第01話 まさに、恩を仇で返された
新作です
なるべく更新できるように頑張ります
蓮山護人は途方に暮れていた。
それもそのはず、護人は今、処刑台に立っているのだから……
護人は、どうして、こうなった。そう思いながら自身に起きたことを考えていた。
事の始まりは、今から約1年前、その日護人は自宅でネット小説に投稿するための執筆をしていた。
まさにその時だった、突如護人は光に包まれた。
「な、なんだ」
次の瞬間護人は自宅の椅子の上ではなく地面に座っていた。
「何なんだ、一体、これは?」
意味が分からない、護人はそう思いながらも周囲を見てみた。
すると、そこには黒いローブを身に付けた怪しすぎる者たち、地面には魔法陣のようなものが描かれていた。
(えっと、もしかして、これって異世界召喚ってやつか、まさかな)
そう思ったが即座にありえないと断じた。それはそうだろ、いくら護人が異世界転生物や異世界転移物の小説を読んだり、執筆していたとしても、すでに25歳となった今、それがありえないことだということぐらいはわかる。
だからこその、混乱なんだろう。
「ーーーーーーーーー」
護人が混乱していると何やら厳かな声が聞こえてきた。
何だと思い護人がそちらを見てみると、そこには髭を生やして王冠を頭に乗せた王様然としたおっさんが立っていた。
とはいえ、護人は王様が何かを言っているようだが何を言っているのかは全く分からない。
(えっと、なんだ、これ、もしかして、寝落ちか? それにしてはかなり痛いな)
護人は自分が置かれたありえない状況に対して、執筆中に居眠りをしてしまったと考えた。
それも無理がないほどの体験であったからだ。
(とにかく、目覚めるか)
護人としては、こんな夢から早く冷めて、執筆を続けたかった。
しかし、どうやって目覚めればいいのかはわからない。どうしたものかと考えていると、不意に王様の話が終わり、護人の方へと鎧を身に付けた騎士たちがやってきた。
何だろうと思っていると、騎士が護人の両脇に立ち無理やり立たせてきたのだ。
「いてぇじゃねぇか」
その時に不意に襲われた痛みに文句を付けた。
もちろん日本語で言っている時点でそんなこと通じるはずはない。
(えっ)
それよりも護人は重要なことに気が付いてしまった。
(ちょっと待て、今、痛かったよな。でも、これって夢だろ、にも拘らず痛みって、どういうことだ)
護人はますます混乱した。夢の中では痛みを感じない、だから夢であるかどうか確認するのに頬をつねるという行動をする。
そう考えれば今の痛みは一体何だったんだろうか。
護人がそんな風に混乱している中、騎士たちは護人を連れどこかに向かっていった。
結論からいうと、護人のこれは、異世界召喚というもので、決して護人の妄想から来た夢ではなかった。
その証拠に召喚されてから数日経っても、護人が夢から覚めることはなかった。
落胆しながらも、逆に異世界召喚という一生に一度でもありえないこの状況に心を躍らせることにした。
そして、1か月が経ち、この世界の言葉を習得することができた護人は、ようやくこの世界のことが分かった。
それによると、この世界はカーマイスノースという世界で、護人を召喚したのはオリアントル大陸にあるハエリンカン王国という国だそうだ。
それで、肝心の護人を召喚した目的は、魔王の討伐という鉄板だった。
魔王、そう、この世界には魔王がいる。
そして、当然のごとく世界を支配し人間を滅ぼそうと考えているらしい。それに対抗し多くの国が協力をして討伐に向かったが、ことごとく失敗。
そこで、勇者を召喚して討伐してもらうと考えたようだ。
こうして、事情を聞いた護人は当然魔王を討伐することは快諾、しかし、問題があった。
「それはいいけど、俺、闘う力なんてないけど」
護人は、いたって普通の日本人、平和な日本に住む。当然闘う必要がないためにその力はない。
「それに関しては、問題ありません。召喚の際、肉体と魂が作り替えられておりますので、すでに闘う力をお持ちです」
それから詳しく説明してくれたが、それはかなり衝撃的だった。
そもそも、世界をわたるということは、思っている以上に負荷がかかる。肉体は崩壊し魂も耐えられるはずもない。
じゃぁ、どうして護人は無事なのかというと、これこそ召喚の際に使った術式に組み込まれているようだ。
もちろん、これで絶対大丈夫とは行かないようだが……
とにかく、その術式のおかげで負荷がかかった魂には膨大な魔力が宿り、肉体も強靭なものへと作り替えられたという。
「まじか」
確かによく異世界召喚ものにも、召喚されると肉体が強化されて強くなるとか聞くけどそういうことなのかと、護人は妙に納得できた。
しかし、同時に自分がいかに危険な状態だったのかということを聞かされて気分もいい物でなかった。
と、それから、護人は戦闘訓練を行うことになったわけだ。
いくら闘う力を得ているといっても、さすがに戦闘訓練を受けずにいきなり魔王と闘えない。
そこで、行われた戦闘訓練だったが、護人はこれを信じられないくらいにあっという間に会得していった。
いくら護人が肉体的に強化されていてもさすがに、ここまで早くに戦闘技術を会得できるはずもなく、これにはハエリンカン王国の者たちも驚愕した。
