第102話 衝撃の数々
レティアの両親であり、キルスの祖父母であるコルスとレーラと邂逅したキルスは、ちょうど昼時だったこともあり、昼食をごちそうになった。
その後、コルスに乞われファルコの話をすることとなったが、性格と顔のギャップが激しく、それを聞いた4人は混乱していた。
「……えっと、キルス君、もう一度言ってくれない、なんか、わたし、耳がおかしくなったのかな」
あまりのことに、聞き間違えたと思い、キルスにもう一度いうように頼むシュレリーであった。
「いや、聞き間違えてないよ。父さんは、性格は良いだけど、顔が凶悪なんだ。そもそも、母さんと父さんの出会いも……」
キルスは、両親の出会いの話をした。
それは、まずファルコが料理修行の為にトロンベルという街に向かうところから始まる。
通常、街から街を移動するとき、駅馬車や乗合馬車に乗るか、商人に頼んで乗せてもらう必要がある。
だが、ファルコはその顔があまりに凶悪だったために、馬車に乗ることを断られてしまった。
そこで、仕方なく歩いて行くことになったのだ。
ちなみに、1人で街を出るには、市民証ではなくある程度ランクの上がった冒険者か、兵士などに従軍したことがあるものだけとなる。
ファルコは父がフェブロという国軍兵士だけあっただけに、かつて無理やり従軍させられたことがあった為に、問題なく街の外に出ることができた。
そうして、街の外を歩き、目的の街へ向かっていた。
ただ、それだけであった。
しかし、その様子を見た誰かが、凶悪な盗賊が街に向かっていると勘違いしてしまった。
自分たちではどうしようもないと思ったその者たちは、ファルコの目的の街であるトロンベルへと走った。それは、かなり必死だった。
そして、ようやくの思いでたどり着くとすぐに告げられた。
それを聞いた警備兵、冒険者たちはパニックとなった。
それというのもトロンベルはバイドルよりも小さく田舎であり、周囲に出る魔物もせいぜいがゴブリンかスライムなどといった、弱い魔物ばかり。
そのため、警備兵たちも実戦経験がないものが多い、冒険者も基本が低ランクで、高くてDランクという状態であった。
そんな時、ふらっと立ち寄った高ランクがレティアであった。
そこで、ギルドは当時Bランクだったレティアにすがるように討伐を依頼した。
レティアもなんでこんな田舎に盗賊が? そんなことを思いながらも街の平和の為ということもあり、受けることに……。
一方、ファルコは自分が向かっている街が、そんな騒ぎになっているということはつゆにも思わず、しかも、それがまさか自分が原因だということは全く思いもせずにのんびりと街道を歩いていた。
そこに、やって来たのがレティアである。
ファルコは最初レティアを見たとき、雷に撃たれたかと思ったほどの衝撃を受けた。
それほど、レティアは美しかったのだ。
だが、そう思ったのもつかの間、レティアは腰の剣を抜き放ち、突如としてファルコに斬りかかった。
もちろんそれに慌てたファルコも思わず腰に差した剣を抜き応戦。
その後、数合、レティアは衝撃を受けた。
その時すでにBランクで自分の強さにも自信を持っていた。
まさか、その自分と数合打ち合える。しかも、自分は本気でかかっているのに、相手は全く本気ではなかった。
そのことに気が付いて、さらに衝撃を受けた。
気が付いた当初は腹立ちを覚えたが、すぐに違和感を覚えた。
それは、ファルコの表情であった。
キルスはいまだにわからないが、その時のファルコの顔は、まさに泣き顔だった。レティアは後にそう語っている。
その表情は、はたから見ると、どう考えても何か企んでいるようにしか見えない。
それでも、レティアは気が付いた。
その瞬間、レティアは剣を引き、尋ねた。
こうして、話をする機会を得たファルコは、訴えた。料理修行のために街に向かっているということをだ。
