第107話 従姉とデート
翌日、朝食を食べようと泊めてもらっていた空き部屋から出た(レティアが使っていた部屋はすでにシュレリーの部屋となっていた)キルスはリビングへと向かった。
「あっ、おはよ、キルス君」
「ああ、おはよ」
キルスを出迎えたのは叔母であるリミルファであった。
それから、少ししてからコルスとレーラ、シュレリーと続いてアレンが起きてきた。
「おはよ、キルス君早いね」
「そうかな。家では大体この時間に起きるけどなぁ、まぁ、大抵は妹か弟たちに起こされるんだけどな」
「あははっ、それは大変そうだね」
キルスが起こされる際にダイブされるという聞いていたシュレリーはうらやましそうにそういった。
「ああ、そうだ、キルス君、これ」
シュレリーは手に持っていた紙の束をキルスに渡した。
「んっ、ああ、手紙?」
「そう、みんなにお返事書いたのよ。というわけでキルス君お願い出来る」
「わかった、といっても、俺は入れるだけだけどね」
そういって、キルスは受け取った手紙の数々をマジックストレージに収めた。
「何度見ても、凄い魔道具だな」
「ほんとね。現役のころこれがあればって思うわ」
「だな」
冒険者というのは、各地で魔物を討伐しその素材などを剥ぎ取り売る。そういったことをして依頼料以外の収入を得ている。
だが、持ち帰れる素材というものは限られている。
そのため泣く泣く捨て置く素材というものが出てきてしまうのだ。そういった意味でも無限に入るマジックストレージの存在は冒険者としても垂涎の魔道具であろう。
「そうはいっても、下手に売れないけどね」
これは事実で、実際にマジックストレージには売れずに死蔵されている素材も数多くある。
「まぁ、それはあるだろうがな。それでも、うらやましいものだ」
「そうね。荷物が軽くなるというだけでもうらやましいわね」
コルスとレーラにとってはうらやましいの一言であった。
その後、朝食を食べ終えたキルスとシュレリーはシルヴァ―を伴って街に繰り出したのである。
「キルス君、どこか行きたいところとかある」
歩いていると不意にシュレリーがキルスにそう尋ねた。
「そうだな、この街の武器屋とか、見てみたいかな」
キルスも冒険者、冒険者として各地の武器屋には興味があった。
「武器屋さんか、それならいいところがあるわよ。そこは新人の冒険者さんに教えるところなんだけどね。もちろん高位冒険者用の凄いものも置いてあるわよ」
ということで、キルス達はそのシュレリーおすすめの武器屋に向かった。
「こんにちは」
「あれっ? シュレリーじゃない、いらっしゃい。どうしたの、あら、その子は?」
店に入ると、そこには30代半ばに差し掛かった女性がカウンターに座っていた。
どうやら、シュレリーとは知り合いのようで、挨拶をかわした後一緒にいるキルスに首を傾げた。
「こんにちは、ノーマお姉ちゃん」
「お姉ちゃん?」
お姉ちゃんという呼称に今度はキルスが首を傾げた。
「うん、ノーマお姉ちゃんはお母さんのお姉さんの子供なの」
「つまり、従姉」
「そういうこと、ああ、えっとね、キルス君もわたしの従弟なんだよ」
後半はノーマに向かって嬉しそうに言った。
「従弟? そんな子、いたっけ?」
ノーマはシュレリーのイトコがシュレリーの母方しかいないという事実を知っているために、そのイトコの中からキルスの存在を探したが、当然見つからない。
「違う違う、お父さんの方、つまりね、レティア伯母さんの子供なの」
「えっ、レティアって、あの! ほんとなの」
「あっ、ああ、そうだけど」
「そうなんだ。へぇ、それで、冒険者、なのよね」
「一応ね」
「キルス君は凄いのよ。まだ冒険者になって1年も経っていないのにすでにCランクなんだから」
シュレリーはまるで我がことのようにノーマにキルスを自慢した。
「それは、また、すごいわね。さすがは、レティアさんの息子さんって訳ね」
自身が可愛がっている従妹のことは全面的に信用しており、そんなシュレリーが嬉しそうに語るキルスを多少なりとも、可愛い従妹を騙しているんじゃないだろうかと疑っていたが、さすがにそのランクを聞けば、信じてもいいかもしれないと思うノーマであった。
「すごいでしょ」
「うぉぅ」
その時、店の前からそんな悲鳴が聞こえた。
「ん、どうしたのかしら」
「母さん、大変だ、店の前にでかい狼がいる」
「狼、何言っているの」
店に駆けこんできたのは、10歳ぐらいの少年で、ノーマの息子である。
「ああ、それはシルヴァ―、俺の従魔だ」
でかい狼と聞いてキルスとシュレリーはすぐにシルヴァ―であると理解した。




