吐いて男は去っていった。


「はぁ、助かったぜ。それにしても、お前武器鑑定なんて持っていたのか」


 武器鑑定、それはキルスの持つ鑑定スキルの劣化版であり、武器に特化したスキルである。


「いや、俺のは武器とかの専門じゃなくて、すべてだ」


 特に隠すことでもないのでキルスはドットにそう返事をした。


「すべて!! それはまた、すげぇな、おい」

「うん、すげぇ、兄ちゃん」


 特化型の鑑定スキルであればそれほど珍しくなく、持っているものは意外と居たりする。だが、キルスのようにすべての鑑定ができる鑑定スキル持ちというものはほぼ見たことがないのが現状であった。

 それはそうだろう、この鑑定スキルはキルスのようにスキルの石碑といった特殊な方法か生まれつき奇跡的に持っているかしかないからだ。


「まぁな、それで、やつは何だったんだ」


 キルスは尊敬のまなざしを送ってくるトレットに困惑しつつそれをごまかすように先ほどの男のことをドットに尋ねた。


「ああ、あいつ自身は知らねぇが、シーブルト工房ってなら、おそらくドーロンの手先だろう」

「ドーロン、誰だ? それ」

「現在のシーブルト工房の主だ。あの工房はな……」


 それから、ドットは静かにシーブルト工房について語りだした。

 それによると、かつて人族で有りながら鍛冶師を目指し修行に励んでいた男がいた。その男の名は、ダリアンといい、ドーロンの祖父に当たる人物だ。

 ダリアンは必死に修行し、努力に努力を積み重ねた。その結果、ついに人族でありながらドワーフ族に匹敵する鍛冶職人となった。

 これは、ありえないことではないがすさまじいことだ。この世界においてドワーフ族と言えば鍛冶、鍛冶といえばドワーフというようにドワーフ以外では鍛冶師になっても、ドワーフの見習いを辛うじて越える程度までしかなれない。

 だからこそダリアンの偉業は歴史にも残る凄いものであった。

 そうして、その息子、グノブもまた同じく努力を重ねた結果、同様の鍛冶職人へと成長した。

 2代続いての偉業に街は湧き、この親子をたたえた。

 そして、そんな期待の中生まれたのがドーロンである。


「ドーロンはな、生まれながらに鍛冶スキルを持っていたんだ」


 生まれながらに鍛冶スキル、これにはキルスも驚いた。

 なにせ、鍛冶スキルが生まれながらに持っているのは通常ドワーフであり、それ以外は才能と先の2人のように必死な修行によって飲み発現するものだからだ。


「それは、すげぇな」

「ああ、それがわかった時はお祭り騒ぎだったぜ」

「そうね。ドットも思いっきりはしゃいでいたわよね」

「うるせっ、だがな……」


 そこからドットは悲痛な表情で語りだした。

 どうしたのかと聞いていると、そこからキルスはあきれた。


 ドーロンは生まれながらに鍛冶スキルを持っていたことで、勘違いしてしまった。

 というのも、この鍛冶スキルのように技術系のスキルには落とし穴があった。

 それは、努力をしなくても形だけ、表面だけは完璧に出来るというものだ。

 つまり、ドーロンは努力せずとも、父や祖父と同様の鍛冶が表面上出来ていたのだ。

 尤も、それで作られた剣は表面だけの為実際には全く役に立たない粗末なものとなる。

 もちろん、ドーロンがそれをやった時父グノブも指摘した。

 だが、ドーロンはそれを生まれながらに鍛冶スキルを持つ自分に対したグノブの嫉妬であると考えてしまった。

 そのために、グノブが幾度となくまじめに修行するようにとドーロンに言い含めても聞く耳を持たず、まったく修行をしなかった。


「典型だな」


 話を聞いたキルスはまさに落とし穴にはまった典型であるとあきれたのである。


「ああ、まったくだ。ちゃんと修行していれば、あいつはきっと親父さんや爺さんを越える鍛冶職人となる。そう思っていたんだがな。残念だよ」


 ドットは心底残念がっていた。

 それは、剣を使う側であるキルスも同様であった。

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