なぜ、ここまでの速さで会得できたのかというと、これは護人自身も知らないことだが、護人には剣の才能にあふれていたというものがある。
というもの、護人の一族は武家で、ある先祖が歴史に名を残してはいないが剣の達人だった。それ以来、蓮山家には時々剣の才能にあふれたものが生まれる。
それが現在では護人だったということだ。しかし、現代日本において剣は必要のないものであり、護人自身が現代のスポーツと化した剣に興味を示さなかった。
という理由から、護人の才能は開花することがなかったのだが、まさか異世界に召喚されたことで開花したのだった。
こうして、約1年で戦闘技術を会得した護人は、さっそくと言わんばかりに魔王の討伐に向かった。
そして、激闘の末、多くの仲間を失いながらも何とか魔王を討伐した。
護人達討伐隊は凱旋し、各地で祝杯をあげられ護人たちにみんなが感謝した。
そうして、1週間が経ったある日、突如護人の寝所に複数の騎士がやってきた。
「えっ、なんだ、お前ら」
護人としてはまさに寝耳に水だった。
「貴様にはある嫌疑がかけられている。来てもらおうか」
やって来た騎士はそんなことを言いながら護人の腕に何やらはめてきた。
「はぁ、嫌疑、何を言っているんだよ。ていうか、何だよこれは?」
護人は起き抜けだったこともあり、抵抗らしい抵抗も出来ないまま連行された。
そして、意味も分からないまま牢屋に入れられて、本当に全く意味が分からなかった。
それから、数日護人は頭を悩ませ、何とかここを出られないかと思いながら過ごしていた。
「魔法も使えないって、どうしてだよ。ってやっぱり、これだよな、どう考えても」
護人は全く魔法が使えなくなっていた。その原因はどう考えても腕にはめられた物だろうと考えていた。
「おい、出ろ」
その時兵士がやってきて護人は牢屋から出された。
解放かと思っていたら、違った。
護人が連れてこられた場所は城門の前にある広場、そこには街の人たちが大量に集まっていた。
それも、何やら憎しみの表情をしていたのだ。
(どうなっているんだ。俺は魔王を討伐したんだぞ、本来なら感謝されるはずだろ)
護人としては、別に感謝の言葉が欲しくて魔王を討伐したわけではない、自身が魔王の存在を聞き放置はできないと思ったからだった。
にも拘らず、目の前にいる民たちは明らかに憎しみの目を護人に向けていた。
「皆の者、聞くのだ。この者は、魔王を討伐せし英雄の1人、しかして、その実態は魔王と結託し、我々を苦しめていた」
突如国王がそんなことを言い出した。
(はぁ! 何を言い出してるんだ)
護人は意味が分からない。
「また、我らが魔王を討伐せし時に何もせず、むしろ邪魔をしてきたと報告を受けている」
(ほんとに、何を言っているんだ。魔王は俺が1対1で倒したんだぞ。というか、むしろ邪魔をしてきたのはお前らだろう)
護人がそう思ったように実際に邪魔をしてきたのはハエリンカン王国の連中だった。
なにせ、魔王討伐の際、魔王と闘うまでは特に何かしてきたわけではなかったが、いよいよ魔王にとどめを刺そうとしたまさにその時、突如横から騎士が複数やってきて、自分たちにとどめを譲れと言ってきた。
この時護人は困惑したのは言うまでもない、というか、いくら瀕死の状態であっても魔王は魔王、騎士が複数いたところでとどめの一撃など出来るはずもない。
間違いなくかすり傷にもならないだろう。にも拘らず、騎士たちは魔王に向かっていった。
そして、案の定なんの傷も与えられず、魔王の怒りを買っただけであった。
まぁ、それでも最後は何とか護人が素早くとどめを刺したので問題にはならなかった。
そんなわけで、今民衆にしゃべっている国王が言っていることは真っ赤な嘘であった。
「さらに、この者は……」
それから、国王は護人が行ってきたという罪状を読み上げていったわけだが、当然護人にはそんなことは身に覚えが全くない。
(って、その時、俺まだいなかっただろう)
そう、その罪状の中には3年前や5年前の事件も含まれていた。
護人がこの世界に召喚されて未だ1年、その事件があった際護人はこの世界には召喚されていなかった。
それでもそれらは実際にあった事件、しかもその犯人は貴族や大商人、王族の誰かだったのだ。
つまり、護人はこの際にとそれらの犯人として仕立てられたようだ。
(ふざっけんな。なんで、なんで、俺が、そんな知りもしないやつらが起こした事件の犯人にされなきゃ行けねぇんだ)
護人は叫びたかった。しかし、それはできない、それというのも護人の首には沈黙の首輪という魔道具が付けられ話すことができないし、抵抗しようにも腕には魔法を封じる魔封じの腕輪、追加と言わんばかりに非力の腕輪もはめられている。
おかげで、全く抵抗ができない状態だった。
そして、国王が罪状を読み上げ、民衆からの怒りの声が響いている中、護人は抵抗できないまま斬首台に乗せられ、首を固定された。
「この罪人に死を」
(やめろー)
護人が心の中でそう叫ぶ中、ついに処刑人が振りかぶった斧によって護人の首がはねられたのだった。
くそぅ、ふざけやがって、恨んでやる。憎んでやる。あいつら、ぜってぇゆるさねぇ。許さねぇーぞー
護人の憎しみは強くもはやあふれ始めていた。