第10話 ニーナの失踪
キルスがガイドルフから剣を学び始めて3日が過ぎた。
キルスの剣の才能についてはガイドルフも舌を巻くほどだった。
「おい、キルス、お前、ちびの癖に生意気だぞ」
その才能にガイドルフはついついキルスへの指導に熱をいれてしまった。
そのおかげか、キルスは現在、同じく剣をキルスより2年も長く学んでいるドーラフという少年から因縁を付けられている。
5歳に因縁を付ける8歳という構図だ。
もちろん、これはガイドルフや他の者が見ていない場所で行われている。
「そうだ、そうだ。お前みたいなチビが剣なんて10年早いんだよ」
そんなドーラフには取り巻きが2人ついていた。
「家にかえって、ママに甘えていろよ」
キルスはこれを言われても腹を立てるどころか、特になんとも思わなかった。
「えっと」
ただ、どうしようかと悩むだけだった。
(どうする、まさか、叩きのめすわけにも行かないし、ていうか、たぶん、今の俺じゃ、結構きついだろうし)
実際、キルスは才能はあるが、筋力は5歳児でしかない。そのため8歳の少年に勝てるかと言われると難しいだろう。
(魔法が使えれば、問題ないけどね)
キルスの腕に今もはまっている魔封じの腕輪。これを外せば、魔力を操作して身体強化を行うことができる。そうなれば余裕でこの3人を倒すこともできるだろう。
「どうしたんだ。お前ら」
そんな風に悩んでいると、少し遠くに居たガイドルフが声をかけてきた。
「ちっ」
ドーラフ達は舌打ちをしながらその場を去っていった。
「何かあったか」
残されたキルスにガイドルフは尋ねた。
「さぁ」
キルスはそういってごまかした。別に告げ口をすることでもないと思ったからだった。
「そうか、まぁ、早く帰れよ」
「うん、じゃぁ、さようなら、先生」
「おう」
こうして、キルスは家路に着いたわけだ。
キルスが家に着くと、何やら、騒がしかった。
「ただいま、何かあったの?」
キルスは、近くにいたオルクに尋ねた。
「ああ、キルス、おかえり、実はね、ニーナさんがいなくなったんだ」
ニーナの母ミーナは引っ越してきた次の日から食堂の手伝いや、レティアを手伝って子供たちの面倒をエミルと一緒に見ていた。
だからこそ、キルスもこのタイミングで剣を学びに行けたとというわけだ。
そして、その娘、ニーナはそんなミーナと一緒に店に来ていた。といっても、いつも店の端の方でじっとしていた。
話しかけても特に返事もせず、タダ座っているだけ、とにかくよくわからずキルス達も気にしながらも放っておいた。
そのニーナが、突然行方不明となったという、キルスとしては意味が分からない。
「ニーナお姉ちゃんが? なんで?」
「それが、わからないんだ」
オルクもいなくなった理由はわからなかった。
いや、オルクだけじゃなく、エミルやレティア、ファルコもわからなかった。
「とにかく、さがさなきゃ」
キルスはとにもかくにもまずは探さないとと行った。
「そうね。エミル、オルク、キルスも探してくれる」
それを聞いたレティアはさっそくといわんばかりに上の子3人にそれを頼んだ。
どうして、この3人かというと、この3人しかいなかったからだ。レティア本人は身重で動けないし、ミーナは動けるが、この街に来たばかりで、それほど詳しくない、ファルコは顔の怖さから、下手に出ると怖がられるからだった。
「わかった」
「うん、任せて」
「行ってくる」
というわけで、3人は家を出た。
「私は、こっちを探すから、オルクはあっち、キルスはそっちを探して」
「うん」
「わかった」
そう返事をしてオルクとキルスもそれぞれ走り出した。
「ニーナちゃーん」
そう叫んだのはエミル。
「ニーナさーん」
こういったのはオルク。
「ニーナおねえちゃーん」
最後はキルスだった。
(子供の足では遠くには行っていないはずだし、なにより、ニーナはこの街に来て間もないから、土地勘もない。となると、近場だよな)
キルスは内心では落ち着いてニーナの行動を分析していた。
実際、ニーナはこの街に来て間もない、それどころか、実はニーナはある事情からミーナのそばを離れなかった。そのため、この街に来てから、ミーナとともにファルコ食堂に入り浸っていた。
そう思い、キルスは店からそれほど離れていない場所を重点的に探した。
それが功を奏したのだろう。物陰で膝を抱えているニーナを発見した。
「ニーナお姉ちゃん」