もちろん、レティアは最初それを信じられなかった。自分と数合打ち合えるほどの実力を持ちながら、なぜ、料理人なのかと。
実は、ファルコ、父が国軍兵士ということで、幼いころから鍛えられた。ファルコには剣の才能もあったのか、その強さは顔に似合い、かなり強かった。
しかし、ファルコは性格が、顔と実力にあっておらず、自分がより好きな料理の道に進んだのである。
話すこと数十分レティアはようやくファルコが無害であることを理解した。
そうして、レティアは自分が同行してトロンベルに向かったのである。
そうなると、街は困惑した。しかし、レティアが高ランクの自分が保証すると言ったことでその混乱を収めることができた。
といっても、条件として、レティアがファルコの保証人として街にとどまるというものが付いた。
ただ立ち寄っただけのレティアにとっては苦い思いではあったが、ファルコをこのまま放置しては寝覚めが悪いような気がして、承知したという。
そうして、数年、レティアは刺激のない冒険者業をこなしながら定期的にファルコの元を訪れていた。
その際に様子を見るだけではなく話をしていると、レティアはだんだんとファルコという男に惹かれていった。
そして、いつしか、レティアとファルコは付き合うことになっていた。
これには、街の男たちは大いに悔しがったという、しかし、それらはファルコのことをレティアに投げた報いというものであろう。
「ということらしい」
「……それは、また」
「そういえば、レティアが何時か街に数年とどまっていたという情報があったが、そんなことがあったとはな」
「……すごい、出会いね」
「う、うん、でも、キルス君のお父さんって凄いのね。レティア伯母さんとやりあえるなんて」
「父さんの場合は性格が合ってないからね。でも、もし性格と顔が一致していたら、今頃大変なことになっていたと思うけど」
「……そうだろうな。ただ歩いていただけで、盗賊と思われるとはな。しかし、レティアの奴また、とんでもない男を見つけたものだな」
「ほんとにね」
ファルコとレティアとの出会いを聞きコルスたちはそれぞれの感想を述べた。
「う、うむ、いや、わかった、それで、他に兄弟はいるのか? 姉がいるというのはさっき聞いたが」
ここで、コルスは話をキルスの兄弟、つまり孫たちの話しに切り替えることにした。
「ああ、兄弟は、六男七女の全部で13人だよ」
「はっ」
「えっ」
「い、今なんて」
再び襲った衝撃、また聞き間違いだと思うほどの人数が聞こえてきた。
ちなみに、シュレリーだけは道中にキルスから聞いていただけに、そうなるよねぇ。といった表情をしていた。
「驚くよねぇ。私もさっき聞いて驚いたのよね。ていうか多すぎよ」
「それに関しては俺もそう思う」
「ちょ、生活は大丈夫なの。いや、レティアが相当稼いでいるはずだから、大丈夫だとは思うけど」
「お、おう、そうだな。大丈夫なのか」
ここで、コルスとレーラから心配の言葉が出てきた。
「ああ、それなら大丈夫だよ。婆ちゃんが言ったように母さんが相当稼いでいたから、周辺の家を買ってまとめたから家は結構広いから、まぁ、さすがに全員が個室ってわけにはいかないけど結構余裕はあるし、生活もうち食堂をやっているんだけど、父さんは料理の腕もいいから、結構繁盛しているんだ。尤も、多分今は姉さんがいるからっていうのが一番大きい気がするけど、あとは、最近は後で説明するけど特殊な事情から食料も使いきれないほどあるから、全く問題ないよ」
全く問題ない。キルスのその発言に少しほっとするコルスとレーラであった。
「そうか、それはまぁ、よかったが、それにしても多いな」
「ほんとね。いままで、シュレリーだけだったのに、いきなり13人って、びっくりね」
「そうだよね。わたしだって、いきなり、従弟がこんなに増えて、嬉しいけど、ちょっと戸惑うよ」
キルスから告げられる衝撃の事実の数々にコルス達は少々疲れが見え始めていた。




